第44回「Heartbreak Hotel」(1956)/Elvis Presley | 柑橘スローライフ

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白人系で「ロックの創始者」という異名を冠せられているのは、
Elvis Presley/エルヴィス・プレスリーということになる。

私のこの「ロック名曲100選」は、基本的に作曲者についての話をしているが、
プレスリーは、いわゆる「歌手」であり、多くの曲を作曲していない。
よって今回は唯一の例外曲となる。

いくつかある代表曲の中から、
1956年のヒット曲である「Heartbreak Hotel/ハートブレイクホテル」。



音楽全般に渡り、ジャンルの制約なしに好む私ではあるが、
実のところ、私の中で、プレスリーに興味を持ったことは殆どなかった。
それは何故だったのだろうか。
自分自身の反芻として、「プレスリー観」のようなものを書こうと思う。
若干辛口かもしれないが、ご了承ください。

まず、大きな要因として世代格差がある。
私が洋楽を聴き始めたのは、70年代後半からであり、
既にビートルズはとっくに解散し、プレスリーも晩年であった。

プレスリーの話として、当時(76~77年)報道などでよく伝え聞いていたのは、
好物のドーナツを食べて激太りし、見るも無残な容姿で、
体重は100Kgを超えているといった類の事ばかり。
まさに「ドーナツ =プレスリー」というほど、この印象は強烈であった。
これは、今にして思えば、M・ジャクソンの晩年の奇行癖のような話と似ている。
つまり、栄華を極めた人間の「斜陽の晩年」といったような、ありがちな話である。

そんな風聞ばかりの中では、興味が喚起されるはずもなく、
間もなく、プレスリーは他界(77年)した。
ここで、全くと言っていいほど接点が無くなってしまったわけである。
その後、ロックの世界ではビートルズに傾倒し、
個人的には、ビートルズとプレスリーの音楽に共通項を感じることは無かった。
たとえビートルズ自身による「プレスリーの影響」についての言及に接しようが、
実質的には、その音楽的な影響というものは微塵も感じられなかったのである。

ここから本題です。
「ロックアーティスト」の歴史的な奔流は、
チャック・ベリー、リトル・リチャード、カール・パーキンス、バディ・ホリ―、
そして、ビートルズ、ストーンズ、クラプトン、フロイド、ツェッぺリンという流れであり、
この流れの中に、プレスリーは関係しないというのが、現在の私の見解である。
後年のアーティストが語る「プレスリーの影響」は、
主にパフォーマンス性やエンターテイメント性であると思う。

ビング・クロスビー、シナトラ、プレスリー、二-ル・セダカ、ポール・アンカ、
むしろ、こうしたビッグシンガーやエンターティナーというショービジネスの流れの中で、
プレスリーという人間に関しては捉えるべきである。

(※ニール・セダカとポール・アンカに関してはショービジネスではありますが、
シンガーソングライターのパイオニアであるので、若干誤解をしておりました。
ここに追記の上、訂正いたします。17.12.10)

彼の晩年である70年代後半という、ロックが生まれてまだ20年余という時代においては、
プレスリーの位置づけをシンガーというより「ロックアーティスト」と見ることもできたが、
ロックが生まれて60周年となる現在、プレスリーという人のロックカルチャーの中での位置づけを
もう一度、見直す時期になっているのではないかと思うのである。

本来、黒人系のブルースやR&Bに起源を持つ「ロック」というものは、
その成り立ちを考えると、反体制的なものなのである。
つまり、ボトム層やワーキングクラスが抑圧的なものからの解放を訴求するような類のもの。
ロックの黎明期においては、とりわけそれが顕著だったはずである。

しかし、そこにヒルビリー(白人系のロック起源)系統が絡んでくるからややこしくなる。
ヒルビリー系のビル・ヘイリーやプレスリーは保守系の白人であり、体制派である。
当然ながら、ベトナム戦争の賛成派(ビル・ヘイリーに関しては知らないが)である。
そもそも、プレスリーには「ロック」を通して訴求したかったモチベーションはあったのだろうか。
本来的なロックの成り立ちから考えれば、彼の出自を考慮すると「無い」はずである。
そこにあったのは、おそらくビジネス的なモチベーションだったのではないだろうか。

私はプレスリーとリトル・リチャードを始めとした黎明期の黒人ロックアーティストや
R&Bアーティストとの関係性に非常に関心がある。
プレスリーはリトル・リチャードらの一挙手一投足を常に注視し、
当時の人種隔離的な社会環境をうまく利用し、取り巻きの作家陣とのチーム運営を通して、
プラジアリズムに近い事を繰り返していたのではないのだろうか。
彼の初期の音楽に触れる度に、構造的な類似性が顕著だと感じるからである。
つまり「剽窃のロックンローラ-」。これが、一つ目の私のプレスリー観である。

