今回の記事ではイギリスの大学の成績評価と卒業度の傾向について書いていきます。
1.イギリスの大学の卒業難易度の傾向
以前紹介しましたHigher Education Statistics AgencyというNPO組織が各大学の最終卒業率のデータを公開しています(参照元)。このデータを各大学で最近の5年間の数値で平均をとり、以前に計算しました学部入学難易度の偏差値と相関関係をとってみました。
入学難易度と卒業率の相関関係
相関関係をとったのは偏差値50以上の大学だけですが、この結果を見ると偏差値と顕著な傾向が見て取れます。
①イギリスの大学全体で見ますと大学の平均最終卒業率は85%です。入学難易度が高くなるほど卒業率は高くなり、低くなるほど卒業率は低くなっています。一番卒業率が高い水準が98%~99%、一番低い水準が55%~65%です。
②各大学の最終卒業率の分布を見てみますと2つの傾向があるのが見えます。黒い傾向線の示すグループAと赤い傾向線の示すグループBです。大多数の大学は黒い傾向線の示すグループAに属しています。赤い傾向線の示すグループBはそれらの大学に比べて相対的に卒業難易度が高い事を指しています。グループBに属していると見て取れるのはImperial College London、London School of Economics、St Andrews大学、University College London、東洋アフリカ研究学院、Glasgow大学、Strathclyde大学、Dundee大学の8大学です。
2.イギリスの大学の成績評価の傾向
Higher Education Statistics Agencyが同じく各大学の学部の成績の優等比率(2:1以上)のデータを公開しています(参照元)。このデータを各大学で最近の5年間の数値で平均をとり、以前に計算しました学部入学難易度の偏差値と相関関係をとってみました。
入学難易度と成績評価の相関関係
相関関係をとったのは偏差値50以上の大学だけですが、この結果を見ると同じように偏差値と顕著な傾向が見て取れます。
①イギリスの大学全体で見ますと大学の平均成績優等率は62.7%です。入学難易度が高くなるほど成績評価は高くなり、低くなるほど成績評価は低くなっています。一番成績評価が高い水準がだいたい成績優等率90%、一番低い水準がだいたい成績優等率35%です。
②各大学の卒業率の分布を見てみますと3つの傾向があるのが見えます。黒い傾向線の示すグループと2つの赤い線で囲んだグループです。大多数の大学は黒い傾向線の示すグループAに属しています。上方にある赤い線のグループBはそれらの大学に比べて顕著に成績評価が厳しく、下方にある赤い線のグループCはそれらの大学に比べて顕著に成績評価が緩い事を指しています。グループBに属していると見て取れるのはCambridge大学、Imperial College London、London School of Economicsの3大学、グループCに属していると見て取れるのはSussex大学です。
3.近年の大学中退率の変化
最後にここ近年の中退率の傾向を見ていこうと思います。イギリスでは近年大学卒業率に大きな変化が起きています。2003年と2008年で入学難易度と中退率の相関関係をとってみました。
近年の大学中退率の変化
図の通り、5年間でイギリスの大学の中退率は大幅に改善しています。実際、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの全地域で2003年と2008年の間で中退率が大幅に低下しています。
イギリス4地域の中退率の変化
ただしこれは近年イギリス人の学力が大幅に向上している事が原因という訳では無さそうです。それは下のPISAの15歳の学力調査の結果に現れています。
PISAの15歳の国際学力テストのイギリスの結果
このデータが示すとおり、ここ10年間でイギリス人の平均学力は低下しています。若年層の平均学力の低下は先進国には広く見られる傾向ですがイギリスは相対的に見ても2000年には先進国トップレベルだった学力水準が、2006年には相対的に先進国の中堅水準にまで6年間で大幅に平均学力を落とし、そのまま改善せずに現在に至っています。
また大学進学率、大卒率もここ最近の10年間で10%程度増加しています。それにも関わらず、中退率が下がっている事は大学の卒業難易度が低下している事を指しています。
