公務員の教科書 番外 なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?/加藤年紀(後編) | 公務員 島田正樹 〜仕事と私事と志事と〜

公務員 島田正樹 〜仕事と私事と志事と〜

仕事も家族・友人との私事も楽しみながら、魂を燃やして挑む“志事”で社会を変えていきたい! 地方公務員として働きながら、NPO活動、講演、執筆、ワークショップデザイナーなどに取り組む“公務員ポートフォリオワーカー”として活動しています。

 

前編からつづきです)

 

 

前編では、

 

本書に登場する10名の公務員があくまでぶっ飛んだ特別な地方公務員であって、私たちが同じように活躍するのは難しいのではないか、

 

でも、彼らから学べることはあるはず、ということまでお伝えしました。

 

 

 

 

皆さんは、どのようにお考えでしょうか?

 

 

 

私が、このルポタージュを読み終えて、本書から、つまりは彼ら一人ひとりが保有する知恵ではなく、10名分のルポタージュを読み通した読者だから概念化できる学びとして、3つの地方公務員としての姿勢を挙げたいと思います。

 

 

 

 

1つ目は、前述したような“手数を丁寧に重ねる”ということ。

 

これは再度同じことは書きませんが、

 

本当にやり遂げたいことのために、ときに関係者の想いに寄り添うために、ときに組織の力を最大限発揮するために、必要な手間を惜しむことなく、丁寧に重ねることの大変さと大切さを感じることができます。

 

 

 

 

2つ目は、“公務員を手段とする”ということ。

 

公務員という信頼感はもっと活用すべきと語る山田崇(塩尻市)も、公務員だからコスプレが応援してもらえたと語る井上純子(北九州市)も、極めつけは自らが提案した公会計制度を地方自治体にインストールし、広めるために自ら市役所職員となった山本亨兵(和光市)も、自らが向き合い解決したいと思う課題のために、地方公務員という職業を手段として活用することで、本書で紹介されているような成果を上げています。

 

入職して以降、毎日毎日先輩や上司の指導を受けながら業界の慣行に馴染んでいく中で、私たちは地方公務員という職業がいくつもの選択肢の一つであることを忘れ、いつしか「公務員を辞めさせられたら生きていけない」と考えがちです。

 

公務員を手段とすることで、組織にぶら下がらず、本当に大切だと思うことを優先できるのかもしれません。

 

 

 

 

3つ目は、“孤独と向き合う”ということ。

 

組織に馴染めず転職鬱のようになったと語る大垣弥生(生駒市)、体制を整えず始めたため周囲の協力を得られなかったと語る黒瀬啓介(平戸市)、2ちゃんねる(当時)で同じ職員から叩かれたと語る酒井直人(中野区)など、成果を出す過程で組織での孤独、孤立を感じながら、それらと向き合っている経験も印象的でした。

 

同調圧力が働き易い職場の中では、今まで誰もやってこなかったことをやろうとすると、その最初の瞬間は、周囲から孤立しがちです。

 

誰も向き合ってこなかった課題を見出し立ち向かうと決めた瞬間、その課題と向き合っているのは、覚悟を決めた職員本人ただ一人だからです。

 

成果を上げなくてもクビにはならない、だから周囲に合わせておくのがラク。それは人として大変まっとうな感覚かもしれません。

 

でも、これからの地方自治体が、社会の変化に伴い今まで向き合ってこなかった課題に向き合うことになれば、その前線では本書の10名の登場人物のように“課題と向き合う最初の一人”として孤独になる職員が全国に現れるのではないでしょうか。そんな職員にとっても、きっとヒントが得られるはずです。

 

 

 

 

 

私なりの学びとしては、上述したような

 

 “手数を丁寧に重ねる”

 “公務員を手段とする”

 “孤独と向き合う”

 

という3つのポイントを紹介させていただきました。

 

 

 

 

私の個人的な学びは上述のとおりですが、10人の公務員の仕事への向き合い方、泥臭さ、組織の中での振る舞い方など、まさに十人十色。

 

 

同じ10人の物語を読んでも、読んだ人の数だけ自分なりの学びが得られるのも本書の特徴です。

 

 

SNS上で、色々な人の書くその人なりの“学びポイント”“感想”を楽しめるのも、本書の一つの楽しみ方かもしれません。

 

 

 

 

 

また、読者の学びという点から少し外れて、こういった公務員の活躍についてルポタージュという形で書かれたという意義についても、少し触れさせてください。

 

 

元々、地方公務員の世界では、互いの善き事例について学び合い共有し合う文化があります。

 

先進的な事例を作った担当者は、他の地域の勉強会に招かれてその経験談を話すこともあれば、業界の雑誌などに寄稿したり、論文を発表することもあります。

 

 

但し、それらはいずれも担当職員自らが語り、書くものです。

 

 

それに対して、本書は著者によるインタビューをベースに、ルポタージュ形式で第三者の視点で客観性を持って書かれています。

 

 

著者の民間企業で務めていた経験、様々な地方公務員にインタビューしてきた経験、本人曰く「日本一公務員にまみれている民間人」としての経験などから、彼自身の中に築かれた“物語”を通して、

 

基本は客観的に、冷静に、

時に熱く想いを込めて

 

語られる10人の物語は、恐らくは登場する10人それぞれにとっても初めて目にする“自分自身”が映し出されているのではないでしょうか。

 

そこには本書が加藤年紀という著者自身の“物語”を通して、“ルポタージュ”という形で書かれたことで初めて生み出された価値を見ることが出来ます。

 

 

 

 

 

一方で、知名度が高く、目立つ成果をあげる公務員が登場し、行政としての事業よりも個人に注目が集まることに懸念を示す声があるのも事実です。

 

確かに彼らがそれぞれの事例の中で、多くの汗をかき、誰より悩み、苦しみながら取り組んできたことは事実ですが、そこに上司や同僚の支え、組織としてのシステムを活用させてもらったことなどを過小に評価すべきではありません。

 

 

とはいえ、と思うのです。

 

 

本書は、全国300万人の個人としての公務員を勇気付け、モチベーションアップすることを願って(狙って)書かれています。

 

 

果たして、上司や同僚の貢献であったり、組織としての構造的な特徴、事業の進め方の成否を語ることが、本書で取り上げられた10の成功事例の“伝え方”として、個人としての公務員を勇気付けるのに役立つでしょうか。

 

 

それは組織としてどのように事業を成功に導くか、という点で考えれば、10人の特徴ある公務員ではなく、彼ら彼女らを取り巻く環境も含めて複合的に論ずることに意味があるかもしれません。

 

 

でも、私は、それで私自身が元気になる様子を想像できません。

 

 

そういう意味で、事業の成功に関する要素について論じるならば、より複合的・総合的に論じる必要があるという意見には賛同しますが、そのことをもって本書の価値を減じることは全く無いとも断言できます。

 

 

 

 

 

敢えて、私の個人的な好みを乗せて申し上げれば。

 

 

著者である加藤年紀さんなら、

 

こんなに全国的に知名度が高かったり、全国的に先進的とされる事例を作り出した公務員ではなくて、

 

仕事ぶりや人物は高く評価できるけれども、きっと自分と同じ役所にもいると想像できて、もっと多くの人が自分事として受け止められるような、

 

等身大の地方公務員を対象にした、より一層の繊細さより高い解像度が求められるルポタージュも生み出してくれるのではないかと、期待しています。

 

 

 

 

なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?

 

 

 

 

 

 

 

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