プレスリーは、パフォーマーであり、シンガーであり、エンターテイナーであり、
ムービースターであり、アクターである。それらの全ての前に「偉大なる」という冠詞が入る。
これは逆立ちしても変わらない歴史的な事実であるし、
私自身、これ以上のカリスマ性を持っている芸能人は珍しいと思っている。
そういう意味では、ビートルズでさえ、太刀打ちはできない。
ビートルズなどは、ステージ上で少しの踊りすらなく、ただ淡々と演奏するだけである。

しかし、プレスリーは、現代的な意味合いでの「ロックアーティスト」とは言えないだろう。

プレスリーにとっての「ロックンロール」とは、
彼が行うパフォーマンスとアクトの上で、最大の効果を発揮できる「一番の素材」であっただけで、
プレスリーは、決して創作者という意味での「ロックアーティスト」なのではなく、
「偉大なるロックンローラーという大きな虚像」を生涯に渡って演じ続けた、
「パフォーマンスとしてのロックアーティスト」だったのではないか。
これが二つ目の私のプレスリー観である。

デ・二ーロなどの偉大なアクターが、映画の役柄そのものになってしまうことがあるが、
プレスリーは、「人生」というおそろしいまでの長編映画に、
「偉大なロックンローラ-」という役回りで演技をし続けたアクターなのだと思う。
そう、「ロックンローラ-」なのではなく、
「ロックンローラ-」を演じた超一流のパフォーマー。これが実相だろう。

そして、プレスリーはジョン・レノンを生涯に渡り、執拗に嫌い続けた。
この事実に、プレスリーの「真の姿」が、もしかすると隠されているのではないかと思う。
つまり、「本物のロックンローラ-」に自らが演じ続けてきたパフォーマンスを
見透かされたかもしれないと感じ、大きな不安に覆われたからであろうと推測している。

プレスリーに関しては、ジョン・レノンとの関係性・相対性の中で、
また別の機会に記事としてまとめてみようと思っています。

第45回「Blue Suede Shoes」(1956)/Carl Perkins



ロック名曲百選/過去記事一覧

第1回「Sexy Sadie」(1968)/The Beatles
第2回「Ask Me Why」(1963)/The Beatles
第3回「Epitaph」(1969)/King Crimson
第4回「Speak To Me~Breath」(1973)/Pink Floyd
第5回「You Never Give Me Your Money」(1969)/The Beatles
第6回「Achilles Last Stand」(1976)/Led Zeppelin
第7回「Babylon Sisters」(1980)/Steely Dan
第8回「What A Fool Believes」(1978)/The Doobie Brothers
第9回「New Kid In Town」(1976)/Eagles
第10回「Your Mother Should Know」(1967)/The Beatles
第11回「Take It Away」(1982)/Paul McCartney
第12回「Pretty Maids All In A Row」(1976)/Eagles
第13回「I'm Not In Love」(1975)/10CC
第14回「A Whiter Shade Of Pale」(1967)/Procol Harum
第15回「Give Me Strength」(1974)/Eric Clapton
第16回「We Are The Champions」(1977)/Queen
第17回「Honky Tonk Women」(1969)/The Rolling Stones
第18回「Miss You」(1978)/The Rolling Stones
第19回「My Ever Changing Moods」(1984)/The Style Council
第20回「Hey Bulldog」(1968)/The Beatles
第21回「Here Today」(1982)/Paul McCartney
第22回「Alone Again(Naturally)」(1972)/Gilbert O'Sullivant
第23回「Good Night」(1968)/The Beatles
第24回「The Nightfly」(1982)/Donald Fagen
第25回「It's Too Late」(1971)/Carole King
第26回「Happy Xmas」(1971)/John Lennon
第27回「Better Make It Through Today」(1975)/Eric Clapton
第28回「Tell Her About It」(1983)/Billy Joel
第29回「Don't Look Back」(1978)/Boston
第30回「Don't Stop The Dance」(1985)/Bryan Ferry
第31回「Eggplant」(1975)/Michael Franks
第32回「Words」(1982)/Bobby Caldwell
第33回「Everybody Needs Love」(1978)/Stephen Bishop
第34回「Born To Be Wild」(1968)/Steppenwolf
第35回「I Keep Forgettin'」(1982)/Michael McDonald
第36回「Come On Eileen(1982)/Dexys Midnight Runners
第37回「Alive Again」(1978)/Chicago
第38回「Roxanne」(1978)/The Police
第39回「How Deep Is Your Love」(1977)/Bee Gees
第40回「Rock Around The Clock」(1954)/Bill Haley & His Comets
第41回「Johnny B Goode」(1958)/Chuck Berry
第42回「Rock And Roll Music」(1957)/Chuck Berry
第43回「Long Tall Sally」(1956)/Little Richard


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