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それでもよろしければどうぞ。
#1 #2 #3 #4 #5 #6
カフェを出て土方さんの後に続いて駐車場に行けば、セダンタイプの黒の高級車。
『土方さんらしい車だな』と笑みが零れる。
荷物は後部座席に乗せ、助手席に乗せてもらって、車の中で最近の剣道部の様子とか他愛もない話をする。
昔から変わらないその綺麗な顔立ちをちらりと盗み見する。
黒くてサラサラな髪。
『ここまで端正な顔立ちの人も中々いないよね』と見入っていれば、
眉間に皺を寄せながら「何だよ」と声がかかる。
「土方さんって今でも生徒に人気ありそうですね」
「は?」
視線だけを一瞬こっちに向けて、また前を向くその横顔。
「だって新任で来たころは休み時間とか常に女子に声かけられてたじゃないですか?」
「んなことなかっただろ」
「いやいやいや。囲まれてた」
「今は鬼の土方なんて言われてるくらいだ。あんま生徒も寄ってこねぇよ」
「鬼、ですか?」
「鬼なんだとよ」
溜め息混じりに言葉を零す土方さん。
『鬼』と呼ばれてる様子を想像すると、込み上げてくる笑い。
緩む口元を手で隠す。
「笑うな」
「いや、確かに怒ると土方さんは怖かったですけど、拍車がかかってるんですね?」
「うるせぇ」
信号が赤に変わって、ゆっくりと停まる車。
「ちょっとその鬼っぷりを見てみたいかも」
「いつでも見に来いよ」
「そうします」
私がふふっと笑えば、土方さんもこちらを向いて口元にふわりと笑みで返してくれた。
私の家に着いて、私がお礼を言って車を降りると、
『俺も行く』と土方さんが車から降りてきた。
「ぃやぃや、土方さん、そこまでして頂かなくても」
「俺がしたいからいいんだよ」
そう言って玄関に足を進める土方さん。
私の実家だというのに私は土方さんに続く形で玄関に向かった。
玄関を開けて母を呼べば、玄関先から出てきた母に律儀に挨拶をする土方さん。
「すみません、娘さんをお借りしました」
「いえいえ、暇人ですのでどうぞ使ってやって下さい」
「じゃあ…。明日から一週間ほどお借りしてもいいですか?」
「は?」
土方さんの突然の申し出に自分の耳を疑ながら、土方さんを見上げる。
っていうか、私聞いてませんけど!!!
「どうぞどうぞ!」
「ちょ、お母さん!」
「実は明日から剣道部の合宿を控えてまして、千亜さんに手伝っていただけると助かるんですが」
「勿論!よかったわねー、千亜。暇が潰れるわよ」
「土方さん?!!」
「じゃあ明日の朝6時に迎えに来る。よろしくな」
まだ目を見開いてる私の頭に大きい手がぽんと乗る。
「は?え?ほんとに?」
「俺の鬼っぷりが見たいって言ったじゃねぇか」
「あれは言葉の綾で…っ!」
「雑用の手伝いしてやってくれ。じゃあまた明日な」
母に軽く会釈して、踵を返す時。
私を見ながら土方さんはニヤリと笑った。
………ほんとに?
私は半ば呆れながらその背中を見送った。
律儀に明日からの用意をしている私。
土方先生…土方さんは昔から強引だ。しかも有言実行タイプだ。
きっと迎えに来るな…冗談言うタイプじゃないし。
「っていうか行き先も聞いてないし…。もー…」
用意を終えて、どこか心が落ち着かなくそわそわしながら布団に入る。
私実家帰ってきてからゆっくり出来てない。
明かりを落とした暗い天井を見上げながら一つ溜め息をつく。
不意に脳裏に浮かんだのはスーパーで見た左之の姿。
そしてあの女の人と一緒にいる光景が脳裏に浮かぶ。
思わず漏れた長い溜め息。
『…相変わらず、かっこよかったな』
その存在が、今日更に遠くなった気がした。
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ヒロイン視点が多くて申し訳ないです~。
土方さん視点だとネタバレしちゃいそうなので。
土方さん、左之さん視点をお待ちの方がいたら申し訳ないです;