「セミヨン・ビシュコフ指揮/チェコ・フィルハーモニー管弦楽団」
マーラー作曲:
交響曲第1番 ニ長調「巨人」
交響曲第2番 ハ短調「復活」
交響曲第3番 ニ短調
交響曲第4番 ト長調
交響曲第5番 嬰ハ短調
交響曲第6番 イ短調「悲劇的」
交響曲第7番 ホ短調「夜の歌」
交響曲第8番 変ホ長調「一千人の交響曲」
交響曲第9番 ニ長調
ビシュコフ&チェコ・フィルによるマーラー・チクルスは交響曲第1番〜第5番まで発売された後、それ以降の番号付き交響曲に関しては今回の全集の一部として組み込まれる形で発売された。なお、Apple Music Classicalなどのストリーミング配信では第6番〜第9番までを単品で聴くことができるようにもなっている。今回個人的に残念だったのは、「大地の歌」や交響曲第10番が収録されていない点。とはいえ、近年におけるマーラー交響曲全集の中でも屈指の名盤であることは間違いない。
私にとってマーラーはオーケストラにどっぷりとハマるきっかけとなった存在であり、このブログを始めるきっかけになった人生のターニングポイントである。このブログを2019年にはじめてはやいものでもう7年になるわけだが、ここまで続くとは思ってもみなかった。そして、今回マーラーの交響曲全集を取り上げること自体久しぶりに思える。ビシュコフのマーラーは以前「巨人」を取り上げているので、こうして全集を聴くことができるということは非常に嬉しく思える。
・マーラー:交響曲第1番「巨人」
録音:2021年10月12〜15日
演奏が始まった瞬間にこの「巨人」が以下に理想的なマーラー演奏であるということを知るだろう。オーケストラ全体における音色やテンポの緩急における各楽章ごとの細かいダイナミクス変化など、非常に生き生きとした豊かなサウンドを聴くことができる。特に金管楽器の音色はある意味理想的な響きを奏でており、その奥深さと豊かな音色は魅力的であると言える。木管楽器の演奏は統一感と軽快さが明確であり、弦楽器は幅広さからなるスケール感よりも研ぎ澄まされた音色の美しさを強く聴くことができる。曲の構成としても各楽章ごとに頂点が繰り返されるわけだが、今回の演奏ほど理想的なマーラーは久しぶりに聴けた。
・マーラー:交響曲第2番「復活」
録音:2018年11,12月
・クリスティアーネ・カルク(ソプラノ)
・エリーザベト・クールマン(アルト)
プラハ・フィルハーモニー合唱団(合唱指揮:ルカーシュ・ヴァシレク)
テンポの緩急からして、生き生きとした音圧の強さを演奏から通して聴くことができるインパクト満載の演奏を聴くことができる「復活」。もちろんそれだけではなく、第4楽章と第5楽章では合唱や歌手も加わるためその美しい歌声や音色の美しさに酔いしれることができる。全楽章共通して言えるのは、金管楽器の音色の変化である。「緩→急」ではインパクトのある音色を、「急→緩」では透明度の高い美しさに特化した神秘的な音色、響きをそれぞれの場面で聴くことができるのは非常に面白い。最終的には合唱とオーケストラが一体化するため、その際の荘厳的な美しさからなるスケール感は大きな感動をもたらしてくれるだろう。
・マーラー:交響曲第3番
録音:2024年1月30日〜2月3日
・カトリオーナ・モリソン(メゾ・ソプラノ)
プラハ・フィルハーモニー合唱団(女声)(合唱指揮:ルカーシュ・ヴァシレク)
プエリ・ガウデンテス(少年合唱)(合唱指揮:リボル・スラーデク&ヤン・キーヨフスキー)
・ヤン・ムラーチェク(コンサートマスター)
・ヤン・ペルニー(トロンボーン独奏)
・ワルター・ホーフバウアー(ポストホルン独奏)
非常に重量感のある始まりではあるが、その分厚いスケールからなる音の太さは強烈である。故に第1楽章冒頭におけるホルンの音色は非常に存在感のある演奏だ。自然的な音のバランスによる美しさと、細かい細部にわたって演奏されるダイナミクス変化が描かれている。テンポの緩急も各楽章ごとに分かれているが、激しい演奏というわけではないどちらかといえば緩やかでアンサンブルを聴くことができる状態での演奏が展開されているため、牧歌的で落ち着いた空間をもととした世界観を聴くことができる。第4楽章、第5楽章における歌手や合唱の歌声もオーケストラとの調和的なバランスからなる美しい透明度からなるため、弦楽器や木管楽器による自然的な音の美しさが損なわれていないのが大きい。そして、第6楽章における弦楽器によるたっぷりと奏でられた美しさからなるスケールは格別の美しさてあるといえる。伸びやかさと透明度の高いダイナミクス変化は息を呑むような神秘的感覚を覚えるだろう。
・マーラー:交響曲第4番
録音:2020年8月21〜26日
・チェン・ライス(ソプラノ)
第1楽章冒頭の鈴とヴァイオリンによるテンポを遅くしながらの緩やかなアプローチは、ブーレーズ盤ぶりに思わず驚かされた演奏である。それにしても甘さたっぷりに演奏が行われているため、これは素晴らしい世界観の始まりであることを予感させてくれた。それ以降の楽章も細かいテンポの緩急が連続するため、その揺らぎやダイナミクス変化によるアンサンブルの空気的な流れの美しさを余すことなく聴くことができる演奏は中々ない。近年におけるマーラー録音のほとんどはスタンダードかされている中でこれほどの個性に満ち溢れたマーラーはないと言っても良いだろう。第4楽章ではソプラノが見事に美しい歌声を歌い上げており、オーケストラとの調和的な響きの世界は伸びやかでもありバランスの良さが冴えわたるアプローチの連続である。
