世界のエリート、例えばグローバル企業の幹部候補生などが、何故美術系大学院や朝の美術館で「アート(=美意識)」学ぶのか。
本書が導き出す答えは、
これまでのサイエンス偏重主義から、アートをより重視して、サイエンス/クラフト/アートのバランスを適切に保たなければ、これからの社会で高いパフォーマンスを発揮できないから。
ここでいうサイエンス/クラフト/アートというのは、
アート
組織の創造性を後押しし、社会の展望を直感し、ステークホルダーをワクワクさせるようなビジョンを生み出す。
サイエンス
アートが生み出した予想やビジョンに、現実的な裏付けを与える。
クラフト
地に足のついた経験や知識を元に、「アート」が生み出したビジョンを現実化するための実行力を生み出す。
という関係にあり、アートとサイエンスをクラフトがつなぐ関係にあります。
経営においてアートとサイエンスはバランスが大切なのですが、多くの日本企業がサイエンス偏重になっていると著者は説きます。
効率化、エビデンス、ロジカルシンキング、マーケティング、KPI……
サイエンスというのは裏づけなので、言語化ができ、再現性があり、そして、何よりアカウンタビリティを果たす機能が高い。
他者に説明して、納得してもらうためにはサイエンスを重視するのが自然な流れです。
それは物事の判断基準を見える化し、外部と共有する営み。
失敗しても判断基準が共有され、透明性が確保されているので「それなら仕方ないね」と言ってもらえる。(少なくとも、そう言ってもらえるように判断する)
一方で、成功すれば、その判断基準は多くのライバルが真似し、あっという間にコモディティ化します。(そして市場はレッドオーシャンと化す)
本書を読んでいて、一番心が揺さぶられたのが、このサイエンスとアートのアカウンタビリティの違いです。
これから経営にはサイエンスだけではなく、アートも必要である、両者をバランスよく、それが本書の主張なのですが、これを私たちが勤める地方自治体に当てはめると、なかなか困難なことが分かります。
何故なら、役所はアカウンタビリティこそ存在意義だと言っても過言では無いくらい、庁内でのコミュニケーションも、庁外とのコミュニケーションも、アカウンタビリティを重要視しているから。
「それは感覚的にはいいような気もするけど、議会や市民にどのように説明するの?」
「市長が納得するには、どのように説明したらいいのだろう?」
「このように判断するに至った考え方を、しっかり足跡として残しておこう」
「市民からの問い合わせに備えて、しっかりFAQを用意しておこう」
しっかり説明できるかどうかを確認して、それを文書として遺してから、ようやく行動する組織。
もう、そんなことばかり。
大切なのは分かるけど、
正直、少しウンザリも、する。
でも、地方自治体というのは、住民の生命と財産を守るために、住民の皆さんが直接的に作用する代わりに、みんなで負担をし合って維持され、活動を許されているものだから、一挙手一投足総てにおいてその住民の皆さんに説明できることが求められます。
本書の考え方で言えば、サイエンスとアートのバランスをとるために必要なことの一つに、大切な判断基準を外部に委ねたり共有せずに、内部に持つということがありますが、地方自治体ではそれは難しいことです。
何故なら、地域を営むという活動そのものの特徴として、本来地域を営む主体であるはずの住民の皆さんから、外部としての役所に委ねられている状態が地方自治であり、地方自治体による地域経営だから。
だから判断基準を内部に持つ、ということを求めるなら、そもそもの主体である住民の皆さんの内部にその基準は宿るのであって、主体の外側にある役所の中はどこまでも透明で、ブラックボックス化された判断基準を“アート”として内部に持つわけには行かないのです。
経営にはアートが必要であり、判断基準を外部ではなく、内部に持つ必要がある。それは恐らく地域経営に置いても一緒。
しかし、主体である住民に対して役所がアカウンタビリティを欠くことは許されず、かつ、役所はそもそも主体たる住民の外側にある機構であるのだから、判断基準を内部に持つのは住民そのものであるはず。
本書を読んで、地方公共団体に当てはめて考えてみて、この業界の難しさをまた一つ感じ取ってしまいました。
この壁は、問いに置き換えるなら
私たち地方公共団体は、それが住民のためなら、住民に秘密裏に、または住民には説明できないような考え方で、政策を立案し実行できるでしょうか?
と言えるかもしれません。
皆さんは、如何お考えでしょうか。
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」 (光文社新書)
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