第1099回「世界よ、これが日本の吹奏楽だ!全日本吹奏楽コンクール2021大学、職場、一般編」 | クラシック名盤ヒストリア@毎日投稿中!!

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吹奏楽を中心にトランペット演奏の他、作曲なども行います。



 みなさんこんにちは😃2020年の中止を受けて2年ぶりに行われた「全日本吹奏楽コンクール」、1月26日に満を辞して「中学校編」、「高等学校編」、「大学、職場、一般編」の3種類が発売されました。値段はどれも11000円と高めではあるものの、吹奏楽ファン待望の仕上がりとなっていることは間違いないでしょう。今回は3種類の中から「大学、一般、職場編」をみていきます。


〜全日本吹奏楽コンクール2021 大学、職場、一般編〜



 今回収録されているCDは5枚、その中に各出場団体の自由曲が収録されており、課題曲は各CDに1曲ずつしか収録されていない。これは2019年の全日本吹奏楽コンクールのCDが発売された時と同じ形で、吹奏楽ファンの間では賛否が起きていたのはいうまでもない。しかし今回同時発売された「中学校編」、「高等学校編」に関してはそれぞれの出場校の課題曲と自由曲を収録している。なぜ「大学、職場、一般編」では課題曲を収録しなかったのか。


 今回収録されている曲は膨大な数なので載せないこととしたい。また、取り上げていくのも各CDから2団体気になったものを抜粋してみていきたいと思う。


[Disc 1]

トラック1・広島大学吹奏楽団/保科洋:復興、課題曲の有名な人気曲である「風紋」の作曲者でもある保科さんがヤマハ吹奏楽団創立50周年を記念して作曲した曲。私も記憶が間違っていなければ高校3年生の定期演奏会にて演奏をしたと思う。難易度的には近年の吹奏楽曲と比べても難しくなく、重厚的かつクラシック音楽の深みを吹奏楽で見事なまでに体感したい時にこの曲を聴くのをオススメしたい。広島大学吹奏楽団の深みある骨太な音色をしている演奏が個人的には非常に好みに感じた部分があり、それがテンポが早くなったとしても失われることなく演奏されているのが素晴らしい。特にティンパニの音が「ズンッ」としていてさらに全体に深みを与えてくれるのでなお良い。Disc 1の一番最初からこんな演奏を聴くことができて思わず「おおっ」と感動してしまった。


トラック7・龍谷大学吹奏楽部/ベルト・アッペルモント:ブリュッセル・レクイエム、アッペルモントの代表的な作品の一つであり、2年前の2019年吹奏楽コンクールでは何団体も演奏した超難曲であるこの曲。2016年に起きたブリュッセルでの連続爆破テロ事件が基となっている。アッペルモント自身金管バンドの曲を作曲することもあって各楽器に対する難易度は相当なもので、この曲に関しては全ての楽器に対して均等に高難易度となっているのに対して変拍子も加わってくるという中々の曲だ。龍谷大学吹奏楽部は言わずとしれた吹奏楽の名門だが、今回の演奏はコンクールカットながら非常に素晴らしい演奏となっている。個人的には音色も広がって汚くなることなく綺麗にスラっとした大人顔負けの演奏となっているため個人的には非常に好みだった。ダイナミクス変化の幅も広く、緩急は明確につけられていて聴きやすいと言えるだろう。



[Disc 2]

トラック5・東北福祉大学吹奏楽団/ピーター・グレイアム:巨人の肩にのって、「ハリソンの夢」や「メトロポリス1927」などの名曲を残しているグレイアムが作曲したアイザック・ニュートンがロバート・フックに宛てた手紙に書かれている一節からこの曲名がとられている。この曲における巨人とはアメリカで活躍した金管プレイヤーたちへの敬意が込められている。曲が始まった瞬間に多くの人々にとって聴き覚えのあるブルックナーの交響曲第8番より第4楽章冒頭におけるファンファーレが引用されている。スコアを見てみると一部の楽器におけるリズムがブルックナーとは違っているのも面白い点だろうか。クラシック、ジャズなど多くのジャンルが混ざり合い出来上がったインパクトのある作品だ。演奏として、特に金管楽器の圧倒的な音圧、技量が特に素晴らしい。もちろんそれ以外の楽器における安定感のあるバランスも非常に良い。ダイナミック・レンジの幅広さもより明確なものとなっているためコンクールカットだが聴きやすい演奏となっている。


トラック6・静岡大学吹奏楽団/長生淳:交響曲第4番「尽きせぬ想ひ」より第3楽章、2020年に静岡大学吹奏楽団によって行われた「ハートフルコンサート2020」にて委嘱、初演された3楽章からなる交響曲である。YouTubeに作曲者による自作自演の初演演奏が投稿されているので、気になった方はぜひ聴いていただければと思う。聴いていてオーケストラ曲と言われてもおかしくはないくらいの凄みを秘めたインパクトある演奏となっており、近年における高い技量が求められる難曲とは違うより深い音楽としての姿がこの曲にはある。初演を行った吹奏楽部ということもあって、この曲における基盤を作り上げたような名演と言えるだろう。


[Disc 3]