・マーラー:交響曲第5番
録音:2021年12月8〜11日
第1楽章冒頭のトランペットによるソロからして、強弱の違いやアタック、アーティキレーションが明確に出ていることもあり、メリハリからプラスとなったパワーを細部まで細かく聴くことができる。それはやがてオーケストラ全体に広がり、テンポの緩急を味方としてダイナミクス変化が見事に展開されている。第2楽章では多少の荒さは目立つかもしれないが、それ以外の楽章では豊かな音色を軸として聴くことができ、最終的にはインパクトのあるスケール感を味わえた上での演奏となる。第4楽章アダージェットの美しさは異常なほどであり、ゆったりとしたテンポから伸びやかさのある弦楽からなる細部まで細かく演奏されている。それはまさに息を呑むような美しさであり、第5楽章冒頭のホルンの音色はそれを受け継いだ状態で始まるため、これほど美しい音は中々聴くことができないだろう。その後も優美さが加わった状態で展開される緩やかなアプローチは、これまでに聴いてきたどの同曲録音の中でも類を見ないような美しさに満ち溢れていたのは間違いない。
・マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
録音:2018年11月〜2025年6月
久しぶりに聴いていて興奮することができた演奏に巡り会えた気がしている。オーケストラ全体としてひとつにまとまり合う一体感、分厚いスケールを兼ね備えたテンポの緩急からなるダイナミクス変化を聴くことができた気がしている。ティンパニの強打やトランペットをはじめとする金管楽器の叫ぶような咆哮、弦楽器による狂ったような狂乱の演奏、木管楽器は聴き手をあざ笑うかのような道化のような感覚を感じ取ることができるようになっている。100種類以上の「悲劇的」を聴いてきたが、その中でもトップクラスの演奏であるのは間違いない。また、ハンマーの打撃に関しても「ズシン」とした重みと深みを通して聴くことができるのはこの演奏だけかもしれない。
・マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
録音:2018年11月〜2025年6月
全楽章共通して独特なアプローチからなる細かいダイナミクス変化やテンポの緩急が非常に功を奏す演奏となっている。時に荒々しく、時に緩やかさや安らぎを持って演奏されるのが面白い。特に第3楽章以降は間や溜め、揺らぎが多く見受けられる。その中で各楽器ごとの群としての響きの重なりなど美しさを感じ取ることのできる箇所は随所存在している。特に第5楽章に到達すると、金管楽器群によるパワーだけではなく個性豊かな音色の変化というものを多発的に聴くことができるようになるので、今まで難解さ故に積極的に聴きづらいと感じる方も多かったこの曲がより聴きやすくなったと感じるのは間違いない。
・マーラー:交響曲第8番「一千人の交響曲」
録音:2018年11月〜2025年6月
・サラ・ウェゲナー(ソプラノ1)
・カテリーナ・クニェジコヴァー(ソプラノ2)
・ミリアム・クトロヴァッツ(ソプラノ3)
・ステファニー・イラーニ(メゾ・ソプラノ1)
・ジェニファー・ジョンストン(メゾ・ソプラノ2)
・デイヴィッド・バット・フィリップ(テノール)
・アダム・プラチェトカ(バリトン)
・デイビット・シュテフェンス(バス)
プラハ・フィルハーモニック合唱団(合唱指揮:ルカーシュ・ヴァシレク)
ブルノ・チェコ・フィルハーモニー合唱団(合唱指揮:ジョエル・ハナ&ペトル・フィアラ)
プラハ・フィルハーモニック児童合唱団(合唱指揮:イジー・フヴァーラ)
ダニエラ・ヴァルトヴァ・コシノヴァ(オルガン)
ズデニェク・クラウダ(副指揮)
荘厳的な美しさと、豊かで深みある音色を奏でるチェコ・フィルと共に合唱が美しい歌声を聴くことができるのはまさにこの美しい空間をたっぷりと楽しめる美しさが秘められているのは明確である。第1部こそ長大であり、テンポの緩急からなる激しいダイナミクス変化をたっぷりと聴くことができた。第2部では伸びやかなスケールからなるオーケストラ演奏や合唱、歌手の美しい歌声が非常に功を奏す形となっている。ダイナミック・レンジの幅広さを細部まで細かく聴くことができるのはもちろん、各楽器ごとに透明度の高い響きが奏でられているのはこの演奏ならではであると言える。
・マーラー:交響曲第9番
録音:2018年11月〜2025年6月
楽章によっては多少の荒っぽさが演奏から通して聴くことができなくはない。特に金管楽器群の演奏にその傾向を感じる。しかし、弦楽器の深みある濃厚な音色をたっぷりと聴くことができる面を考えると、この交響曲第9番における演奏としては伸びやかなスケールを聴くことができるため第4楽章終盤における静寂的な美しさも含めて感動を味わえる。各楽器によるアンサンブルも細かく演奏されているため、ダイナミクス変化を含めて聴きやすかった。
久しぶりにマーラーの交響曲全集を聴いたが、近年稀に見る名盤を多数収録した全集であると言えるだろう。新しい発見を与えてくれた交響曲第4番や第7番など、一つ一つの交響曲の素晴らしさを改めて知ることができた。これは繰り返し聴きたくなってしまう。誕生日を迎えた今日という日になる直前まで聴き続けたのもあるが、ビシュコフ&チェコ・フィルのマーラーは全ての人にオススメしたいと思う。


















