第49回「Wake Up Little Susie」(1957)/Everly Brothers | 柑橘スローライフ

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過去記事に対してのコメント・ご質問等は大歓迎です。

第40回以降、ロックのルーツや創始期・黎明期の音楽に触れてきましたが、
そのあたりの音楽は、今回で最後とします。

この時期で、触れることができなかったアーティストはまだまだ沢山います。
すぐに思い浮かべられるだけでも、エディ・コクラン、クリフ・リチャード、
デル・シャノン、トニー・シェリダン等々。

そして、ロック系のアーティストよりも、R&Bやカントリー系のアーティストのほうが、
のちに続く広がりのあるロック音楽への直接的な影響が実は大きかったりしますので、
例外的ですが、どうしてもラストに一組のアーティストに触れておきたくなりました。
それはカントリー系の「Everly Brothers/エヴァリー・ブラザーズ」です。

彼らの代表曲の一つ、1957年の「Wake Up Little Susie」です。



正直、「格好いい」です。
勿論、「格好いい」というのは感覚的な事に過ぎませんが。
兄弟ならではのピッチの良さと一体感のある声質。
ソフトなリーゼントと端正な顔立ち。センスの良いコードストローク。
そして、何と言っても楽曲としてのまとまりの良さ。

彼らを見て、レノン&マッカートニーやサイモン&ガーファンクルを連想したら、
それはまさに正解です(S&Gはこの曲のカヴァーもあります)。
ビートルズなど、後の良質なロックの持つ格好いいハーモニーは、
ストレートにエヴァリー・ブラザーズから引き継いでいると言っても、
決して過言では無いと思います。
エヴァリー・ブラザーズからの影響は、彼等自身が認めていることですし、
ポール・マッカートニーもかなり強い影響を受けたことを話しています。
ビートルズの持つ複雑な音楽性の秘密は、
こうした様々な分野の音楽からの吸収ということが大きいと言えます。

さて、エヴァリー・ブラザーズの「格好いい」は、
音楽的にはどんなところと言えるのでしょうか。
私なりにいくつか考えてみました。

まずハーモニーのピッチです。ピッチとは音程(音の調和)のことですが、
この曲に関しては、二人の音程は概ね一般的な3度が主体のようですが、
聴感上はピタッとねっとりした音程で、「格好良さ」の要因の一つと思います。
それは、単純に音程感覚の良さということだけでなく、
兄弟ならではの声の親和性ということが大きいと思います。

このような、全く同じ歌詞を近い音程で歌う軽音楽においてのスタイルは、
「クロース・ハーモニー」といい、1940年代のカントリー音楽で生まれたもの。
エヴァリー・ブラザーズは50年代後半にそれを洗練化させ確立し、
60年代になって、ビートルズやビーチ・ボーイズなどが継承したという流れです。

レノン&マッカートニーの場合は、通常は3度で、5度にたまにいったりして、
多くの場合、上をポール、下をジョンが担当するのですが、
どちらかが持続音で一定の音を継続させる「ペダルポイント」もしばしば行います。
例えばトニック(主和音)のルート(ドミナントもあるかな)を持続音とするようなパターン。
(プリーズ・プリーズ・ミーのヴァ―スなどがそうですね)
また、一時的な6度や7度、あるいは2度やユニゾンといった変則的なものも多く、
これらはエヴァリー・ブラザーズから受け継いだクロース・ハーモニーの
彼らなりの派生形・発展形とみていいと思います。

また、ビートルズの場合は、さらにジョージ・ハリスンを加えた
3パートハーモニーも多く、その場合は中間音をジョージが担当するわけですが、
これらはデュオを主体としたカントリー系の影響というよりも、
むしろソウルグループの3ないし4パートハーモニーの影響が大きいと思います。

さて、エヴァリー・ブラザーズの和声(コード進行)はどうでしょうか。
のっけのイントロから、これまでのロックの創始期の面々の曲より何故か、
ロックを感じる進行です。1957年ということを考えると革新的とも言えます。
このロックを感じるイントロのコード進行は、D→FGF→D→FGFです。
FGFの部分はコードによる瞬間的なリフのようなもので、極めてロックらしいものです。
キーは一応「D」なので、メジャースケールの中で「F」は構成されないのですが、
ここでは堂々と出てきています。

これはF→Gという長2度の平行和音の進行で、今日的なロックによくあるパターンです。
とても格好よく、ギターという楽器の特性から出来ている進行とも言えます。
無理やりな解釈としては、Ⅲの和音の「F♯m」のルートと5音目が♭しているため、
Dのメジャースケールの3rdと7thがそれぞれ♭したもの、つまりブルーノートスケールが
包含されたコードとして置かれていると考えることも可能ではあります。
そうです、カントリー系のエヴァリー・ブラザーズですが、
少なくともこの曲においては、ブルースの影響はかなりあるように感じるのです。