一つの傾向として見れるのが入学難易度帯による中退率の推移の違いです。上の図で示しました通り、入学偏差値が64~65を超える大学には中退率の変化はあまり見られません。むしろ全体としては中退率は若干増加の傾向を示しています。一方で偏差値で64~65を下回る大学は逆に中退率が顕著に低下しています。特に偏差値50から下の大学は中退率の変化が非常に大きくなっています。つまり最難関の大学グループでは卒業難易度は変化していない一方で、中堅~下位大学の卒業難易度は大幅に易化している事を意味しています。
これは大学数の増加と進学率の急激な上昇によって本来大学に入るに満たない学力層までも大量に大学に入学して来たために卒業基準を下げざるを得なくなった事も大きいですが、各新聞社が発表するイギリスの大学ランキングでの学生満足度や卒業率、成績優等率の全体のランキングに与える重みが大きい事も影響が少なくないと考えられます。
つまりブランド力が無い下位大学はランキング順位を上げるために学位の取りやすさでランキングスコアの数値を改善させる戦略を取りがちになっているという事です。実際、イギリスの大学ランキングは在学生の満足度が高い大学、卒業率が高い大学、成績優等率が高い大学ほど良い大学であるという観点から順位をつけているため、学位発行の難易度を下げる事は入学者の入学試験の平均点の改善や研究力の数値を改善させるよりも遥かに簡単にランキングの順位を上げることが出来ます。逆に学位発行を厳しくし、卒業難易度を高くしてしまうと学生満足度、卒業率、成績優等率のスコアが大きく下がる事でランキング順位を大幅に下げてしまい、受験生を満足に集められなくなる経営リスクがあります。イギリスの大学はほとんど全てが公立大学ですが各大学の自治権が大きいため、このような大学独自の基準を設ける事を可能としています。
この問題は現在のイギリスの大学行政が抱えるひとつの大きな問題と言えます。現在、イギリス政府は大学定員の縮小などの改善の方向に向かい始めてはいますが、当面は今の状況が続くと思われます。
1.イギリスの大学の卒業難易度の傾向
以前紹介しましたHigher Education Statistics AgencyというNPO組織が各大学の最終卒業率のデータを公開しています(参照元)。このデータを各大学で最近の5年間の数値で平均をとり、以前に計算しました学部入学難易度の偏差値と相関関係をとってみました。
入学難易度と卒業率の相関関係
相関関係をとったのは偏差値50以上の大学だけですが、この結果を見ると偏差値と顕著な傾向が見て取れます。
①イギリスの大学全体で見ますと大学の平均最終卒業率は85%です。入学難易度が高くなるほど卒業率は高くなり、低くなるほど卒業率は低くなっています。一番卒業率が高い水準が98%~99%、一番低い水準が55%~65%です。
②各大学の最終卒業率の分布を見てみますと2つの傾向があるのが見えます。黒い傾向線の示すグループAと赤い傾向線の示すグループBです。大多数の大学は黒い傾向線の示すグループAに属しています。赤い傾向線の示すグループBはそれらの大学に比べて相対的に卒業難易度が高い事を指しています。グループBに属していると見て取れるのはImperial College London、London School of Economics、St Andrews大学、University College London、東洋アフリカ研究学院、Glasgow大学、Strathclyde大学、Dundee大学の8大学です。
2.イギリスの大学の成績評価の傾向
Higher Education Statistics Agencyが同じく各大学の学部の成績の優等比率(2:1以上)のデータを公開しています(参照元)。このデータを各大学で最近の5年間の数値で平均をとり、以前に計算しました学部入学難易度の偏差値と相関関係をとってみました。
入学難易度と成績評価の相関関係
相関関係をとったのは偏差値50以上の大学だけですが、この結果を見ると同じように偏差値と顕著な傾向が見て取れます。
①イギリスの大学全体で見ますと大学の平均成績優等率は62.7%です。入学難易度が高くなるほど成績評価は高くなり、低くなるほど成績評価は低くなっています。一番成績評価が高い水準がだいたい成績優等率90%、一番低い水準がだいたい成績優等率35%です。
②各大学の卒業率の分布を見てみますと3つの傾向があるのが見えます。黒い傾向線の示すグループと2つの赤い線で囲んだグループです。大多数の大学は黒い傾向線の示すグループAに属しています。上方にある赤い線のグループBはそれらの大学に比べて顕著に成績評価が厳しく、下方にある赤い線のグループCはそれらの大学に比べて顕著に成績評価が緩い事を指しています。グループBに属していると見て取れるのはCambridge大学、Imperial College London、London School of Economicsの3大学、グループCに属していると見て取れるのはSussex大学です。
