(2)思いがけないメール
差出人はジョグノート。そして件名には、「バンクーバーマラソンツアー当選のお知らせ」となっています。
「なにっ???」
急に鼓動は高鳴り、頭の中はグルグルと回り始めます。まだ熱があって幻覚を見ているのでしょうか?
たしかに、いつも利用しているマラソンSNSサイトのジョグノートで、バンクーバーマラソンオフィシャルカップ2012が開催され、私も参加していました。「バンクーバーマラソンツアーに2名様をご招待」といううたい文句に惹かれて参加したのですが・・・。
いや、待てよ。こうしたものに応募して、「当選通知」なるものが届き慌てて中身を見たら、残念賞のサプリメントなどが同封されていた、などというのは今までも何度かあったことです。ここで喜んでもぬか喜びに終わるかもしれません。○○マラソンご招待とあっても、出してもらえるのは参加料だけで、交通機関や宿は自分で手配しなければならない、ということもあると聞いたことがあります。しっかり本文を読み終わるまで喜ぶわけにはいきません。そう思ってまず深呼吸をしました。
でも、参加していたオフィシャルカップでは、そんな残念賞の類は書いてなかったと思うし、件名にもははっきりと「バンクーバーマラソンツアー当選」と書いてあります。ツアー当選というからには・・・。否が応でも胸の鼓動は高鳴ってきます。しかし怖くてなかなかメールの本文を読めません。
でもいつまでもこうしていられません。意を決してメールを開けてみました。
いつもジョグノートをご利用いただきありがとうございます。
ご参加いただきました「バンクーバーマラソンオフィシャルカップ2012」において、バンクーバーマラソンご招待ツアーに【ご当選】されましたのでお知らせいたします。(後略)
3度読み返しましたが、どうやらツアーに当選したことに間違いなさそうです。
当たっちゃった!
なんだか頭の中がグルグルしました。以前、ホノルルマラソンですとかロサンゼルスマラソンご招待に当選した仲間もいましたが、そんな幸運が自分の上にも訪れるとは思いもよりませんでした。
こういうときはもっと喜びが押し寄せてくるものかと思っていたのですが、喜びよりも狼狽と混乱と動揺が頭の中の大半を占めているようです。その中に埋もれかかっている喜びをどう表現したらいいのか、私は戸惑うばかりで、まるで動物園の中のゴリラのように、家の中をウロウロするだけでした。「当たった!当たった!」と叫びながら。
夕食の支度をしていた妻は迷惑そうな顔をして、
「何が当たったのさ」
と言います。私は何をどう説明したらいいかもまったく思いつかず、
「バッ、バッ、バンクーバー!」
と言うのが精一杯です。
妻はますます怪訝そうな顔をしています。
「バンクーバーマラソンご招待が当たっちゃったんだよ」
「バンクーバーってどこさ?」
「カナダだよ」
「えっ?タダで行けるの?」
「そうだよ、成田までは自前で行かなきゃならないけど」
「えー?すごいしょ」
招待に当選したのは1名です。当選メールを見ると、同行者がいる場合は自腹で相談に応じるとなっています。
「一緒に行こう」
と、早速水を向けてみます。
なにしろ海外旅行なんて新婚旅行でグアム・サイパンへ行ったっきり。それから25年間「海外にも連れて行ってくれるって言ってたのに嘘ばっかり」と責められ続けてきました。
ところがそんなところに降って湧いたような「バンクーバーマラソンご招待」。このチャンスを生かさない手はありません。1人分の料金で2人が行けるのですから。
ところが一緒に行こうと水を向けても、妻はどうやら気乗り薄です。でも私は必死で妻を口説き続けます。海外にひとりで行こうものなら、今後ずっと文句を言われ続けるのは目に見えていますから。
そんな私の必死の訴えが実を結び、ようやく妻も同行する気になってきました。(つづく)
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第1部 感激記(当選に 喜びよりも 狼狽し)