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設定無視、キャラ崩壊などご注意を。
それでもよろしければどうぞ。
#1 #2 #3 #4
大きめのカートにカゴを乗せる土方先生に声をかける。
「…奥さんに買い出し頼まれたんですか?」
「はぁ?俺は独身だ」
先生の眉間に皺が入るのを見て、その表情ですら懐かしく思う。
「じゃあ何で…」
「明日から剣道部の合宿なんだよ。今マネージャやってる奴がちょっと体力がないやつでな。
今日は休ませて俺だけで買出しに来た。お前もマネージャーやってたんだから多少わかるだろ」
「…えー、忘れちゃいましたよ…」
「必要なもんはメモしてるんだ。暇なんだろ?付き合えよ」
「わかりました」
先生…、私を強引に使うのはあの頃と変わってないな。
どうか左之には会いませんようにと願いながら足をすすめた。
渡されたメモを見ながら先生に声をかける。
「ん~、先生。今のマネージャーの子って何年生です?」
「1年だ」
「そっか。じゃあ初めての合宿だ」
「そうだな。どうかしたか?」
「ん~、このメモしてる量じゃきっと合宿中に足りなくなりますよ。
それにポカリだけじゃなくて、他の種類も買っておいた方が皆飽きないし…。
今は熱中症も怖いから…。あ、マネージャーの子、蜂蜜漬けのレモンとか作れるのかなぁ…。
先生、私買うもの足しちゃってもいいです?」
「ああ、構わねぇよ」
私は先生に相談しながら買い物をすすめていく。
「ふふ。何か懐かしくなっちゃうな」
「随分と楽しそうだな」
私が笑えば先生もつられたかのように口元を緩める。
「あの時はしんどかったけど、今となってはいい思い出ですよ」
「…そうか」
見上げた先生の瞳は優しく細められた。
先生もこんな顔して笑うんだっけ…と再認識、する。
「あら?土方先生?」
「ああ、どうも」
後ろから声をかけられて振り返れば、私の母の年代に近い上品そうな女性。
土方先生は軽く会釈をして。
その女性も私を見て会釈をしてくれたので、応えるように軽く頭を下げた。
「こちら奥様ですか?お若くて綺麗な方ですね」
へ…?
その女性の言葉に私は言葉を失った。
「ぃや、こいつは…」
「あら、違いました?彼女さんです?もう雰囲気は新婚さんですね」
か、彼女?し、新婚さん??
その女性は嬉しそうに土方先生と私を見比べている。
「ちっ…、違います!私は…」
「若いお二人のお邪魔をしてはいけませんね。では土方先生、御機嫌よう」
いい物を見れたと言わんばかりに、鼻歌まで歌っちゃいそうなにこやかな笑みで
女性はその場を離れていく。
唖然として土方先生と私はその場に立ち尽くしていた。
「…こっちの言い分なんて聞く気なかったな」
大きな溜め息と共に眉間に皺を寄せながら前髪をかき上げる先生。
「あの…どちら様ですか?」
「ああ、数年前のPTA会長だ。良い人なんだが…。まぁいい。ほら、行くぞ」
カートを押しながら先生の大きな右手が促すように私の背中をポンと撫でる。
先生と私ってそんな風に見えるのかな…なんてぼんやりと思いながら先生の隣を歩いた。