今回の記事ではイギリスの大学の選抜度について考えていきたいと思います。

ここでいう選抜度とは○△大学の学生の学力は同世代の人口の中で上からどのぐらいの位置かという事を指します。
大きな意味で捉えれば以前の記事に書きました入学難易度の話も基本は同じ話ですが、その国の中でしか比較できない入学難易度や偏差値に対して、選抜度は(国ごとの大学生の平均学力の違いは考慮する必要はありますが)国を横断して比較をする事が可能な指標です。

特に似たような経済水準の先進国であれば同じ選抜度合の学生の学力レベルは近い水準だと見てよいと思います。この記事ではイギリス、日本、アメリカの大学の選抜度を調べることで大学の比較をしていきます。


1.イギリスの大学(学部)の選抜度

まずイギリスの大学の学部の選抜度を実際に計算します。計算手順としては、まず準備としてイギリスの大学を入学難易度順にソートする必要があります。これは以前の記事でとりあげた大学入試の学力試験結果にあたりますUCAS Tariffの平均スコアでソートします。ここではUCASのスコアが高い上位12の大学を取り上げます。

次に必要なのはそれぞれのイギリスの大学の1学年あたりの学生数です。ただし気をつけなければならないのは留学生の存在で、人口比の選抜度を見るには全体の学生数ではなく現地の学生の数を別途調べる必要があります。

そして最後に現地の学生の数を学生数を累積していき、イギリスの18歳人口(79万人)で割る事で、イギリス国内の上位何%以内が通う大学か、つまりその大学の選抜度合の数値を出します。

これをまとめたのが下の表です。

イギリスの大学徹底分析-UK 学部選抜度
イギリスの大学(学部)の選抜度



選抜度はトップ10大学で人口の上位3.58%、トップ12大学で人口の上位4.72%となりました。


2.イギリスの大学(大学院)の選抜度

次にイギリスの大学院の選抜度を見ていきます。
手順は学部と基本的には同じですが以下の3点が異なります。

(1)まず大学院では研究力が重視されますので学部と違いブランド力だけではなく、研究力が入学への判断材料になります。そのため、ランキングも学部とは少し変えてみる必要があります。

(2)イギリスにも日本同様に大学院大学がありそれらも考慮する必要があります。

(3)大学院は修士、博士があり、コースによっても何年在籍するかが異なり学部のように1学年あたりの定員を調べることは無理です。

これに対する解決策として次の3つの方法を選びました。

(1)については過去の記事で取り上げました入学難易度+研究力のランキングを使おうと思います。イギリス人が大学院入学にあたってブランド力と研究力をどの程度の割合で重視するかは不明ですが半々で見ておけば実態からそれほど離れていないと思います。

(2)については、London Business School(LBS)の学生数を累積学生数に含めました。LBSは経営学のみの大学院大学で入学難易度やランキングではイギリス最難関にあたります。そのため比較計算用にCambridge大の累積学生数に足し合わせています。同じく大学院大学として評価の高いCranfield大学もこの中に含める必要があるかもしれませんが、MBA以外の専攻での立ち位置が今ひとつ不明のため、今回は外しました。

(3)については1学年あたりの定員の代わりに大学院総学生数の18歳人口に対する割合で選抜度を見ます。イギリスは修士号がLBSを除き、大半が1年制なので日本やアメリカに合わせ、学生数を5/4倍して後の比較が出きるように加工します。厳密な選抜度は違いますが他国との比較指標として使う分には問題ありません。

これを考慮した上で出した選抜度のデータが下の表です。

イギリスの大学徹底分析-UK 大学院選抜度
イギリスの大学(大学院)の選抜度



3.日本の大学との選抜度(学部のみ)

日本の大学の選抜度を調べます。
基本的な考え方は同じですがいくつか考慮するポイントがあります。

(1)UCASで全大学が同一の指標で統一されているイギリスと違い、日本の学部の入試は大学ごとに異なります。特に国立と私立で大きな違いがあり比較が難しいです。

(2)ほとんどの大学が総合大学であるイギリスと違い、日本は小さな単科の大学が沢山あります。特に医系単科大学は非常にレベルが高いのが特徴でこれらの進学者も考慮する必要があります。

そこで次のように決めました。

(1)客観的な同一指標がなく比較が難しいので大雑把にグループに分けてランク付けをする事にしました。一般に日本の最難関大と考えられている旧帝大、一橋大、東工大、神戸大、慶應大、早稲田大の12大学を取り上げます。