3.近年の大学中退率の変化
最後にここ近年の中退率の傾向を見ていこうと思います。イギリスでは近年大学卒業率に大きな変化が起きています。2003年と2008年で入学難易度と中退率の相関関係をとってみました。
近年の大学中退率の変化
図の通り、5年間でイギリスの大学の中退率は大幅に改善しています。実際、イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの全地域で2003年と2008年の間で中退率が大幅に低下しています。
イギリス4地域の中退率の変化
ただしこれは近年イギリス人の学力が大幅に向上している事が原因という訳では無さそうです。それは下のPISAの15歳の学力調査の結果に現れています。
2000年 | 2006年 | 2009年 | ||||
数学力 | 529点 | 8位(欧州2位/G8中3位) | 495点 | 24位(欧州16位/G8中5位) | 492点 | 28位(欧州18位/G8中5位) |
読解力 | 523点 | 8位(欧州3位/G8中2位) | 495点 | 17位(欧州10位/G8中3位) | 492点 | 25位(欧州15位/G8中6位) |
科学知識 | 532点 | 5位(欧州2位/G8中2位) | 515点 | 14位(欧州7位/G8中4位) | 514点 | 16位(欧州8位/G8中4位) |
このデータが示すとおり、ここ10年間でイギリス人の平均学力は低下しています。若年層の平均学力の低下は先進国には広く見られる傾向ですがイギリスは相対的に見ても2000年には先進国トップレベルだった学力水準が、2006年には相対的に先進国の中堅水準にまで6年間で大幅に平均学力を落とし、そのまま改善せずに現在に至っています。
また大学進学率、大卒率もここ最近の10年間で10%程度増加しています。それにも関わらず、中退率が下がっている事は大学の卒業難易度が低下している事を指しています。
一つの傾向として見れるのが入学難易度帯による中退率の推移の違いです。上の図で示しました通り、入学偏差値が64~65を超える大学には中退率の変化はあまり見られません。むしろ全体としては中退率は若干増加の傾向を示しています。一方で偏差値で64~65を下回る大学は逆に中退率が顕著に低下しています。特に偏差値50から下の大学は中退率の変化が非常に大きくなっています。つまり最難関の大学グループでは卒業難易度は変化していない一方で、中堅~下位大学の卒業難易度は大幅に易化している事を意味しています。
これは大学数の増加と進学率の急激な上昇によって本来大学に入るに満たない学力層までも大量に大学に入学して来たために卒業基準を下げざるを得なくなった事も大きいですが、各新聞社が発表するイギリスの大学ランキングでの学生満足度や卒業率、成績優等率の全体のランキングに与える重みが大きい事も影響が少なくないと考えられます。
つまりブランド力が無い下位大学はランキング順位を上げるために学位の取りやすさでランキングスコアの数値を改善させる戦略を取りがちになっているという事です。実際、イギリスの大学ランキングは在学生の満足度が高い大学、卒業率が高い大学、成績優等率が高い大学ほど良い大学であるという観点から順位をつけているため、学位発行の難易度を下げる事は入学者の入学試験の平均点の改善や研究力の数値を改善させるよりも遥かに簡単にランキングの順位を上げることが出来ます。逆に学位発行を厳しくし、卒業難易度を高くしてしまうと学生満足度、卒業率、成績優等率のスコアが大きく下がる事でランキング順位を大幅に下げてしまい、受験生を満足に集められなくなる経営リスクがあります。イギリスの大学はほとんど全てが公立大学ですが各大学の自治権が大きいため、このような大学独自の基準を設ける事を可能としています。
この問題は現在のイギリスの大学行政が抱えるひとつの大きな問題と言えます。現在、イギリス政府は大学定員の縮小などの改善の方向に向かい始めてはいますが、当面は今の状況が続くと思われます。
イギリスの大学の分類 | ・ イギリスの大学の4つの分類 |
入学難易度(偏差値)と研究力 | ・ イギリスの大学入学難易度と研究力のランキング ・ イギリスの大学の専攻別の入学難易度と研究力 ・ 近年のイギリスの大学の学部入学難易度の変遷 ・ 2013年度の大学入学難易度 ・ 2014年度の大学入学難易度 |
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成績評価と卒業難易度 | ・ イギリスの大学の成績評価と卒業難易度の傾向 |
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