第62回②「Strawberry Fields Forever」(1967)/Beatles | 柑橘スローライフ

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(①はこちら)是非こちらからご覧ください。



(以下は大変細かい内容になっているため、特にお好きな方だけご覧ください)

ビートルズの1967年の楽曲、「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」です。

【ヴァ―ス(サビともいえる)】
イントロの最後は、明らかにトニック(主和音=この曲においては「A」)
に帰結した流れになってはいるのですが、
実際のメロトロンのバス音の最終音は「C♯」です。
これはヴァ―ス初めのトニックのA音(低音のメロトロン)を際立たせるための
一時退避といったところだと思います。

そして、リンゴ・スターの被せ気味のドラムスのフィルインとともに、
Let me take you down cause I'm going とジョンの歌が始まり、
トニックの「A」でヴァ―スが動き出します。

しかし、この先が問題となってきます。

イントロは、こまかな和声とはいえ、基本的にドミナントモーションの細分化という、
極めてダイアトニック的な同一調性範囲内であったわけですが、
このヴァ―スでは、イントロ以上にディグリーでは表現できない状態となります。
とり急ぎ、コードチャートで表記すると、
(丸数字は小節です)

①②A ③④Em ⑤⑥E♭m7/F ⑦D→F♯7 ⑧F♯7(2/4拍子) ⑨D(6/8拍子) ⑩A

実はプロデューサーのジョージ・マーティンが②小節の「I'mとgoingの間」で、
もともとピッチの異なるテイクを繋ぎ合わせたと言われています。
しかし、そのあたりの編集・加工をあまり考えず、
今ある楽曲の状態だけを客観的に見ていきたいと思います。

さて、トニックの「A」の二小節が終わると「Em」となります。
これはもちろんAキー上には構成されないコードですが、
捉え方としては比較的単純に、ドミナントがマイナー変化した、
ということで(実際にはEmトニックへの一時転調ですが)、
ジョン・レノンの得意とする調性内コードのマイナー変化です。

続けて「E♭m7/F」。
これは基本的にはEmからの半音下降のパラレルモーションを主とした、
半音の持つ導音的な機能性を利用したもので、
楽譜などに表記する場合は、臨時記号扱いですが、
これもAキー上には構成されないので、実際には一時転調です。
ポール作曲の「Here,There And Everywhere」などでも見られ、
経過進行的な和音を長めに使っているところがポイントと言えます。

そして今度は、nothing to get hung aboutの「getとhung」の間で、
F♯への一時転調がスケール変化とともに明確に起こりますが、
すぐに、6拍子への変化を利用し、強引にAキーのサブドミナントの
「D」(⑨の場面)からトニックの「A」(⑩の場面)に収束させています。

ちなみに、イントロ後のこの部分を「ヴァ―ス」と便宜上しましたが、
Strawberry Fields~と歌うタイトルコールがあるので、
この部分をサビとする見方もできます。

【サビ】
サビの進行は、初めは冒頭のイントロと同じような流れで進みますが、
その後に非常に堅牢で滑らかな和声変化がどこまでも進んでいき、
とても素晴らしい和声の流れを体験できます。

全体のコードチャートは、
①E → G♯m/E♭ ②G♯dim/D → D → Ddim
③F♯m → F♯m/E ④D → D/C♯
⑤(D)→E ⑥A → A/G♯ → F♯m → F♯m/E
⑦D → E ⑧D → A → A/E → A/C♯

筆舌し難いほどの濃厚感、そして、素晴らしい変化のある流れ。

①②の部分は基本的にイントロのはじめの①②の部分と同じで、
「半音下降のクリシェ」による進行です。
そして②の終わりで、リンゴ・スターの的確なフィルインが入ります。

そして、③ではⅥ(6)の和音であるF♯mに動いたように見せて、
ごく自然に「平行調」に突然一時転調します。
Misunderstanding~の「Mis」という部分の一拍前が始まりです。
つまり、AメジャーキーからF♯mキーへの近親調転調。
ここで聴感的にぐっと引き込まれるような感覚になるはずです。

そして、④小節の「D」がピボットコード(共通コード)となり、
⑤小節でAキーに滑らかに早くも復調します。
It's gettig hard~の「It's」の部分で戻ります。
つまりF♯mキーのⅥの和音の「D」がそのままAキーのサブドミナント(Ⅳ)に
お化けのようにそのまま自然に戻っているわけです。
ここの転調テクニックは、他の部分の和声的な細密さとは異なる、
コードの引き延ばしによっており、それが⑤に括弧で表した「D」です。
この辺り、まさにジョン・レノンやビートルズならではの
「感覚的な一時転調の冴え」と言えます。