(2)1で取り上げる事にしました大学と難易度でひけをとらないと考えられる医学系の大学を医系単科大上位、医系単科大中位と分けて計算します。

今回の選抜度の目安として次のように順位をつけました。順位については異論がある方もいらっしゃると思いますのでその場合は、自分の考えるランキングで置き換えて考えてください。

1.東京大学
2.医系単科大上位
3.京都大学
4.一橋大学/東工大学
5.大阪大学
6.医系単科大中位
7.地方旧帝大、神戸大、早慶上位(地方旧帝大、神戸大、早慶の学生数の上半分)
8.地方旧帝大、神戸大、早慶下位(地方旧帝大、神戸大、早慶の学生数の下半分)

この順位を元に1学年あたりの日本人学生数を18歳人口(122万人)で割って選抜度を出したのが下の表です。

イギリスの大学徹底分析-日本 学部選抜度
日本の大学(学部)の選抜度



選抜度はトップ12大学で人口の上位3.77%となりました。


4.日本の大学の選抜度(大学院)

次は日本の大学院の選抜度を調べます。

日本の大学院は学部の入学選好度が大学院にもそのまま適応されると仮定します。個々の専門分野での上下はありますが、平均すればだいたいそうなるだろうと考えるのが自然だからです。

従いまして先の項目で取り上げましたランキングをそのまま適応します。この順位を元に大学院の日本人学生数を18歳人口(122万人)で割って選抜度を出したのが下の表です。

イギリスの大学徹底分析-日本 大学院選抜度


なお、北陸先端科学技術大学院大学、奈良先端科学技術大学院大学、政策研究大学院大学など日本にも大学院大学が存在しています。それらをどう評価するかについては客観的な指標が無いので今回はランキングからは外しました。実際にはいくつかの大学院大学はこのランキングの中に入ってくると思われますので日本の大学院の選抜度はやや高めの数値が出ていると考えてください。


5.アメリカの大学との選抜度(学部)

アメリカの大学の学部の選抜度を調べます。アメリカの大学はSATという統一大学入試試験を利用していますのでこのデータを使って選抜度を計算します。SATの75 percentileと25 percentileの数字の平均を取ることでその大学の平均学力を見ます。SATの平均点が同じ大学の場合は75 percentileの数値が高いほうの順位を上としました。

SATのデータは以下のサイトを参照しました。
大学別のSATのスコアランキング

このデータを元にアメリカの大学の学力の入学難易度をソートし、それをイギリスや日本同様に現地学生の累積学生数のデータから18歳人口(494万人)における比率を求めました。そして入学難易度でトップ100位の大学をピックアップしました。

この結果は下の表となります。

イギリスの大学徹底分析-US 学部選抜度
アメリカの大学(学部)の選抜度



アメリカの場合気をつけないといけないのは、大学院を持たないリベラルアーツと総合大学の2種類の大学がある事です。そのため、日本やイギリスと同じタイプの大学院も持つ総合大学(便宜上ここではそう呼びます)のみを対象にしたランキングの数値も載せました。トップ100位の中には総合大学52校、リベラルアーツ48校が含まれています。

選抜度はトップ100大学で人口の上位3.30%となりました。


6.アメリカの大学との選抜度(大学院)

最後にアメリカの大学の大学院の選抜度を調べます。アメリカの場合学部と大学院のランキングがかなり大きく変わるので、そのまま学部のランキングを用いる事ができません。そこで次のような考えでランキングをつくり、それを元に選抜度を計算しました。

アメリカの大学院のランキングはUS News & World Reportが分野別大学院ランキングとして提供しています。
US News & World Reportの大学院ランキング

この中で全ての専攻では無いものの、法律学、経営学、教育学、工学、医学において各大学毎の大学院入学試験の平均点が公開されています。この平均点で専攻ごとにソートし、平均順位を求めました。この順位を大学院の難易度順だと見なしました。

