中国の上海交通大学が毎年秋に発表する世界大学ランキング(Academic Ranking of World Universities 以下ARWU)の最新版(2013年)の内容をまとめましたのでアップします。今回はラッセルグループに焦点をあてています。

以前の記事にも書きました通り、このランキングはトムソンロイターという会社が提供する科学論文のデータベースを元に大学の研究力を評価し、加えてノーベル賞やフィールズ賞などの国際的に重要な学問の賞を受賞した卒業生がどのくらいいるか、またそれらを受賞した研究者が教員としてどのぐらいいるのかを加味してランキングを作成しています。言い換えれば大学の研究力・研究者育成力を評価しているランキングです。下のリンクがそのランキングサイトです。

Academic Ranking of World Universities

このランキングの優れている点は、単純な論文引用数のデータを中心に研究力を評価をしている他の世界大学ランキングの研究力評価と比べ、論文引用数以外にも一流論文誌への論文掲載数や特に論文引用数が高い各研究分野のスター教授の在籍数など様々な角度から詳細に研究力を調査している点です。そのため、研究力がバランス良く査定されています。

1.イギリスの大学の研究力・研究者育成力の国際水準

この研究力の一覧表は以下のようになります。

ARWUのイギリスの大学のランキング結果
ARWUのイギリスの大学のランキング結果


ARWUの全体ランキングでは医系や理学に偏りすぎるため、専攻別研究力ランキングの平均で見ています。また教員一人当りの平均研究実績のスコアも今回は載せました(ただし文理混合のため文系中心の大学はこの指標では低めの数値が出ています)。2013年版ではイギリスでは10大学が全専攻分野が世界上位200位以内にランクインする結果となりました。またラッセルグループは全般的に研究力が高い事が伺えます。


2.日本の大学との比較

日本の大学と比較するために日本の大学の研究力ランキングの結果を作りました。

ARWUの日本の大学のランキング結果
ARWUの日本の大学のランキング結果


日本の場合は研究力は旧帝大が中心となってリードしています。日本の大学とイギリスの大学の研究力を比較する場合、注意する点は文系と理系で事情が全く異なる事です。日本の場合は研究力の文低理高の傾向が極端に強く、実際に社会科学の研究力で世界200位以内に入っている大学は東京大学(151位~200位)のみです。また社会科学の研究力で東京大学を上回る英国の大学は19校存在します。一方、理系の場合はケンブリッジ大学を除くと日英の上位大学は近い水準の研究力となっています。

ただし、全体的な平均傾向で見た場合、ラッセルグループの研究力は旧帝大の研究力をやや上回る結果になっています。また教員一人当りの研究実績のスコアで見ると上の表中の英国の35大学は全て旧帝大と同水準以上の研究力を保持しています。


3.アメリカの大学との比較

アメリカの大学と比較するためにアメリカの大学の研究力ランキングの結果を作りました。

ARWUのアメリカの大学のランキング結果
ARWUのアメリカの大学のランキング結果


アメリカとイギリスの大学で比較すると、研究力はアメリカの方が全体的に優位な傾向になっています。アメリカ大学協会(AAU)やパブリックアイビーは学力選抜水準ではラッセルグループと拮抗していますが、研究力では平均的にラッセルグループを上回っています。ただしラッセルグループの研究力上位校はアメリカの研究上位大学とも遜色の無い水準を維持しています。

また、個別の教員一人当たりの平均研究実績で比較するとイギリスの大学の研究力はアメリカの研究上位大学に近い水準になります。イギリスの大学の一つの長所として教員一人当りの研究実績のスコアの大学間格差が小さく、ラッセルグループやそれに比肩する大学では全て15以上、大半が20以上の高いスコアを維持しています。アメリカや日本のデータと比べると個々の大学教員のレベルは主要大学では比較的均一な事が伺えます。


