しばらく前にイギリスの今年秋入学者の大学入試結果がでたようです。少し遅くなりましたがデータの分析をしていきます。


1.今年の入学難易度と変化

既にインディペンデント紙などの新聞社で2013年度のイギリスの各大学の学部入学予定者のUCASの成績が公開されています。(参照元)

これを以前のデータで計算したように偏差値のスコアに計算しなおしたのが下表となります。

イギリスの大学徹底分析-2013年度入学者のイギリスの大学の偏差値
2013年度入学者のイギリスの大学の偏差値


学部授業料の大幅な値上げが起きたこともあり、ここ数年と比べるとかなり傾向が変化しました。具体的にどのように変化したかを大学をいくつかのグループに分類して調べてみました。この表が以下の表、グラフとなります。

イギリスの大学徹底分析-2013年度入学者の前年比トレンドの変化
2013年度入学者の前年比トレンドの変化


イギリスの大学徹底分析-2013年度を含めた中長期のトレンド変化
2013年度を含めた中長期のトレンド変化


1-1. 古代の大学

まず、最初に目を引く変化は英国内にある6つのAncient universityと呼ばれる創立が古い古代の大学の人気が大幅に上がっていることです。このグループに属する大学は全て難易度が上昇し、平均で2.8の偏差値上昇が見られました。ケンブリッジ大学オックスフォード大学はさらに難化し、スコットランドのセントアンドルーズ大学もこの2大学を追い近年で最も高い難易度を記録しました。また10年間で大幅に易化を続けていたエジンバラ大学は下降が止まり反転の気流に乗り始めました。また別途に後述しますがスコットランドの大学は人気が大幅に上昇しています。

1-2. ロンドンの主要大学

ロンドンの主要大学は全般的にやや停滞しました。主要7大学の中で唯一難化をしたインペリアル・カレッジ・ロンドンを除けば現状維持、または易化となりました。特に東洋アフリカ研究学院(SOAS)の人気下落が激しく、偏差値にして4の低下が起き、リーマンショック発生以降の人気上昇からほぼ戻りつつあります。またロンドンスクール・オブ・エコノミクス (LSE)も同じく易化した事から、文系専攻自体の人気が落ちていることも伺えます。なお、ロンドンの主要大学の中で唯一の上昇をしたインペリアル・カレッジ・ロンドンは昨年のオックスフォードの入学難易度の水準に達しており、ここ10年間で最も難化しています。

1-3. イングランドの主要大学(グループA)

オックスブリッジ、ロンドンを除いたイングランド主要大学のうち上位4大学の傾向を見ると、全ての大学で難易度の易化が起き、全般的に停滞しているのが伺えます。このグループの中で一番停滞したのは偏差値を2落としたバース大学で、古代の大学の上昇とは対照的に創立が新しい大学が苦戦した様子が伺えます。

1-4. イングランドの主要大学(グループB)

上記以外のイングランドの7つの主要大学を見るとグループAほどではないものの、難易度は前年維持または下落と停滞をしました。一番停滞をしたのがノッティンガム大学で、偏差値2を落とし、ここ10年で最も人気が落ちました。

1-5. スコットランドの主要大学

スコットランドの主要6大学は全般的に人気が上昇しました。特に上昇が激しかったのが偏差値にして6上昇をしたアバディーン大学です。その他の大学も全般的に上昇気流に乗り、リーマンショック以降人気が下落し続けていたスコットランドの大学の人気下落に歯止めがかかり、反転しました。ただしダンディー大学は昨年と同様の難易度であるように、スコットランド全ての大学の人気が上がったわけではないようです。

1-6. ウェールズの大学

ウェールズの主要2大学はスコットランドの大学ほどではないですが、人気が上昇しました。カーディフ大学、スワンジー大学共に偏差値を1ずつ上げています。

1-7. 北アイルランドの大学

北アイルランドのクイーンズ大学ベルファストは前年に比べると偏差値の変動は無く、現状維持という状況でした。


2.傾向の変動の原因

上述のように昨年に比べて受験生の大学の嗜好がかなり様変わりしました。原因を簡単にですが追ってみます。

2-1.授業料の変化と受験生数の減少

最大の原因は授業料の変化です。昨年まで英国及び欧州連合の生徒の授業料は年間3000ポンドでしたが、今年秋入学者から最大9000ポンドにまで上がります。英国の殆どの大学が最終的に8000ポンド~9000ポンドの授業料に設定しました。この影響は強烈で、イギリス人の大学出願率は全体に15%の減少をしました。(参照元)

これはここ20年間上昇し続けていた英国の大学進学率が大きく落ち込んだことを意味します。大学によってはこの影響を厳しく受けており、例えばロンドンにあるシティ大学は昨年比で41.4%の出願者数の減少をしました。(参照元)

この傾向変化は以下の2つの事を説明できます。それは伝統的にパブリックスクールに通う富裕層の学生を主に受け入れている大学は軽微な影響となった一方、中産階級以下の庶民向けの大学は大幅に人気を落としたという点です。事実、上流階級に人気が高い古代の大学は授業料の値上げを物ともせずに一様に難易度を上げた一方、ウォーリック大学やバース大学、ヨーク大学などの庶民向けの大学は一様に人気を落としています。また一様に人気を上げたスコットランドの大学でも州立高校卒の比率が高く庶民向けのダンディー大学の人気が上がらなかった事もこの見方を裏付けます。

2-2.地元志向の上昇

二つ目の傾向は地元志向の上昇です。これは特に人口規模が比較的大きいスコットランドとウェールズの大学に顕著に現れました。スコットランドは国内法によりスコットランド人に対しては実質的に大学の授業料が実質的に無料になります。この事は年間9000ポンドの授業料とそれに加えた生活費を払ってまでイングランドの大学に通う動機が大きく低下する事を意味します。今年の結果を見ますとスコットランドの秀才の多くは地元の大学に留まった事が伺えます。また、スコットランド以外の地域でも、全般的に授業料以外のコストを安く済ませるために地元にとどまる人が増えた様子が伺えます。


なお、今年の傾向について、昨年、「近年のイギリスの大学の学部入学難易度の変遷」の中で予測を書きました。ある程度あたった部分もありましたが、外れた部分もありました。外れた部分は主に就職に強い大学、特にロンドン内の大学の人気堅持に関する部分です。イギリス人も就職を気にしない訳ではないですが授業料の大幅な値上げを打ち消す程には魅力を感じなかったように見えます。

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