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土方√
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程よく張りつめた緊張感の中で、進められていく試合。
力強く踏み出す足音。
ぶつかり合う竹刀の音。
近寄ればお互いを牽制しあいぶつかる防具の音。
そして張り上げる声。
いつの間にか別の部活の生徒たちもギャラリーとして見に来ていて。
試合の行方に感嘆の声を上げていた。
3チーム終わったところで主審は土方さんから左之へと変わった。
土方さんは私の隣に来て、仁王立ちをし、腕組みをして試合を黙って見据えている。
今のところ、1勝2敗。
うちが負けている。
さっきは藤堂くんが大将のチームで、うちはようやく一勝をあげた。
藤堂くんは好戦的なタイプのようで、やや不利だった状況をあっという間にひっくり返してチームを勝利に導いた。
次は斎藤くんが大将のチーム。
斎藤くんがメンバーを集め、何か伝えている。
千鶴ちゃんが藤堂くんたちのチームに水分を渡したあと、土方さんや私にも持ってきてくれた。
同じマネージャー経験者としてその気遣いが頼もしく思える。
千鶴ちゃんの笑顔に癒される部員も多いんだろうな。
「不安か?」
不意に降りてきた言葉に顔を上げれば土方さんと目が合う。
「いえ、全く」
「その自信は?」
私は部員たちに目をやりながらそれに応える。
「練習は殆ど見れてないですけど…、試合に打ち込む姿とか、姿勢とか。見ていても頼もしいですから。
それに練習試合だから勝っても負けてもいいんですよ、何か得られるものがあれば。
風間センセイの件はどうにでもなりますし」
再び土方さんの顔を見上げれば、土方さんは眉を上げていた。
「そう、だな。…お前の方が顧問ぽいな」
「私は土方さんみたいに教えることは出来ないですよ。応援出来るくらいです」
私が笑えば、土方さんも口元に笑みを浮かべた。
4チーム目が始まる声を聞いて、中央に目を向ける。
夏場の稽古は防具もあって剣道部にはかなり辛い季節だ。
加えて試合ともなると緊張感からか汗もいつもよりかくはず。
怪我がないことを祈りながら、試合の行方を見つめた。
ふう、と土方さんが大きく息を吐いた。
斎藤くんのチームも接戦の末の辛勝だった。
面を外せば誇らしげな顔、納得いかないような顔と様々だけど、
勝ちを得られたことには満足しているようだった。
試合が終わった直後だというのに涼しげな表情の斎藤くんと話しているのは沖田くんで。
沖田くんは面をつけたまま、斎藤くんと何か短く話しているようだった。
その沖田くんが私の前まで歩み寄ってくる。
「千亜さん、行ってくるね。見てて」
「うん、応援してる」
私が笑顔で応えれば、面越しの目が細まった。
その視線が隣に移る。
「土方さん」
「…何だよ」
「僕、これ勝てたら夏休みの古典の宿題パスでお願いします」
「馬鹿言ってんじゃねぇ。それとこれとは別だろうが。無駄口叩いてないでさっさと元に戻れ」
「梅の花~ い…」
「総司ぃい!!!さっさと行って勝ってこい!!!」
呆れたような口調からいきなり声を張り上げた土方さんにびっくりして彼を見上げる。
「はぁい」
くすくす笑う沖田くんはそのまま踵を返して立ち去った。
眉間に思いっきり皺を寄せている土方さんを見上げながら、一応聞いてみる。
「…何ですか、沖田くん梅の花とか言いかけてましたけど」
「気にすんな」
沖田くんの背中をまだ睨む土方さん。
「…後で聞こ」
「聞くな」
「… …はい」
ぼそっと呟いた声は聞こえていたようで、今度は私が睨まれた。
2勝2敗。
最後のチーム戦。
多くの視線がその場所に注がれていた。