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イギリスで卒業後に経済的に成功し易い大学はどこか、少し俗な話ですがこの疑問に答えるためにSpear's社とWealthInsight社が合同で各大学の卒業生の億万長者輩出者数を調査をした結果が最近発表されましたので紹介します。

富はどのように教育されてきたのか

1. イギリスの大学の傾向

調査は現在世界中の年収100万ドル以上の富裕層の卒業大学を調べ、その人数を卒業した大学ごとに多い順に並べ替えたという内容です。世界の上位500大学まで調べています。イギリスの大学は500位以内に42大学がランクインするという結果になりました。以下がイギリスの42大学のランキングです。

英国大学の富裕層輩出数ランキング
英国大学の富裕層の輩出数ランキング



ランキングは意外性が少ない結果となっています。実際、最新の入学難易度(偏差値への換算値)と富裕者の輩出世界順位を比べると緩やかな相関関係があり、入学が難しい大学に入るほど卒業後に経済的に成功しやすくなる傾向がある、または経済的に成功している人を輩出している大学ほど人気が集まりやすいと言えます。特にラッセルグループの構成大学の間ではその傾向が顕著に見えます。

富裕者の数と入学難易度
富裕者の輩出と入学難易度の関係


なお、セントアンドルーズ大学、バース大学、アバディーン大学は同難易度帯の他大学に比べるとランキング順位で苦戦していますが、これは他の主要大学と比べると学生数が少なく規模の小ささが影響していると考えられます。また500位以内にランクインしているポリテクニクからの昇格4大学は伝統校に比べると入学難易度に比べて相対的に富裕層の輩出数が多いという職業訓練校独自の傾向が伺えます。


2. 世界の上位100大学

富裕者の輩出数の世界の上位100大学は以下の通りになっています。

富裕層輩出数の世界上位100大学
富裕層の輩出数ランキング 世界上位100大学


上位100校で見るとアメリカの大学が圧倒的に多く、62校(大学付属のビジネススクール/大学連合を除くと48校)がアメリカの大学となっています。アイビーリーグの加盟校は全てランクインしており、またパブリックアイビーも17校(11校が大学連合、6校がカレッジ単体)がランクインをしています。一方、イギリスは6校(大学連合を除くと5校)が100位以内にランクインしていますが、国の経済規模、人口規模の違いを勘案しても少ない結果となっています。なお国別で見るとアメリカ、フランスに次いでオーストラリアと同数の3番目となっています。

国別富裕層輩出上位100校ランクイン数
国別の富裕層の輩出数上位100校の輩出大学数




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世界大学ランキングの問題点と信頼性について書いてある興味深いニューヨークタイムズの記事(参照元)を見ましたので紹介します。

記事は主要な世界大学ランキング(上海交通大学(ARWU)、タイムズ(THE)、QS)に焦点をあて、その問題点と信頼性について述べた内容です。内容を簡単に要約すると以下のようになります。


上海交通大学世界大学ランキング(ARWU)

1.世界初の本格的な世界大学ランキングで、研究論文の発信数や引用数などの統計データとノーベル賞、フィールズ賞、チューリング賞などの受賞者輩出数のデータを合算してランクをつけており、各学問分野の研究に強い大学を探す目的には最適。

2.社会科学と人文科学の研究力は全体の総合ランキングには殆ど反映しておらず、理系の研究力が主に焦点をあてられている。特に医学、生命科学分野の総合ランキング位置への直接的な影響度が大きく、途上国は各国の大学ランキングを上げるために政治的に国内大学の研究を医学、生物学分野に集中させている。しかし実際の経済発展に影響を与える分野は自然科学と工学で、この政策は各国の経済発展を阻害している。

3.大学の研究力の調査のため、教育に主軸を置くリベラルアーツは全て対象外となる。


Quacquarelli Symonds世界大学ランキング(QS)

