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#11 #12
<ヒロイン視点>
高速のSA。
トイレ休憩も兼ねて20分の休憩。
私は左之の姿を探していた。
後ろめたさがあるわけじゃないけど、きちんと私がここにいる理由をちゃんと説明しておきたかった。
「あ…、いた…」
SAの外れにあるベンチで1人缶コーヒーを飲みながら座っている左之。
何故ここまで緊張しているのかはわからないけど、左之に向かって歩き出した。
ベンチの横に立てば、左之が気付いて視線をあげる。
「左之…」
「…よぉ」
その表情からは感情が読み取れなかった。
「隣…座っていい?」
「…ああ」
少し距離を置いて、隣に腰掛ける。
私は座ったものの、何て声をかけていいかわからずにいた。
左之は膝に肘を置いて、地面を見つめている。
山間のSAだからか、少しばかり冷たい風が頬を撫でた。
最初に口を開いたのは左之で。
「久しぶりだな…」
「…うん」
「お前がいて驚いた」
「そう…だよね」
視線を交わすこともせず掛けられる言葉。
『ちゃんと伝えたい』そう思った私は左之の方に身体を向けた。
「あのね、昨日偶然土方…先生に会って、合宿の買い物に付き合うことになって、それでどういうわけか合宿もお手伝いすることになって…。
わ、私もね、左之がいるとは思わなくて…!
そう!左之が本当に先生になってるなんてびっくりしたよ!それに…」
「…あのよ」
私の言葉を遮るように言葉を零した左之。
「……うん」
私はどこか緊張しながらその言葉を待った。
交わる視線。
久々に間近で見た、あの頃とは違う大人の色気を纏ったような表情にドキリと胸が跳ねた。
でもその表情は何故か怪訝そうで。
左之が口を開く。
「旦那や子供は親に預けてきたのか?それはどうなんだ?」
睨みつけるかような表情に私の思考は固まった。
暫くの沈黙。
「…は?」
「……は?」
『何を言っているんだろう』と頭の中が混乱する。
左之も私の反応がわからないようだった。
「旦那?こ、子供?誰の?!」
「誰って千亜の…」
「私、結婚もしてないし、子供も産んだことない…けど」
「は?お前、海に子連れで来てただろ?」
「へ?あれは甥っ子と姪っ子で…って、左之あの時海にいたの??」
「甥っ子?姪っ子?じゃあ何でこっちに帰ってきてるんだよ」
「会社、リストラされちゃって…」
「…」
私の言葉に左之は私をじっと見つめながら言葉を失ってる。
「…全部…、左之の勘違いだと…思うんだけど…」
左之の大きな手が彼の額を覆う。
「わ、悪い。俺はてっきり…、そっか。そうだよなぁ…。まだ子供ははぇえか」
「だ、旦那さんもいないからね?」
「くっくっく…、悪い。自分の馬鹿さ加減に笑えてきた」
「も~」
笑いを堪えきれないように、笑い出す左之。
私は安堵の息を漏らした。
誤解してたのはびっくりしたけど、左之の笑顔に私は懐かしさからか、胸が温かくなった。
ひとしきり笑った左之は顔を上げる。
「はー、笑った。そっか、土方さんに無理やり連れてこられたってわけだな。
ま、合宿に初参加の雪村1人じゃ大変だろうしな。
千亜が手伝ってくれるなら百人力だな。部員の連中も練習に集中出来る。
…ありがとな」
左之のあの頃と変わらない声と、柔らかい表情。
笑顔は変わらないな、なんて思いながらもその言葉に応える。
「…まだ何にもしてないし、迷惑かけるかもしれないよ?」
「千亜のかける迷惑なんて大したもんじゃねぇよ。…じゃあ一週間よろしくな」
「こちらこそ宜しくね」
左之の笑顔に私もつられるように笑顔になる。
不意に頭にポンと左之の大きな手が乗る。
…私が一番好きだった仕草。
目の前には真剣な左之の瞳。
「…千亜、また会えて嬉しい」
「…っ」
ぎゅっと胸が締め付けられた。
自分が抱えてしまった気持ちが恥ずかしくて、少し後ろめたくて思わず視線を逸らした。
「そろそろ時間だな。行くか」
「…うん」
もう一度、ぽんぽんと頭を撫でられ、左之が立ち上がる。
私はきゅっと唇を結んで、遅れて立ち上がった。
少し前を歩くその懐かしい背中に問いかける。
『私もね、スーパーで左之が女の人といるとこ見たよ?あの人、彼女?』
…なんて聞けない自分がいた。