第52回「All My Loving」(1963)/The Beatles | 柑橘スローライフ

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前回の「This Boy」において、
ビートルズの「ファンダメンタルな魅力」に触れましたが、
その最も重要なものの一つが、「ポピュラー音楽史上最も成功した作曲家」として、
ギネスブックにも認定された、ポール・マッカートニーという、
完全無比なアーティストの能力の魅力だと思っています。

ポール・マッカートニーは作曲・編曲・作詞はもとより、
歌唱の自在な巧みさと声域の広さ、また楽器演奏はドラムスまでをもこなす、
多種多彩なマルチプレーヤーであり、音楽的なバックボーンは、
R&Bやソウル、ブルースやカントリーはもとより、
クラシックやジャズなどにもいたっていたと思われます。
また、90年代にはクラシック分野にも創作の歩を進め、
オラトリオや交響詩のスコアの作曲や指揮なども行っています。

ジョン・レノンというアーティストが、天才的で感覚型の芸術家肌だとすると、
ポール・マッカートニーというアーティストは、天才的な資質は当然あるものの、
むしろ秀才的で、完全無欠なアルチザンというような職人肌なのだと思います。

ビートルズが生み出す音楽の重要な土台は、
このポール・マッカートニーという存在があるがために完成していた、
といっても全く言い過ぎではないと思います。
作曲ということだけではなく、しっかりとした高低自在なハーモニーサポート、
ギターのコードブログレッションでは表現しきれない器楽的和声を理解し、
巧みに音を埋めていくベーステクニック。4和音の6thや7th、
あるいはテンションをベースで表現したり、時には旋律のようなベースラインを
トレースするような、常人には不可能なセンスと技術を持っていたと言えます。

サウンドデザインを全体的にしっかり構築していく能力は天才的と言え、
ジョンやジョージの作品においても、ポールによる様々な音楽的サポートが、
作品を珠玉なものまでに高める重要な役割をしていたと言えると思います。

そんなポール・マッカートニーの秀でた創作能力がごく初期に発揮されたのがこの作品。
1963年「All My Loving/オール・マイ・ラヴィング」です。



こうした曲を聞くと、このほんの5年程前のロック黎明期とは隔世の感すら覚えます。
あまりにも飛躍的に、現代的かつ高度な音楽性になっているからです。
この曲に限っていえば、オリジンはわかりづらく、まさに「独創」と言え、
これこそ、ビートルズの「飛躍的な独創力」ということが言えるのではと思います。

一方、ビートルズのレコードセールスの上で、常々驚かされることがあります。
それは、この「All My Loving」のような優秀でキャッチーな作品でも、
ビートルズの場合は、平気でシングル盤にしなかったという事実です。
この曲もアルバム収録曲のひとつに過ぎないのです。
それは「イエスタディ」や「ミッシェル」といった、初期のポールの作品では
よくあったことです。

このあたりは「もうひとりのヒットメイカー」であるジョン・レノンとの
熾烈なシングル争いとヒエラルキーの結果ということが大きかったのではと思います。
初期から中期にかけては、ジョン・レノン主導のシングル、
中期から後期にかけでは、ポール・マッカートニー主導のシングルという流れです。
この2人は、2歳年齢が離れており、20代前半にあっては、
この年齢差は結構大きかったのだろうと思います。

さて、ビートルズの「飛躍的な独創力」の一端はどんな感じなのか。
可能な限り、細かく見ていきたいと思います。

【ヴァ―ス】
ビートルズによくある、イントロ無しでいきなりヴォーカルから始まるパターン。
(Can't Buy Me Loveとか、Girlとか、No Replyとか)
楽器の和声(コード進行)をコードネームとディグリーネームで表すと、

1番8小節、①F♯m→②B→③E→④C♯m→⑤A→⑥F♯m→⑦D→⑧B
(Ⅱm→Ⅴ→Ⅰ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅱm→D→Ⅴ)(2・5・1・6・4・2・D・5)
2番8小節、①F♯m→②B→③E→④C♯m→⑤A→⑥B→⑦E→⑧E
(Ⅱm→Ⅴ→Ⅰ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅱm→D→Ⅴ)(2・5・1・6・4・2・1・1)