トラック7・祇園ウィンドアンサンブル/酒井格:森の贈り物、往年の時代における吹奏楽のレパートリーの一つである。近年演奏される機会も減っていたような気がしており、非常に懐かしく思えたが改めて聴いてみてやはり名曲であると感じた。難しい点もあるかもしれないが、ただ難しいだけの近年流行っている曲と比べたらより楽しめる曲であることに間違いはない。今回の演奏で何よりよかったのはトランペットの音色だろうか。曲が始まった瞬間にあるトランペットソロによって心は掴まれており、その後の世界観は完全に完成されている。細部まで聴き込むことができるかつ美しい音色によって響きも綺麗なものとなっている。この曲にベストな演奏と言えるだろう。


トラック8・高松市民吹奏楽団/高昌帥:ウインドオーケストラのためのバラッド、吹奏楽で数多くの名曲を残している高昌帥、近年では「吹奏楽のための協奏曲」や吹奏楽のための風景詩「陽が昇るとき」などが頻繁に演奏されている。今回の曲もそうだが、どの曲も難易度は高い。しかし、より吹奏楽におけるクラシック音楽としての立ち位置に属する名曲であることには変わりないと思う。高松市民吹奏楽団のブレのない安定感のある圧倒的なサウンドも聴きどころある演奏で、聴いていて各楽器の芯ある音にはただただ驚かされる名演と言えるだろう。



[Disc 4]

トラック1・ブリヂストン吹奏楽団久留米/エドワード・エルガー:「エニグマ変奏曲」、エルガーの代表作であり、元々のオーケストラでも演奏される回数は非常に多い人気作である「エニグマ変奏曲」、たまに今回のように吹奏楽コンクールや演奏会でも演奏されることがある。今回の演奏として、注目したい点として吹奏楽ではお決まりというかよくある「爆音」の演奏となっている。ライヴ録音ということもあってダイナミック・レンジの幅広さもあって、より臨場感を味わえるのは非常にいいのだが、ダイナミクス変化の振り幅に関して極端に「大」か「小」でなおかつ「大」が多いので他の団体と比べてもボリュームが圧倒的に多い演奏となっている。そのため何回か聴いていると段々「マーチングか?」とすら思えてくる。一時期爆音演奏が吹奏楽でも流行った時期があったので、今回はそれを思い出した演奏だった。


トラック5・西区市民吹奏楽団/樽屋雅徳:Crossfire - November 22、聴き始めた時、アッペルモントの曲に似ているような箇所が多くあったためアッペルモント作品かな?と思って調べてみたらなんと樽屋さんの曲だった。「マゼラン」などの作風から大分変わっていたためこれには驚かされた。曲のテーマとしては「ジョン・F・ケネディ暗殺事件」をテーマとしている。これは余談だが、同じ事件がテーマとされた吹奏楽曲として、清水大輔さんによる「マイ・フェロー・アメリカンズ〜マン・オン・ザ・ムーン・ラスト・エピソード〜」の第3楽章でパレードから撃たれるシーンがナレーション含めて描かれている。この曲は私も大学時代に演奏したことがある。より細かい描写としては清水さんの曲が表現しているかもしれないが、樽屋さんの曲に関してはより高難易度を必要とする吹奏楽曲としての姿があるように聴いていて感じた。途中に引用されている「星条旗」もなんとも言えないような哀しみに満ちたもとなっている。より近年の吹奏楽曲に近い形だが、西区市民吹奏楽団の高い技術力によってプロ並みの音色や響きなどダイナミックな演奏が展開されている。



[Disc 5]

トラック3・藤原大征とゆかいな音楽仲間たち/福島弘和:ラッキードラゴン〜第五福竜丸の記憶〜、「第五福竜丸」、歴史の授業で必ず習うため多くの人々は知っているだろう。ビキニ環礁で行われた水爆実験に巻き込まれた漁船である。この水爆実験が基でできた日本の有名な映画といえば「ゴジラ」だが、今回の曲も中々に衝撃的な作品である。2009年に行われた春日部共栄高等学校吹奏楽部の定期演奏会にて委嘱、初演された。この時当時中学2年生だった私は演奏会を聴きに行っている。その後吹奏楽コンクールを経て、多くの学校や団体が演奏していく形となりレパートリーの一つとして知られるようになった。一つのドラマを見ているかのような美しくドラマティックな旋律や音色、響きとなっている。そのため聴き手にとっては強い印象となって頭の中に残り続けると言えるだろう。特に木管楽器やピアノの音色が素晴らしく、哀しみもまといながら進んでいき力強い金管楽器が鳴らす音にはどこか希望を感じることができる。


トラック8・名取交響吹奏楽団/ルイス・セラーノ・アラルコン:インヴォカシオン〜「エル・プエルト」を元にして〜、毎回難曲を素晴らしい技術力かつ軽快に、力強く演奏する名取交響楽団による「インヴォカシオン」。今後徐々に演奏されていく頻度が増えるのでないか?という曲の一つである。クラシック音楽という枠組みを超えた親しみやすく、よりポップな演奏そのものとなっている聴きやすい曲と言えるだろう。正直聴いていてテンションが上がってくるような曲となっていることもあって非常に聴きやすい演奏となっている。


 今回はまず「大学、職場、一般編」の全日本吹奏楽コンクール2021をみてきた。後日また時間のある時に「中学校編」と「高等学校編」をみていきたいと思っているが、今年の吹奏楽コンクールはどうなるのだろうか?予選が始まるのもまだ先のことだが、ひとまずじっくり待ちたいところだ。


https://tower.jp/item/5271863/全日本吹奏楽コンクール2021-大学・職場・一般編