この結果の大学院ランキングが下の表になります。

イギリスの大学徹底分析-US 大学院難易度総合ランキング
アメリカの大学(大学院)の難易度ランキング



この表のランキングを元に大学院の現地学生の累積学生数を調べ、選抜度を求めたのが次の表です。

$イギリスの大学徹底分析-US 大学院選抜度
アメリカの大学(大学院)の選抜度



7.まとめ・イギリス/日本/アメリカの大学の比較

これでようやく準備が全て整いましたので、最後にイギリスの大学、日本の大学、アメリカの大学を比較していきましょう。

7.1イギリス/日本/アメリカの学部選抜度合の比較

まず学部で比較をしてみます。

イギリスの大学徹底分析-日米英学部選抜度比較
イギリス/日本/アメリカの大学(学部)の比較



この表は学部の選抜度を日本、アメリカと比較し、だいたい同じレベルの大学を乗せています。なお、比較に当たってはImperial College LondonLondon school of Economicsを同率3位という計算にしています。これは東工大と一橋大のようにそれぞれ理系単科大と文系単科大のためです。

さて日本の大学で見てみますとだいたい選抜度で東大にあたるのがCambridge大、京大・一橋大・東工大にあたるのがOxford大です。続いてImperial College LondonLondon school of Economicsが大阪大に該当し、イギリスのトップ10大学がだいたい日本のトップ12大学とほぼ同等の選抜度です。

一方、アメリカの大学で見ますとStanford大とCambridge大が互角、Cornell大と互角なのがOxford大です。Imperial College London、London school of EconomicsはSouthern California大に相当し、イギリスのトップ10大学はだいたいアメリカの総合大トップ52とほぼ同等の選抜度です。

Edinburgh大Kings College Londonは学部の選抜度において米国の総合大トップ52、リベラルアーツを合わせた大学トップ100と比較すると選抜度合が劣るのでこの2つは該当する大学は記載していません。
ただしトップ10大学の傾向からこの2大学はだいたい米国の総合大トップ55~60の大学にあたると予想されます。

7.2イギリス/日本/アメリカの大学院選抜度合の比較

次に大学院で比較してみます。

イギリスの大学徹底分析-日米英大学院選抜度比較
イギリス/日本/アメリカの大学(大学院)の比較



この表は大学院の選抜度で日本、アメリカと比較し、だいたい同じレベルの大学を乗せています。なお、比較に当たっては同様にImperial College LondonとLondon school of Economicsを同率3位、一橋大学、東工大も同率4位という計算にしています。これは上述の通りそれぞれ理系単科大と文系単科大のためです。

さて日本の大学で見てみますとだいたい選抜度で東大にあたるのがCambridge大とOxford大、京大にあたるのがImperial College LondonとLondon school of Economics、一橋大・東工大にあたるのがUniversity College London大です。続いてUniversity of Warwickが大阪大に該当し、イギリスのトップ11大学がだいたい日本のトップ12大学とほぼ同等の選抜度です。

選抜度は学部の時に比べてイギリスの方がやや高くなっています。

一方、アメリカの大学ですとCambridge大はHarvard大とほぼ互角の結果となり、Oxford大はStanford大と互角の結果になりました。Imperial College London、London school of EconomicsはMichigan大Ann Arbor校に相当し、イギリスのトップ12大学はだいたいアメリカの総合大トップ50とほぼ同等の選抜度です。

大学院が学部より小さいイギリスに対して、アメリカは学部より大学院の規模が大きいという特徴があるため、大学院は全体に学部の時の比較と比べてイギリスの方が選抜度合が高まっています。

なお、LBSに関しては経営学のみの大学院であり、また既にMBA専用のランキングがあり、米国の大学と比較する意義をあまり感じませんでしたので比較表には含めていません。別途のMBAのランキングを見る限りは米国トップレベルのMBAと互角のようです(参照元)。

7.3イギリス/日本/アメリカの大学総合選抜度合の比較

最後に、学部、大学院双方の順位を足した平均値で比較をしてみます。

上述の通り、Edinburgh大とKings College Londonは学部の選抜度において米国の総合大トップ52より劣るので選抜度の数値は計算されていませんでした。総合順位を出す際にこのままだと計算ができないので目安としてトップ10大学の平均順位の傾向から推計値を当てはめて計算しました。

アメリカの大学の学部と大学院の平均順位は上の大学院選抜度の表に"(平均)"という形で大学院の順位と学部の順位の横に併記してあります。

$イギリスの大学徹底分析-日米英大学総合選抜度比較
イギリス/日本/アメリカの大学(総合)の比較



学部と大学院を合わせました総合的な選抜度を見ますと、Cambridge大は日本では東京大、アメリカではMassachusetts工科大とほぼ同水準、Oxford大は日本では京都大、アメリカではDartmouth大と互角です。Imperial College London、London school of Economicsは日本の東工大、一橋大、アメリカのJohns Hopkins大に相当します。アメリカのトップレベルの大学の代名詞であるアイビーリーグ加盟大学で見ますと、一番低い平均順位の大学はCornell大学の22.0位です。従って英国のトップ4大学がこの水準以内の大学に該当しており、英国第5位で平均順位27.5位のUniversity College Londonがやや及ばずという結果になっています。

