第1116回「世界よこれが日本の吹奏楽だ!全日本吹奏楽コンクール2021高等学校編」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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 みなさんこんにちは😃本日ご紹介していくのは先日取り上げた「全日本吹奏楽コンクール2021
 大学、職場、一般編」と同時に発売された「全日本吹奏楽コンクール2021 高等学校編」をみていきます。こちらもCD5枚組となっているのですが「大学、職場、一般編」と違うところとして今回は課題曲と自由曲を聴くことができるということ。「大学、職場、一般編」は自由曲のみ収録されていたので今回は最初から最後まで余すことなく全日本吹奏楽コンクールを楽しむことができるようになっています。


〜全日本吹奏楽コンクール2021 高等学校編〜



 今回も前回と同様にディスク1枚の中から2校取り上げていきたいところだが、全体を聴いていて感じたのは圧倒的な技術力の高さと各校のハイレベルな演奏にはただただ驚かされた。あくまで私個人としての感覚だが「大学、職場、一般編」の時以上だったのではないか?と思っている。そのため2校に絞るのも中々難しかったので書き上げるのに少々時間をかけた上で今回取り上げている。


[Disc 1]

5〜6.千葉県柏市立柏高等学校吹奏楽部

課題曲Ⅳ 宮下秀樹:「エール・マーチ」

自由曲 阿部勇一:交響詩「ヌーナ」


 言わずと知れた吹奏楽の名門校である柏高校吹奏楽部。課題曲に関しては当盤の中でも一番迫力があるダイナミックな演奏だったようにも思える。なんというか柏高校の演奏だけダイナミック・レンジの幅広さが特にあった印象を受ける。それとしてもダイナミクス変化の細かさや太さのある奥深い重厚的なサウンドには高校生が演奏しているということを忘れてしまうくらいだ。自由曲が交響詩「ヌーナ」で、「ヌーナ」は約19億年前に地球上に出現したとされる超大陸の名称である。現代的な要素を持った曲でなおかつ難易度の高い曲となっている。しかし、曲としては難解すぎるというわけではなく比較的聴き込みやすい上に理解もしやすい。少なくとも各楽器の技術力がないと演奏できないことは言うまでもないのだが、柏高校はそれをなんなく演奏しているので終始圧倒される。アンサンブル、ダイナミクス、音色や響きの良さなど今回収録されている録音の中でも間違いなくトップクラスの演奏であることは間違いないだろう。


9〜10.浜松聖星高等学校吹奏楽部

課題曲Ⅳ 宮下秀樹:「エール・マーチ」

自由曲 西村朗:秘儀Ⅴ「エクリプス」


 やや固めのサウンドながら全体のバランスが良い浜松聖星高校の演奏、課題曲のダイナミクスは比較的迫力のある演奏となっているが、その分トリオに入ったときの変化は美しいアンサンブルを奏でている。自由曲の秘儀Ⅴ「エクリプス」は2019年に浜松聖星高校に委嘱された曲である。過去に課題曲だった秘儀Ⅲをはじめとして吹奏楽における現代音楽として知られており、好みは分かれるかもしれないが私は少なくとも好きなシリーズの一つである。今回は「日蝕」をめぐる原始的な祭祀がテーマとなっている。この曲に関しては音楽だけを聴くというよりも映像がないと理解できないかもしれない。というのも途中に邪鬼を祓う様子が奏者によって行われているためである。難易度が非常に高い曲であることは間違いなく、全ての楽器に等しく難しい。細かいダイナミクス変化と複雑なリズム、不協和音が絡み合い普通に考えていて理解できないようなインパクトのある演奏となっている。


[Disc 2]

7〜8.札幌日本大学高等学校吹奏楽部

課題曲Ⅴ 尾方凜斗:吹奏楽のための「幻想曲」〜アルノルト・シェーンベルク讃

自由曲 リヒャルト・シュトラウス/マーク・ハインズレー編曲:歌劇「サロメ」より7つのヴェールの踊り


 やや荒さもあるかもしれないが、メリハリのあるサウンドでなおかつダイナミックな演奏となっている。自由曲はオーケストラでもお馴染みの「サロメ」から7つのヴェールの踊りが演奏されている。多くの団体及び学校が演奏しているのを聴いてきたが、今回の演奏はより個性的な部分が多い印象を受ける。ダイナミクスや楽器の奏法もそうだが、テンポに関しても溜めるところではしっかりと溜め、早まる際はより早くしている。キャッチーな場面もあるためもとから聴きやすい曲だが、より作り込まれているためなおさら聴きやすさが増している「サロメ」となっている。


