公務員に効くビジネス書 vol.10 人事よ、ススメ!/中原淳編著 | 公務員 島田正樹 〜仕事と私事と志事と〜

公務員 島田正樹 〜仕事と私事と志事と〜

仕事も家族・友人との私事も楽しみながら、魂を燃やして挑む“志事”で社会を変えていきたい! 地方公務員として働きながら、NPO活動、講演、執筆、ワークショップデザイナーなどに取り組む“公務員ポートフォリオワーカー”として活動しています。

ビジネス書を、公務員目線でご紹介する「公務員に効くビジネス書」。
第10弾は、 「人事よ、ススメ!」(中原淳編著)


人事よ、ススメ!  ―先進的な企業の「学び」を描く「ラーニングイノベーション論」の12講 (碩学舎ビジネス双書)


「先進的な企業の「学び」を描く「ラーニングイノベーション論」の12講」という副題が付いているように、「ラーニングイノベーション論」という講義の内容を収録しています。

編著者である中原淳氏は、東京大学大学総合教育研究センターの准教授を務め、「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究しておられます。専門は経営学習論(Management Learning)。(ご本人のブログNAKAHARA-LAB.NET参照)

この「ラーニングイノベーション論」というのは、この中原氏が主任講師を務める「人材開発の専門知識・スキル」を学ぶ講座。全13回のセッションでは、様々な業界・専門から研究者や実務家などが講師を務めています。


そのエッセンスが詰まった本書。


最初から最後まで眼からボロボロとウロコが落ちっ放しなのですが、中でも本当に印象深かったセッションと、そこでの気付きをご紹介します。


《セッション1》 
経験学習とOJT研究の現在 ~育て上手のマネジャーの指導法 
北海道大学大学院経済学研究科 教授 松尾睦


「経験から学ぶ力」という考え方が紹介されています。それは、
 「ふりかえる力」
 「楽しむ力」
 「挑戦する力」

と、それらを支える「思い」「つながり」といった要素で構成されています。

この「経験から学ぶ力」は、組織において人が成長する能力であると言い換えることができます。

これまでは学ぶべきことが「先人たちが経験したこと」を如何に同じように、もしくはそこから連続的に改善させるかであり、それらを先人たちから受け取れる能力はそれほど重要視されていなかったかもしれません。

しかし、変化の激しい時代となり、これからは「先人たちも経験したことがないことに“対処できる術”」こそ学ぶべきことに変化しているからこそ、この「経験から学ぶ力」を構成員が持っていることが、これから組織が生き残っていくために求められます。

それは行政でも例外ではなく「国が示すモデルが通用しない」、「地域独自の課題に全国で最初に立ち向かわなければならない」、といった事態においては、上司や先輩の経験に頼ることは出来ず、この「経験から学ぶ力」で若手や中堅こそが対処でき人材になる必要があります。


もうひとつ、感銘を受けたセッションをご紹介します。

《セッション7》
「職場の学び」を科学する 
中原淳 


職場での人材育成、特にマネジャーがどうあるべきか、そのためにどのような支援があり得るかといったことが紹介されています。

本書から引用します。
できるかもしれないし、出来ないかもしれない状況で敢えて「やってみるか」と仕事を振られ、適切な経験者からフィードバックをもらうからこそ人は育つ。業務達成ばかりを優先して、できる人にばかり仕事が集中すると、だんだん人が育たなくなる。(SESSION 7 P214)

これは私も正負、両面で経験があります。

正の面では、私が入庁したときの経験がまさに当てはまります。
私が入庁したときの係長(主幹)は、私に対して「やる気があるなら、どんどん任せる」と言って、入って1~2ヶ月で、重要な会議の資料作成などを担当させてくれました。そのおかげで、私自身は大きく成長させてもらいました。

負の面は、これも市役所での経験ですが、能力もやる気もあると同じスタッフの私からは見えたのですが、その同僚には、困難な仕事や創意工夫を求められる仕事よりも、ルーティンに近い仕事が集中してしまった結果、組織の側も本人も、その職員の能力に限界を設定してしまったようなケースがありました。

マネジャー(管理職)が、絶対にやり遂げてくれるか分からないスタッフに仕事を任せるのは、大変勇気の要ることだと思います。でも、組織として高いパフォーマンスを出していくためには、手持ちの駒(=部下)をそのまま使っているだけでは限界が見えてくることがあるはずです。そのときに、日頃から戦力向上のために勇気を出して部下の育成に時間を使えているのかどうかが問われるのではないでしょうか。行政というのは、必要な人材をピンポイントで外部から登用することは、あまりありません。であればこそ、資力のあるプロ野球球団のような補強頼みではなく、自ら育てて課題に立ち向かう戦力を作るという感覚が必要なのです。


上でご紹介した他にも、様々な登壇者による臨場感あふれる様々なセッションを体験することが出来ます。

本書と「ラーニングイノベーション論」自体は、確かに人事分野で仕事をしている人を主な対象としているのですが、それを管理する立場かどうかを問わなければ、「人事」というのはあらゆる組織人にとって重要な分野です。

人事部など管理する側としての学びが多いのはもちろんですが、人事部がどのように管理したとしても、自らが組織の中でどのように生きていくか、学び続け成長し続けていくか、そんなことを考えるのに、多くのヒントを授けてくれる一冊です。

公務員に効くビジネス書

★★★公務員に効くビジネス書 バックナンバー★★★
6月29日
 vol.9  アイスブレイク入門/今村光章著
5月10日 
vol.8  それでも社長になりました!/日本経済新聞社編
4月11日 vol.7  働く人のためのキャリア・デザイン/金井壽宏
3月23日 vol.6  自分らしいキャリアのつくり方/高橋俊介
3月19日 vol.5  7つの習慣/スティーブン・R・コヴィー
3月17日 vol.4  KP法 シンプルに伝える紙芝居プレゼンテーション/川嶋直
3月 6日 vol.3  35歳の教科書/藤原和博
3月 5日 vol.2  人を動かす/D・カーネギー
2月15日 vol.1  京セラフィロソフィ/稲盛和夫