1小節1コードのかっしりとした循環的なコード進行。
キーが「E」なので、「D」はキー内に構成されないため、
ディグリーネームでは、そのままのコードネームの表記としました。

冒頭から、いきなり「2→5→1」の典型的な「ツーファイブ」で始まり、
強進行を基本とした、ダイアトニックスケールコードを調性内で最大限に
活用しているような進行で、現代では「王道」と言えるような進行だと思います。
ツーファイブや強進行というものは、非常に快活で躍動性があり、
一般的には、心躍らすような効果のある進行です。

しかし、1963年というこの時代のロックのトレンドの中で、
こういったはっきり明確な強進行の曲というのは殆ど無かったのではと思います。
ロックがほとんど典型的なブルース進行で作られていた時代です。

確かに「ロックの祖」といえるチャック・ベリーにおいて、ごく初期の内に、
ツーファイブの萌芽は見られますが、これほどに明確な曲は無かったと思います。
そういう意味では、ビートルズによって、ロックが開放的で現代的なイメージを
持つものとして脚光を浴びることになった、そんな象徴的な曲とも言えそうです。

ちなみに、1番の⑦の「D」を分析すると、Ⅱmの派生的な繋がりのコードで、
あえてディグリーで表すと、「Ⅱm♯5」となると思いますが、
ここでの「D」の配置は、前のF♯mの「第5音」が半音上昇スライドして「D」に、
そして、続く「B」の第3音の「D♯」にまた半音上昇スライドするという、
C♯→D→D♯の半音上昇のスリリングなシーケンスを演出するためのものであった
のだろうと判断しました。後ほど、今度は半音下降スライドがサビに出てきます。

演奏面では、何と言ってもジョン・レノンのギターによる3連のコードストロークが
印象的です。これだけを聴いた場合、リズムは12/8とも理解できますが、
ベースは典型的な4拍子のランニング。ドラムスはハイハットをオープン気味にした
リンゴ・スターお得意のシャッフル気味のリズムキープとなっており、
4拍子系の様々なビート感が混在し、ビートルズらしい不思議な雰囲気になっています。

また、ポールのヴォーカルは、ヴァ―スではユニゾンのダブルトラックで、
間奏後の最後のヴァ―スでは3度上のハーモニーとしているようです。
しかし、サビのリードは、ポールはシングルとなり、コーラスがマルチパートになるので、
そちらの上のパートに回っているのかなとも思われますが、
ポールはコーラスには入っていないようにも聞こえます。

【サビ】
実によく練られたサビ(ミドルエイト)だと感心します。

楽器進行は最初4小節、C♯m→Caug→E→E(Ⅵ→Caug→Ⅰ→Ⅰ)(6・Caug・1・1)
と進みますが、ここのポイントはズバリ「C♯→C→B」と進む半音下降スライドです。
つまり、C♯mのルート→Caugのルート→Eの5thという流れです。
Caugの増音程にはそれほど意味は無く、ここで欲しいのはC音だったわけです。
ですので、ここでの流れは、クリシェに近いものともいえます。

そして実は、この「C♯→C→B」の半音下降する音取りは、
バッキングコーラスのコーラスパートの一つでもあります。
コーラスは3声だと思い込んでいたのですが、どうも4声のような感じで、
ジョンとジョージ(2声)×2回(4声)ではないのかなと思ってきました。

ジョージと思われる下のパートは、「E」のペダルポイント。
ジョンと思われる中下のパートは、「G♯」のこれまたペダルポイント。
そして、ジョージと思われる上から二番目が、上述の「C♯→C→B」の流れ。
更に、一番上としてジョンと思われる「G♯」のペダルポイント。
「下/中下/中上/上」で、ハーモニーを摸式化すると、
「E/G♯/C♯/G♯」→「E/G♯/C/G♯」→「E/G♯/B/G♯」といった感じでしょうか。
ライブにおいては二声のため、上記の「中上」と「上」で、
コーラスをつけているように聞こえましたが、どうでしょうか。
(ここのハーモニー構成は聴きとり難く、もう少し分析します。後日修正します)