9〜10.出雲北陵高等学校吹奏楽部

課題曲V 尾方凜斗:吹奏楽のための「幻想曲」〜アルノルト・シェーンベルク讃

自由曲 シュミット/鈴木英史(校訂版):ディオニソスの祭り


 課題曲Ⅴと「ディオニソスの祭り」という新旧現代音楽のような組み合わせとなった今回、ダイナミック・レンジの幅広さが生かされた細部まで細かく聴き込むことができる演奏となっており、全体として整われている印象がある。そのため課題曲と自由曲それぞれはスッキリとしていて後味も悪くない印象だ。「ディオニソスの祭り」に関しては編曲版というわけではなく、現代の楽器に置き換える形で演奏を可能とした校訂版となっている。アーティキレーションやダイナミクスがより明確かつ正確なものとなっているため大分こだわり抜かれた部分が非常に多い演奏となっていると言えるだろう。この曲自体久しぶりに聴いたが違和感もなく聴き終えることができた。


[Disc 3]

7〜8.秋田県立秋田南高等学校吹奏楽部

課題曲V 尾方凜斗:吹奏楽のための「幻想曲」〜アルノルト・シェーンベルク讃

自由曲 三善晃/天野正道編曲:「竹取物語」


 課題曲Ⅴに対して自由曲も三善晃の「竹取物語」という現代音楽で統一した形での選曲となっている。細かいアーティキレーションや複雑なリズム、不協和音が連続しているため理解するには中々難しいかもしれない。課題曲Ⅴに関してはやや早めのテンポながらダイナミックで豪快な演奏を聴くことができる。自由曲の「竹取物語」は元々三善晃が作曲したバレエ音楽で、天野正道が吹奏楽編曲をして以降少しずつ演奏されるようになった。三善晃は課題曲を2曲作曲しているが、それらと比べても圧倒的に難易度は異なっている。天野先生が編曲しているため吹きやすいということもあると思うのだが、細かいダイナミクス変化に加えて、テンポの緩急もあるため三善晃が作曲したら課題曲よりは理解しやすいと言えるだろう。現代曲ながらバランスの取れたサウンドなども非常に功を奏している。


9〜10.東海大学付属大阪仰星高等学校吹奏楽部

課題曲Ⅲ 宮川彬良:僕らのインベンション

自由曲 ラヴェル/森田一浩編曲:「スペイン狂詩曲」より


 課題曲と自由曲の選曲がここまでマッチしているのは中々ないとまず最初に思った。というのも「僕らのインベンション」とラヴェルの「スペイン狂詩曲」は多少なりとも近さのある曲といえるだろう。各楽器が歌い上げる瞬間は中々のもので、非常に聴きやすい印象を受ける。そのため聴き手の心は課題曲の時点でガッチリと掴まれており自由曲の「スペイン狂詩曲」ではもうすでに虜になっている。音色や響きも上記2曲を演奏するのに適したものとなっていて、ダイナミクス変化やテンポの緩急もより明確でわかりやすい。「スペイン狂詩曲」自体元から管楽器がよく目立つ曲でもあったため、多少の技量も含めてバランス良く聴くことができるようになっている。


[Disc 4]

5〜6.岡山学芸館高等学校吹奏楽部

課題曲Ⅳ 宮下秀樹:「エール・マーチ」

自由曲 スパーク:ドラゴンの年(2017年版)


 課題曲は非常に明るいサウンドで聴きやすく、メリハリもある。ダイナミクス変化もわかりやすく作られていてなおかつ各楽器の音色を聴きやすい印象だ。自由曲の「ドラゴンの年(2017年版)」は元々ブラス・バンドのために作曲された曲で吹奏楽の初版は1985年に作られた。その後約32年ぶりに改訂されたのが2017年版となっており、こちらはシエナ・ウィンド・オーケストラによって委嘱、世界初演されている。自由曲が始まった瞬間に音の広がりがこれまでと違い、大きな開放感が感じられた。その後木管楽器の豊かで美しい音色が幅広いスケールで描かれていてこれが中々感動的なものとなっている。テンポの緩急もあるため目眩く変化するサウンドに酔いしれることができるだろう。