続けてヴァ―スですが、基本的には、Ⅳ→Ⅰ→Ⅳ→Ⅰ(4→1→4→1)といった、
サブドミナント⇔トニックの二つのコードによる反復パターン。
そして、そのふたつのコードによる反復パターンは、
そのままサビ(この曲の場合、ヴァ―スがサビとも言えます)にも引き継がれ、
今度はⅤ→Ⅳ→Ⅴ→Ⅳ(5→4→5→4)といった、
ドミナント⇔サブドミナントという非常にベタな進行になっています。
この進行は、クラシックのロマン派やイージーリスニングなどであれば、
コーダのような進行で、トニックへの戻りというドミナントモーションを活かした
フェイク的な利用、つまりトニックへ戻りたがっている進行の収縮性を利用して、
常にサブドミナントに進行するという進行です。

そして、本当のラストでは6度のハーモニーをつけています。
(進行している和音の6thの音という意味です)
正直、驚きました。ジャズ的な渋いハーモニーです。
ロックの世界では、ビートルズがパイオニアと思っていたことを、
既にエヴァリーが演っていたということをたった先ほど確認しました。

それと、ビートについても触れておかねばなりません。
イントロではロック風の8ビートなのですが、
ヴァ―スでいきなりカントリー風の4ビートにビートチャンジします。
これなどもビートルズへの影響は絶大だと思います。

全体的に、こうした様々なパターンのコードの反復やコードチェンジの仕方、
あるいは6thなどのハーモニー、画期的なビートチェンジといった、
黎明期のロックには見られない新しさが随所にあり、
後のロックへの影響力は、もしかすると、このエヴァリー・ブラザーズが一番大きいのでは、
と思うほどのものを感じます。何せこの曲、1957年という驚くべき数字の曲です。
最後に、このエヴァリー・ブラザーズに触れておいて良かったと本当に思います。

最後に余談ですが、実はこの曲の進行とキーは、
同じ1957年のバディ・ホリーのペギー・スーと似ている点があります。
ですので、和声進行的な面白さという意味では、
バディ・ホリーとも共通点があるし、もしかすると、相互影響があったのかもしれません。

50回台以降は、60年代からのビートルズなどを中心とする、
ロックの確立期に移る予定です。

第50回「Please Please Me」(1963)/The Beatles


※急いで楽曲分析をしましたので、誤っているかもしれません。
後々、ゆっくり丁寧に確認作業を致し、誤りは修正しますのでご了承ください。




ロック名曲百選/過去記事一覧

★第1章「ロック名曲・アトランダム編」
第1回「Sexy Sadie」(1968)/The Beatles
第2回「Ask Me Why」(1963)/The Beatles
第3回「Epitaph」(1969)/King Crimson
第4回「Speak To Me~Breath」(1973)/Pink Floyd
第5回「You Never Give Me Your Money」(1969)/The Beatles
第6回「Achilles Last Stand」(1976)/Led Zeppelin
第7回「Babylon Sisters」(1980)/Steely Dan
第8回「What A Fool Believes」(1978)/The Doobie Brothers
第9回「New Kid In Town」(1976)/Eagles
第10回「Your Mother Should Know」(1967)/The Beatles
第11回「Take It Away」(1982)/Paul McCartney
第12回「Pretty Maids All In A Row」(1976)/Eagles
第13回「I'm Not In Love」(1975)/10CC
第14回「A Whiter Shade Of Pale」(1967)/Procol Harum
第15回「Give Me Strength」(1974)/Eric Clapton
第16回「We Are The Champions」(1977)/Queen
第17回「Honky Tonk Women」(1969)/The Rolling Stones
第18回「Miss You」(1978)/The Rolling Stones
第19回「My Ever Changing Moods」(1984)/The Style Council
第20回「Hey Bulldog」(1968)/The Beatles
第21回「Here Today」(1982)/Paul McCartney
第22回「Alone Again(Naturally)」(1972)/Gilbert O'Sullivant
第23回「Good Night」(1968)/The Beatles
第24回「The Nightfly」(1982)/Donald Fagen
第25回「It's Too Late」(1971)/Carole King
第26回「Happy Xmas」(1971)/John Lennon
第27回「Better Make It Through Today」(1975)/Eric Clapton
第28回「Tell Her About It」(1983)/Billy Joel
第29回「Don't Look Back」(1978)/Boston
第30回「Don't Stop The Dance」(1985)/Bryan Ferry
第31回「Eggplant」(1975)/Michael Franks
第32回「Words」(1982)/Bobby Caldwell
第33回「Everybody Needs Love」(1978)/Stephen Bishop
第34回「Born To Be Wild」(1968)/Steppenwolf
第35回「I Keep Forgettin'」(1982)/Michael McDonald
第36回「Come On Eileen(1982)/Dexys Midnight Runners
第37回「Alive Again」(1978)/Chicago
第38回「Roxanne」(1978)/The Police
第39回「How Deep Is Your Love」(1977)/Bee Gees
★第2章「ロック名曲・ロックの創始期編」
第40回「Rock Around The Clock」(1954)/Bill Haley & His Comets
第41回「Johnny B Goode」(1958)/Chuck Berry
第42回「Rock And Roll Music」(1957)/Chuck Berry
第43回「Long Tall Sally」(1956)/Little Richard
第44回「Heartbreak Hotel」(1956)/Elvis Presley
第45回「Blue Suede Shoes」(1956)/Carl Perkins
第46回「Peggy Sue」(1957)/Buddy Holly
第47回「Slow Down(1958)/Lally Williams
第48回「Only The Lonely(1960)/Roy Orbison


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