そして、ここからさらに⑥⑦小節で、これ以上ないと言える、
堅牢かつ流麗な和声変化がもたらされます。
つまり、和音がⅠ→Ⅵ→Ⅳ(1・6・4)と変化する中で、
バス音は規則的にAからDまで、1・7・6・5・4と、
一つずつ全音下降していくわけです。

サビの最後は、ドミナントを終始意識し、
サブドミナントを最大活用しながら、Ⅳ→Ⅴ→Ⅳ→Ⅰ(4・5・4・1)の流れで、
見事にトニックに収束させていきます。

このサビも基本的にはドミナントモーションの拡張形といえますが、
平行調への一時転調などを挟み込んでいるために、
実に流暢で変化感のある和声と言えると思います。
特に⑥小節の凝縮感は大変素晴らしく「大サビの部分」と言え、
非常に見事な流れだと思います。
楽器のある方は是非このコードチャートをなぞって頂きたいです。

【歌詞と和声のシンクロ】
サビの部分で意外な事に気づきました。
長調(Aキー)から短調(F♯mキー)、そして長調(Aキー)に戻る流れは、
歌詞の内容に雰囲気が合わせられているのかもしれないということです。

長調で、「Living is easy with eyes closed」と歌い始める部分は、
「人生なんて容易いさ、目を閉じれば」という能天気さが強調されています。

しかし、続く突然の短調への転調では、「misunderstanding all you see」
「君の見ているものなんて全て誤解だからさ」という厳しい現実を突きつけます。

そして、またすぐに長調に復調すると、
「It's getting hard to be someone but it all works out」
「ひとかどの者になるのは難しいけど 意外となんとかなるものさ」
というように、希望的な言葉をつなぐのですが、

「It doesn't matter much to me」
「まあ、俺にはあんまり関係ないけど」とトニックに無事収束して、
ハッピーに終わったと思わせながら、当時のニヒルなジョン・レノンらしく、
「俺には関係ねぇ」と突き放しています。

というように、長調では「希望」を、短調では「現実」を、
瞬間的ですが、表しているように感じられました。
また、最後の「俺には関係ねぇ」は、穿った見方をすれば、
「ひとかどの者」になった自分を見れば判るというような意味を
照れ隠しのように、わざと反対的な表現をしているのかもしれません。

「俺を見ればわかるだろ」
これが本来言いたかったことかもしれません。
とすれば、ここでもやはり「希望」が表現されているわけです。
(ジョン・レノンはworking classからカリスマになったわけですから)

〈追記 11/17〉
It doesn't matter much to me の部分の訳は、
「関係ない」と突き放しているのではなく、もしかすると、
「俺にはたいしたことではなかったが」
と言う感じで、「ひとかどの者」になるのはたやすかった、
というようなことを言っているのかもしれません。

【サウンド面】
演奏面では、冒頭のフルートなどのメロトロンによる演出や
実際にチェロやトランペットなどの管弦楽器が使用されていて、
アレンジや演奏、そしてサウンド的な位相も独創的です。
様々なソノリティが万華鏡のように次から次へと出てきます。

また、サビに入る前のブリッジや最後のほうに裏ノリで出てくる、
艶やかな弦楽器の演奏は、ジョージ・ハリスンの演奏による
「ソードマンデル」という楽器のようです。
控え目ながらも、とてもいい役割をしていると思います。

一般的にこの曲は、サイケデリックな曲調という観点で捉えられることが多いですが、
こうした観点で捉えると、この曲の「真の魅力」が見落とされ、
見当違いになる可能性があるため、私的にはその辺り、深堀りしないことにしました。
まさにジョンの云う「misunderstanding all you see」の状態を避けるためです。

【全体】
この曲の「真の魅力」は、「和声的な構築性の高さ」と云えます。
ビートルズの最大の持ち味はやはりこの構築性でしょう。
そんな持ち味をまざまざと見せつけてくれる楽曲の一つが、
この「Strawberry Fields Forever」なのだと思います。

この曲で最大的に発揮されたダイアトニックスケール進行の極限化と
様々な一時転調の挿入等からもたらされる調性感の不明瞭化による進行の斬新さ、
或いは、2拍子や6拍子などの挟み込みによる拍節数の一般的な規則からの脱却などが、
音楽に途方もない立体的な深みといつまでも飽きることの無い新鮮さを生み続け、
まさにビートルズならではの独創的な音楽性が体現されていると言えます。