11〜12.鹿児島県立松陽高等学校吹奏楽部

課題曲Ⅳ 宮下秀樹:「エール・マーチ」

自由曲 レスピーギ/中村陸郎編曲:交響詩「ローマの噴水」より


 レスピーギの「ローマ三部作」は吹奏楽編曲版も存在しており演奏される機会は非常に多い。一番多いのは「ローマの祭り」、二番目に「ローマの松」がくる。今回演奏されているのは「ローマの噴水」だ。この曲の吹奏楽編曲版を聴いたのは記憶が確かであれば今回がはじめてなのだが、それほど違和感なく聴くことができた演奏だった。課題曲Ⅳを演奏している時点で完成されている輝かしく前向きなサウンドが「噴水」でも生かされており、各楽器の音色も色鮮やかなものとなっているため非常にスッキリとしていて聴きやすい演奏となっている。金管楽器や木管楽器などそれぞれの楽器の音色が特に良く、これは大人顔負けのような気がしてならない。レスピーギとなるとトランペットが非常に重要な位置にあるが、トランペットの音色は非常に好みなものとなっている。


[Disc 5]

3〜4.大阪桐蔭高等学校吹奏楽部

課題曲Ⅴ 尾方凜斗:吹奏楽のための「幻想曲」〜アルノルト・シェーンベルク讃

自由曲 高昌帥:吹奏楽のための協奏曲


 こちらの大阪桐蔭高校吹奏楽部も言わずとしれた吹奏楽部の名門校。課題曲Ⅴと先日佼成ウィンドのCDでも収録されていた今話題の曲である高昌帥の「吹奏楽のための協奏曲」が自由曲として演奏されている。課題曲Ⅴからのこの曲という難易度の高い曲を演奏しているわけだが、重心の低い安定感のあるサウンドを聴くことができるようになっている。全体のバランスもしっかり整われており、アンサンブルも素晴らしい。何より各楽器の技量も申し分ない。コンクールカット版のため全楽章は演奏されていないが、これを聴いた後に全曲を聴きたくなるような魅力を感じさせてくれるような演奏となっている。


7〜8.聖カタリナ学園光ヶ丘女子高等学校吹奏楽部

課題曲Ⅴ 尾方凜斗:吹奏楽のための「幻想曲」〜アルノルト・シェーンベルク讃

自由曲 長生淳:いざ咲き匂はざらめやも


 今回収録されている課題曲Ⅴの演奏の中でも一番細部までしっかりと聴き込むことができた演奏のようにも思える。というのも各楽器がどのタイミングで演奏したかというのがスコアを見なくてもわかる。これは決して悪い意味ではない。この類の現代音楽となると非常に細かい作り込みがされているため、一瞬でもズレると形が壊れてしまうのだが、光ヶ丘女子高校の演奏には全てがより明確で緩急もある演奏となっていて非常に聴きやすかった。自由曲の「いざ咲き匂はざらめやも」は現代的な要素も含まれつつも内容としては非常に深いもので、その一つ一つにリアリティがあり聴いているだけでその世界観に魅了されてしまう演奏となっている。この曲自体非常に繊細な曲となっているため、演奏も全体的に滑らかで強すぎるものにはなっていない。


 以前取り上げた「全日本吹奏楽コンクール2021 大学、職場、一般編」に続いて「高等学校編」」をみてきた。課題曲と自由曲両方が収録されていたこともあったため、聴き終えるのには少々時間がかかったが、改めて各校の技術力の高さに驚かされた。この先音楽を続けていくかはそれぞれ次第だが、素晴らしい演奏者になることは間違いないだろう。さて、「全日本吹奏楽コンクール2021」も残すところ「中学校編」のみとなったが、こちらも少しずつ聴いていってまた取り上げられればと思っている。


https://tower.jp/item/5271859/全日本吹奏楽コンクール2021-高等学校編