全体で見ますとイギリスのトップ12大学はだいたい日本のトップ12大学とほぼ同等の選抜度です。つまり選抜度の観点で言いますと日本の大学とはトップ12同士がほぼ1対1の関係です。人口規模は日本とイギリスでは大きく違うものの、18歳人口比と留学生の割合が大きく違うためです。

一方でアメリカの場合はアメリカの総合大トップ50とイギリスのトップ12大学がだいたい同等の選抜度です。イギリスの大学のランキング順位を4~5倍にした順位がアメリカの大学での比較対象となる大学となっています。これは人口規模の違いがダイレクトに反映された結果になっています。


なお、これらの選抜度はあくまで現地の学生を対象としたもので、留学生の選抜度のレベルではありません。普通は留学生も現地の学生の学力を基準にして入学させますので、ある程度は似通った結果にはなると予想できますが各国の入試方式も異なりはっきりとした比較材料が無いため、この記事では比較を見合わせました。ただ留学生向けにSAT、GRE、GMATなどでの入試を実行している一部の大学や一部の専攻があり、その入学基準の傾向からアメリカの大学との比較をして推測しますとイギリスの大学の学部留学は現地の学生よりも入学が少し難しめ、大学院留学は現地の学生より入学が少し易しめという逆の傾向が読み取れます。そのため学部と大学院を平均すればアメリカの大学との比較位置はやはり現地の学生のレベルとほぼ同じ位置になるだろうと個人的には見ています。一方、日本の大学へ来ている留学生に関しては全く手がかりがありません。

またこの表は現地の学生同士の比較ですので、日本の大学に在籍しています日本人学生とイギリスの大学に在籍しています日本人学生の比較も出来ません。あくまでイギリスの大学に在籍しているイギリス人の学生と日本の大学の在籍する日本人の学生、アメリカの大学に在籍しているアメリカ人学生というような比較しか出来ないことに注意してください。

またこの比較はあくまで大学全体の平均値で計算していますので専攻によっては上下します。

今回の記事は長くなりましたが以上となります。

なおアメリカの大学との比較は大学数が多く分かりにくいと思いましたので別に以下の選抜度の一覧表を作りました。
英米大学選抜度・研究力比較一覧表


英国の大学に関する記事
イギリスの大学の分類イギリスの大学の4つの分類
入学難易度(偏差値)と研究力イギリスの大学入学難易度と研究力のランキング
イギリスの大学の専攻別の入学難易度と研究力
近年のイギリスの大学の学部入学難易度の変遷
2013年度の大学入学難易度
2014年度の大学入学難易度
選抜度の国際比較英米大学の選抜度比較一覧表
・ 選抜度で見たイギリスの大学とその国際比較
ラッセルグループなど主要大学グループの難易度と選抜水準
研究力の国際比較英米大学の研究力比較一覧表
イギリスの大学の研究力の国際比較
イギリスの大学の研究力の国際比較 (2013年版)
ノーベル賞受賞者数ノーベル賞受賞者数で見るイギリスの大学
卒業生の初任給イギリスの大学の初任給ランキング
富裕層の出身大学富裕層を輩出する英国大学はどこか
公立高校出身比率公立高校卒業生比率で見るイギリスの大学
成績評価と卒業難易度イギリスの大学の成績評価と卒業難易度の傾向
世界大学ランキング世界大学ランキングの問題点と信頼性

英国の主要大学の紹介記事
ケンブリッジ大学オックスフォード大学インペリアル・カレッジ・ロンドン (IC)ロンドンスクール・オブ・エコノミクス (LSE)ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン (UCL)
ウォーリック大学ダラム大学セントアンドルーズ大学ブリストル大学エジンバラ大学
バース大学キングス・カレッジ・ロンドン (KCL)ヨーク大学ノッティンガム大学マンチェスター大学
バーミンガム大学シェフィールド大学サウサンプトン大学グラスゴー大学エクセター大学
東洋アフリカ研究学院 (SOAS)カーディフ大学クイーンズ大学ベルファストロンドンビジネススクール (LBS)クランフィールド大学