中上と中下の二人の音程は、完全4度→長3度→短3度と半音づつ詰まっていきます。
和音の転回を利用し、楽器の和声とハーモナイズさせた巧みな仕掛けです。
しかし、ここの四声と思われる声の主は、残念ながら明確には判別できませんでした。
でも、ここのバッキングコーラス、とても格好いいと思います。

ヴァ―ス、サビともに終わりをトニック(主和音)に持ってくる作曲パターンは、
ジョン・レノンとは違い、コンサバティブな印象を与えますが、
実に端正で、隙のない楽曲構造だと思います。
しかし、これは、ビートルズという底知れぬ魅力のほんの一端に過ぎません。

第53回「Tell Me」(1964)/The Rolling Stones


※楽曲分析は、独自のもののため誤りがある可能性があります。
後日ゆっくり丁寧に検証し、誤りは修正していきますので、ご了承ください。



ロック名曲百選/過去記事一覧

★第1章「ロック名曲・アトランダム編」
第1回「Sexy Sadie」(1968)/The Beatles
第2回「Ask Me Why」(1963)/The Beatles
第3回「Epitaph」(1969)/King Crimson
第4回「Speak To Me~Breath」(1973)/Pink Floyd
第5回「You Never Give Me Your Money」(1969)/The Beatles
第6回「Achilles Last Stand」(1976)/Led Zeppelin
第7回「Babylon Sisters」(1980)/Steely Dan
第8回「What A Fool Believes」(1978)/The Doobie Brothers
第9回「New Kid In Town」(1976)/Eagles
第10回「Your Mother Should Know」(1967)/The Beatles
第11回「Take It Away」(1982)/Paul McCartney
第12回「Pretty Maids All In A Row」(1976)/Eagles
第13回「I'm Not In Love」(1975)/10CC
第14回「A Whiter Shade Of Pale」(1967)/Procol Harum
第15回「Give Me Strength」(1974)/Eric Clapton
第16回「We Are The Champions」(1977)/Queen
第17回「Honky Tonk Women」(1969)/The Rolling Stones
第18回「Miss You」(1978)/The Rolling Stones
第19回「My Ever Changing Moods」(1984)/The Style Council
第20回「Hey Bulldog」(1968)/The Beatles
第21回「Here Today」(1982)/Paul McCartney
第22回「Alone Again(Naturally)」(1972)/Gilbert O'Sullivant
第23回「Good Night」(1968)/The Beatles
第24回「The Nightfly」(1982)/Donald Fagen
第25回「It's Too Late」(1971)/Carole King
第26回「Happy Xmas」(1971)/John Lennon
第27回「Better Make It Through Today」(1975)/Eric Clapton
第28回「Tell Her About It」(1983)/Billy Joel
第29回「Don't Look Back」(1978)/Boston
第30回「Don't Stop The Dance」(1985)/Bryan Ferry
第31回「Eggplant」(1975)/Michael Franks
第32回「Words」(1982)/Bobby Caldwell
第33回「Everybody Needs Love」(1978)/Stephen Bishop
第34回「Born To Be Wild」(1968)/Steppenwolf
第35回「I Keep Forgettin'」(1982)/Michael McDonald
第36回「Come On Eileen(1982)/Dexys Midnight Runners
第37回「Alive Again」(1978)/Chicago
第38回「Roxanne」(1978)/The Police
第39回「How Deep Is Your Love」(1977)/Bee Gees
★第2章「ロック名曲・ロックの創始期編」
第40回「Rock Around The Clock」(1954)/Bill Haley & His Comets
第41回「Johnny B Goode」(1958)/Chuck Berry
第42回「Rock And Roll Music」(1957)/Chuck Berry
第43回「Long Tall Sally」(1956)/Little Richard
第44回「Heartbreak Hotel」(1956)/Elvis Presley
第45回「Blue Suede Shoes」(1956)/Carl Perkins
第46回「Peggy Sue」(1957)/Buddy Holly
第47回「Slow Down」(1958)/Lally Williams
第48回「Only The Lonely」(1960)/Roy Orbison
第49回「Wake Up Little Susie(1957)/Everly Brothers
★第3章「ロック名曲・ロックの確立期編」
第50回「Please Please Me」(1963)/The Beatles
第51回「This Boy」(1963)/The Beatles



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