第47回「Slow Down(1958)」/Larry Williams | 柑橘スローライフ

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Larry Williams/ラリー・ウィリアムズは、
R&Bやソウル色の強い、ロック黎明期の黒人シンガーソングライター。

チャック・ベリーやリトル・リチャードと比べると有名度は低いと思いますが、
白人のバディ・ホリーと並び、黒人側では最もビートルズ以降の「ロックの確立期」への
橋渡しの貢献をしたアーティストではないのかという憶測を個人的には持っていました。

果たして、本当にそうなのか。ようやく検証の機会となりました。
「Dizzy Miss Lizzy」や「Bad Boy」と並ぶ彼の代表曲である、
「Slow Down/スロー・ダウン」を通して、探ってみたいと思います。



この当時、黒人の行うロック風の音楽はことごとく「R&B」として分類されていました。
当時の白人社会は、始めの頃こそロックを危険視したものの、
やがてロックを「白人のもの」とする力が働いていたためだと思います。

しかし、1983年に創立された「ロックの殿堂」、
THE ROCK AND ROLL HAll OF FAME AND MUSEUMには、
手のひらを返したように、レイ・チャールズやサム・クックといったR&Bの重鎮。
そして、マディ・ウォーターズやB・B・キングといったブルースの巨人。
はたまた、マ-ヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーといったブラコンの確立者。
そして、なんとマイルス・デイヴィス(目茶苦茶!)といった人まで入れてしまいました。
到底、一般的観念では「ロック」とはされない黒人アーティスト達が、
「ロック」と一括りにされてしまったわけです。白人社会の御都合主義の表れです。

ラリー・ウィリアムズの曲は、チャック・ベリー(第41回)等と比べるとやはりR&B色が強いですが、
ロックといえばロックといえます(ソウルといえばソウルともいえますが)。
第40回から「ロックのルーツ」を探ってきましたが、ラリー・ウィリアムズはこれまでの
ロック黎明期のアーティストとは少しタイプの違う香りがします。
R&B色の強いアーティテストだけに、私も興味津々です。
果たして、進行や和声、楽曲構造はどうなっていたのでしょうか。

まず、進行。
この曲のキーは「D」ですが、ヴァ―スはなんとトニックのⅠ(1)一発。
そして、続くサビはⅣ→Ⅰ→Ⅴ→Ⅳ→Ⅰ(4・1・5・4・1)となっていて、基本的にブルース進行。
他の二つの代表曲である「Dizzy Miss Lizzy」や「Bad Boy」もほとんど同じような進行で、
途中、バディ・ホリーのような変わった進行(第46回)は見られません。

旋律的には、メジャースケールではなく、当然のごとくにブルーノートスケールを使っており、
Dをトニックとするスケールの中で、3rd(F♯)や7th(C#)がフラットして、各々FとCとなっており、
ヴァ―スはトニックのD一発のコードに対して、メロディとして終始「D」のルート(D音)を
主体とした、全くといっていいほどラフで単純な作りです。
しかし、サビ以降は、ややヘビーでブルージーな旋律にはなっていると感じます。

しかし、チャック・ベリー(第42回)やカール・パーキンス(第45回)とはもっと何かが違います。
その大きな「違い」は、「ヴァ―ス、サビを通して流れるリフ」と考えます。
諸先輩方は、冒頭にリフがあっても、ヴァ―スは単純なコード弾きとなる場合が多いのと比べ、
ラリー・ウィリアムズの楽曲には、全体を通して進行するリフが見られ、差別点と言えます。
この曲の場合、全体を通しては、リードギターが、
そして、イントロやブリッジではブラスセクションが、そのリフを担っています。
ただし、パイオ二ア的な試みであるので、まだ全体として脆弱でか細いものです。

「たかがリフ、されどリフ」
リフがヴォーカルの主旋律やピアノのコード弾きと同時に楽曲全体を通して流れるということは、
声部の複層化を意味し、声部が複層化すれば、当然、和声的な豊かさが生まれるとともに、
より複雑な旋律間の緊張感も生まれます。
つまり、ロック的なスリリングな「格好よさ」が生み出されることになると言えます。
そして同時に、単純なホモフォニックな構造から、ポリフォニックな構造への萌芽も感じ取れます。
そう、イントロだけではない全体を通した「リフ」の継続こそ、
ロック音楽をポリフォニック化させた構造的な重要ファクターであると言えると思います。
ここに、ビートルズ以降に連なるロック全盛期への確かな軌跡を感じ取ることができると考えます。

上のディグリーのトニック(Ⅰ)一発の長いヴァ―ス部を、
実際のコード(Dキー)に変えて、このリフを加えた状態で、半ば強引に分数コードで表記すると、
「D → D/F♯ → D/A → D/B→ D/A → D/B」といった感じになるでしょうか。
かなり強引な表記ですが、敢えて分母をリフの単音の流れとしています。

F♯とAは「D」の和音の構成音ですが、ここでは別ルートと考え、分母化して強調すると、
単純な和音構成以上の音響感が拡がり、さらにBは「D」のコードに6thが加わることを意味し、
より厚みのあるハーモナイズが、リフの継続により創りだされていることが何となく理解できます。
簡略化して考えると、この曲において、全体を通して流れるリフというものは、
特にヴァ―スのようなトニックのみの単純な場面に、構造的に「クリシェ」のような変化をつくり、
目立たないながらも、音響的な豊かさを生んでいると断言していいと思います。

こうした、音響構造上の試行こそ、ラリー・ウィリアムズの貢献と私は考えています。
もちろん、ラリーには、「音響構造上の試行」などという観念は薄く、
ブラスセクションの雰囲気などから推察すると、おそらくジャズのビッグバンドあたりの
雰囲気を再現してみようとした程度の事であろうとは思います。
(ブラスに関しては、全くのアレンジャー任せかもしれません)
しかし、白人のバディ・ホリーの「変わった和声」という試行とは別の観点で、
このラリー・ウィリアムズの「リフの試行」は、ビートルズ以降のロックの進化へのヒントを、
50年代後半という、ごくごく初期のうちに提起していたということだけは言えると思います。

ロックの父はチャック・ベリー、ロックの母はリトル・リチャード(色々な意味で)。
しかし、現代に連なるロックの、和声的な父はバディ・ホリー、
そして、音響構造的な父はラリー・ウィリアムズ。
若干強引ではありますが、私は敢えて、こんな定義をしておこうと思います。


第48回「Only The Lonely(1960)/Roy Orbison



※私の「ロック名曲百選」の原稿は、全て私個人の記憶・知識・経験則・ピアノによる検証(楽曲の実際の音階や和声、アレンジの確認など)に基づいています。書籍やWEB上からは、音源の貼付、数字や英語のスペルの確認・固有名詞や事実関係の確認、あるいは、反証対象としての楽譜の確認など、最低限のものとしております。著作権がありますが、引用は自由にして構いません。ただし、引用の際は必ずご連絡ください。




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