一般的にジョン・レノンの曲は、ストレートでシンプルと思われていると感じますが、
それはあくまで一面であり、むしろこの曲のように非常に構築性の高い曲が多いのです。
こうした多面性がジョン・レノンの凄さであり、
ポール・マッカートニーにおけるシンプルなロックの凄味と似ていると思います。

つまり、レノン=マッカートニーという強力な作曲家コンビは、
それぞれ得意な分野を対照的に持ちつつも、
それぞれがその反対の事をやっても凄いことができたわけです。
だから無敵と云っていいコンビだったのだと思います。

次回はこの曲の対曲ともいえる、
ポール・マッカートニー作曲の「Penny Lane」です。

【記事後記】
コードチャートをはじめとして、記事全体は、
ああでもないこうでもないと何度も書き直しをしていますので、
ミスタイプやうっかりミス、また変な文章があるかもしれません。
内容的不備は見つけ次第遂次修正します。
そして、個人的に関心のある和声的分析が主体となり、
旋律面、詩作面などが疎かとなっていますので、
別の機会があればそれらはまた書きたいと思います。
また、サビの分析は比較的しっかりできたと思いますが、
ヴァ―ス部の分析が自己判断で、かなり「ぬる過ぎ」のため、
別の機会があれば、もっとしっかり分析したいと思っています。


第63回①「Penny Lane」(1967)/The Beatles



ロック名曲百選/過去記事一覧

★第1章「ロック名曲・アトランダム編」
第1回「Sexy Sadie」(1968)/The Beatles
第2回「Ask Me Why」(1963)/The Beatles
第3回「Epitaph」(1969)/King Crimson
第4回「Speak To Me~Breath」(1973)/Pink Floyd
第5回「You Never Give Me Your Money」(1969)/The Beatles
第6回「Achilles Last Stand」(1976)/Led Zeppelin
第7回「Babylon Sisters」(1980)/Steely Dan
第8回「What A Fool Believes」(1978)/The Doobie Brothers
第9回「New Kid In Town」(1976)/Eagles
第10回「Your Mother Should Know」(1967)/The Beatles
第11回「Take It Away」(1982)/Paul McCartney
第12回「Pretty Maids All In A Row」(1976)/Eagles
第13回「I'm Not In Love」(1975)/10CC
第14回「A Whiter Shade Of Pale」(1967)/Procol Harum
第15回「Give Me Strength」(1974)/Eric Clapton
第16回「We Are The Champions」(1977)/Queen
第17回「Honky Tonk Women」(1969)/The Rolling Stones
第18回「Miss You」(1978)/The Rolling Stones
第19回「My Ever Changing Moods」(1984)/The Style Council
第20回「Hey Bulldog」(1968)/The Beatles
第21回「Here Today」(1982)/Paul McCartney
第22回「Alone Again(Naturally)」(1972)/Gilbert O'Sullivant
第23回「Good Night」(1968)/The Beatles
第24回「The Nightfly」(1982)/Donald Fagen
第25回「It's Too Late」(1971)/Carole King
第26回「Happy Xmas」(1971)/John Lennon
第27回「Better Make It Through Today」(1975)/Eric Clapton
第28回「Tell Her About It」(1983)/Billy Joel
第29回「Don't Look Back」(1978)/Boston
第30回「Don't Stop The Dance」(1985)/Bryan Ferry
第31回「Eggplant」(1975)/Michael Franks
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第33回「Everybody Needs Love」(1978)/Stephen Bishop
第34回「Born To Be Wild」(1968)/Steppenwolf
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第36回「Come On Eileen(1982)/Dexys Midnight Runners
第37回「Alive Again」(1978)/Chicago
第38回「Roxanne」(1978)/The Police
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★第2章「ロック名曲・ロックのルーツ編」
第40回「Rock Around The Clock」(1954)/Bill Haley & His Comets
第41回「Johnny B Goode」(1958)/Chuck Berry
第42回「Rock And Roll Music」(1957)/Chuck Berry
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★第3章「ロック名曲・ロックの確立期編」
第50回「Please Please Me」(1963)/The Beatles
第51回「This Boy」(1963)/The Beatles
第52回「All My Loving」(1963)/The Beatles
第53回「Tell Me」(1964)/The Rolling Stones
第54回「Blowin' In The Wind」(1963)/Bob Dylan
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第56回「Help」(1965)/The Beatles
第57回「Here,There And Everywhere」(1966)/The Beatles
第58回「Paint It,Black」(1966)/The Rolling Stones
第59回「You Really Got Me」(1964)/The Kinks
第60回「I Get Around」(1964)/The Beach Boys
第61回「Sunshine Of Your Love」(1967)/Cream
第62回①「Strawberry Fields Forever」(1967)/The Beatles






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