1.QSはARWUのランキングの欠点を改善し、ランキング計算の50%がインタビューによる名声の聞き取り調査となっている。そのためARWUで(理系や医学部の規模が小さい、教育に集中しているなどの理由で)ランク外や低いランキングポジションの名門大学も拾い上げる事が出来る。

2.一方で手を挙げた人は聞き取り調査に参加出来るため、大学ランキングを恣意的に操作する事が容易に可能。実際アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コーク(UCC)という大学の学長が教員全員に1人につき3人の知人にお願いしてQSの聞き取り調査に参加させてUCCを名門だと答えさせる事を依頼していた事が発覚。

3.聞き取り調査に参加した大学の研究者が自分とは全く無関係な分野の大学の教育力や学習成果の名声まで評価する事は非現実的で、そのような方法をとっているQSの名声調査の信頼性には疑問符がつく。

4.QSは最近になって有料で大学の教育や研究内容を5段階評価で評価するシステムを導入しており、実際にアイルランドのリムリック大学は世界大学ランキングではARWUで500位圏外、QSで400位圏外ながら、9850ドルの入会費と6850ドルの年間会員費を払う事でインフラ、雇用、教育、国際化において5つ星評価をつける事ができるようになった。ランキングの計算に直接の影響は無いものの、これにより間接的に名声をお金で買う事ができる。


タイムズ世界大学ランキング(THE)

1.元々QSと合同でランキングを発表していたが決別し独自のランキングを発表。

2.QSのランキングの問題点を改善するため、名声調査の計算に占める割合を全体の33%まで減らし、聞き取り調査も希望者対象ではなく、タイムズ社が選び招待した人のみに変更。

3.ただし、グローバル教育市場における大学の名声ランキングはニーズが大きいため、世界ランキングとは別に名声ランキングを新たに発表。

4.タイムズのランキングはQSと決別後の数年間はランキングの計算方法を改定し続け、安定していなかった。これは実態に合わない奇妙な結果を修正するため。初年度のランキングでは、エジプトのアレクサンドリア大学の研究力がハーバード大学やスタンフォード大学の研究力よりも上になり、世界ランク200位以内(147位)に入るという結果が起きていたが、これはMohamed Naschie教授が自分の論文の中で膨大な数の自己論文の引用を行い、友人にも自分の論文の引用を依頼する事をした結果。翌年のランキング計算では再発を防ぐ小改定を行っている。さらに翌年も再改定を行ったが、これは前年のランキングの指標となる研究力調査でモスクワ物理工学州立大学(MEPhI)の研究力が世界一という結果が出たため。世界一の原因はMEPhI所属の170人を超える研究者が論文の共同執筆者となっていた結果で、その後の自他の論文引用で機械的に論文引用数が倍々ゲームのように大幅に膨れ上がり実態よりも遥かに水増しした数値で評価された。ただしMEPhIは他の指標が悪かったので最終的にはランクインはしていない。


その他

1.名声調査の結果の割合が高いランキングほど信用度は低い。その意味でQS社のランキングはタイムズ社のランキングよりも信頼性が下がる。

2.世界大学ランキングの信頼性はともあれ注目度は高く、多くの国で就職面接の際にリクルーターから最初に聞かれる質問が「あなたの卒業した大学の世界大学ランキングの順位は?」になっている。そのため世界大学ランキングでランクインしていない大学の学生は就職活動で相対的に不利になっている。


以上が記事の大雑把な要約になります。

記事を読む限り、世界大学のランキングはランキングの特性に注意して見る必要がありそうです。特にQS社のランキングは信頼性の面で非常に問題が多い事が伺えます。

なおこのブログでは研究力の参考としてARWUの分野別世界大学ランキングを使用し、その他の世界大学ランキングは全て副次的な参考資料として扱っています。ただ指標の客観性と医学部、理系中心の学問分野の評価の不均一さの軽減という二つの観点で見た場合、タイムズの世界大学総合ランキングが相対的には割合バランス良く作られていると見れます。


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