(5)激辛スパイス
パスポートです。
海外旅行の際、パスポートだけはなくしちゃいけないと思い、Ogakunにもそう言い聞かせていたのに・・・。やっちまった・・・。
もうマラソンどころではありません。観光どころではありません。ガイドブックにはパスポート紛失時にどうすればいいか書いてあったはず。でも明日からはその対応で帰国まで追われることになるのでしょうか。ハプニングは旅のスパイスなどと気楽なことを言ってられません。これは口にすることもはばかられるような激辛スパイスです。
しかしトイレに忘れたのでないとすると、The Boathouseに忘れた以外に考えられません。テーブルについたとき、Ogakunのリュックと並べて置いた記憶はしっかりとあります。
ふと気がついてデジカメを取り出し、A-MAZE-ING LAUGHTERで撮った写真を見てみました。
やはり・・・。あるべきはずのショルダーバッグがありません。カードの支払いであたふたしてしまい、無事に支払いを完了してホッとして・・・そのまま席を立ってしまったに違いありません。
さて、ショルダーバッグのありかは見当がつきました。しかし、まだ残っているでしょうか。バンクーバーは治安がいいとはいいますが、それでも置き引きなどには要注意と言われてきました。もう店を出てから1時間以上経過しています。
しかも忘れ物をしたことをどうやって伝えるかという問題もあります。幸いなことに、The Boathouseの電話番号はガイドブックに載っています。でも忘れ物をしたということを英語で伝えて話を聞くことは、私にはとうていできません。Ogakunにだってできるかどうか・・・。でもOgakunが電話をしてくれました。
私に変わって一生懸命伝えてくれています。「さきほどThe Boathouseで食事をして、ブラウンのショルダーバッグを忘れた。中にはパスポートが入っている」そのようなことを言ってるということは、私にもどうにか理解できました。
その後なにかやりとりをして、Ogakunは電話を切りました。ちょっと探してみるから、しばらくしてから電話をしてくれ、というようなことを言われたようです。
それからの約10分間はとても長く感じました。
もう1度、Ogakunに電話をしてもらいます。先ほど電話した、ショルダーバッグを忘れた者だ、というようなことを話しています。なにやら会話を交わしているのを聞くと、色やら中身やらを聞かれているようです。相手の質問に答えるOgakunの声。それがだんだん大きくなっていきます。
「お父さん、あったって」
Ogakunを連れてきてよかった。心底思いました。彼がいなければ、The Boathouseに忘れたことはわかっても、電話でこんなやりとりはできませんでした。彼はこれからすぐ取りに行く、30分以内には行けると思う、というようなことを言い、電話を終えました。
私たちはすぐに夜の街をThe Boathouseに向かいました。
週末のRobson Stはまだまだ賑やかです。バンクーバーは治安がいいので、夜でもこうした主要な通りは安心して歩くことができるというのがとても助かりました。
Robson StからDenman Stを通ってThe Boathouseに到着します。ここでもOgakunが活躍し、忘れ物を取りに来た旨を説明してくれます。すぐにショルダーバッグを出してくれて、中を見るとパスポートも無事でした。
最初の夜にパスポートを忘れるというのもとんでもない話ですが、こうして無事に出てくるという自分の強運に驚きました。
ホテルに帰る途中、OgakunはRobson Stで見つけたマクドナルドに寄りたいと言います。大学に入学して間もない頃からマクドナルドでアルバイトをしているOgakun。昨年、フィリピンへ海外実習に行ったときも、現地のマクドナルドを偵察してきたそうです。今回もバンクーバーのマクドナルドへ行くと宣言してきたものの、明日以降寄ることができるかどうかもわかりません。大騒動の後で小腹が空いたついでに寄ってしまいたいということです。
もちろん、恩人には逆らえません。一緒にマクドナルドに立ち寄りました。
やがてホテルに戻ります。時刻は23時を回っていました。マイナス16時間という時差の関係で、いまだに5月4日です。2012年5月4日は、私にとっては1日40時間もある、人生で最も長い1日でした。その最後に激辛な出来事はありましたが、どうにか無事に乗り切りました。そんな1日を振り返りながら、リカーショップで買ってきたKokaneeを1本飲んでベッドに入りました。疲れ切っていた私は、すぐに眠りにつきました。(つづく)
バックナンバー
第1部 感激記(当選に 喜びよりも 狼狽し)
第2部 観光記(ハプニング 旅のスパイスと 言うけれど)
第3部 完走記(バンクーバー 自分の足で 観光ラン)