第48回「Only The Lonely(1960)」/Roy Orbison | 柑橘スローライフ

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1950年代中盤から58年あたりまでを「ロックの黎明期」とすると、
そこから、1962年のビートルズのデビューまでの端境に、
どうしても看過できないアーティストがもうひとりいます。
それは、Roy Orbison/ロイ・オービソンです。

ロイ・オービソンといえば、一般には1990年の映画「プリティ・ウーマン」で使われた、
「Oh,Pretty Woman/オー・プリティ・ウーマン」が有名ですが、
「オー・プリティ・ウーマン」の実際のヒットは、ビートルズデビュー後の1964年。
もう、とっくにロックの黎明期からは外れていますので、
1960年という、この「Only The Lonely/オンリー・ザ・ロンリー」を通して、
ロイ・オービソンの音楽性の内容を見てみたいと思います。



この曲を聴く度に、私はふたつの事を明確に感じます。

ひとつは、彼の中に「ブルースの香り」をほとんど感じないということ。
恐らくロイ・オービソンは、ロック黎明期の白人ロックアーティストと比べて、
ブルース的な黒人の影響度の極めて低いアーティストなのだろうという憶測を抱かせます。
そう、かなり純粋な保守系白人発のアメリカンポップスという感じです。
この曲に限っては、ロックとすら言えないかもしれません。

もうひとつは、先ごろ亡くなった日本の大瀧詠一氏のサウンドテイストは、
このロイ・オービソンからも多分に影響を受けているのだな、ということです。
私は大瀧氏に特段傾聴しませんでしたが、彼のテイストはよく知っています。
恐らく、アーティストではビーチ・ボーイズあたりに、
サウンド作りではフィル・スペクターあたりの独特のエコーサウンドのようなものに
色濃く影響を受けているのだろうとは感じていました。

このロイ・オービソンの「オンリー・ザ・ロンリー」を聴くと、
大瀧氏の"もうひとつ"の「大きなオリジン」がダイレクトに伝わってくるかのようです。
途中に出てくるドラムのスネア等による連続的なアクセントの部分などは特にそうです。
この曲全体に、スペクター風の「ウォールオブサウンド」のような強い残響感をつけて、
歌詞を日本語にすれば、そのまま「大瀧氏の新曲」ができあがるかもしれませんね。

さて、この曲の和声や構造はどうなのでしょうか。
一聴して、ロック黎明期の先輩方とは雰囲気が違います。

前奏からして、甘くてたおやかなコーラスから始まり、
ヴァ―スに入ると、メインヴォーカルと後追いのコーラスによるリズムのとり方が独特で、
特にコーラスの入るタイミングや和音の切り替えのタイミングに個性があります。
また、ロイ・オービソンのヴォイスも、甘くまったりとした独特のものです。
そして、ブルース進行を基礎としたこれ以前のロックともテイスト感は違います。

しかし和声的には、前奏、ヴァ―スともに、
「Ⅰ→Ⅱm7 →Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ」(1・2・4・5・1)を基本とした循環的でコンサバなもので、
バディ・ホリーのような、人を驚かすような和声は見当たりません。
独特の進行感は、先述した和音の個性的な切り替えのタイミングから感じるのだと思います。
しかし、トニック(Ⅰ)のあとに、恐らくサブドミナント(Ⅳ)の代理コードとして配置
されたⅡm7がいきなりくるという作りは、50年代のロックには見られないものです。
(つぶさに見ていけばあるとは思いますが、少ないと思います)
Ⅰ→Ⅱm7という流れは、比較的、今風に感じるコードブログレッションの筈です。

基本的には、ドミナントモーション(Ⅴ→Ⅰ)の収縮性を拡張して、
若干の和音のシーケンスのタイミングをずらして個性化したような作りですが、
ある種類の「新しさ」はあると思います。ちなみにこの曲のキーは「F」です。

この曲の場合、そもそもロックなのかという論もありそうですが、
ロイ・オービソンのこうした曲を聴くと、ようやく50年代と訣別し、
60年代以降の現代的なロックに少しづつ近づいているなという感じも受けます。
そういう意味では、このロイ・オービソンは「大河の渡しの船頭」のような
位置づけになるのかもしれません。

ロイ・オービソンは、52歳という若さで1988年に亡くなっています。
そう、映画「プリティ・ウーマン」(1990年)の大ヒットを知らずに世を去ったのです。
でも晩年は、ジョージ・ハリスンやボブ・ディラン、ジェフ・リンらとともに、
「トラヴェリング・ウィルベリーズ」という覆面バンドに楽しそうに参加していました。
あの頃は、今は亡きジョージも、オービソンも、そして今でも元気なディランも、
みんな、伸び伸び本当に楽しそうでした。

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