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<土方視点>
原田が何か素振りを見せた。
別に気には留めずに応え、原田はその場を離れた。
そのまま部員達の指導をしながら、不意に坂の方へと視線を向ければ、
そこには坂を並んで下りてくる原田と高橋の姿があった。
原田は男女関係なく昔からよく気付く男ではあったと思うが、この状況では抜け目がないというんだろうな。
高橋がそろそろドリンクを持ってくるころだと見計らったんだろう。
自分自身で苦笑いが浮かんだのがわかった。
原田…、お前女がいる身だろ。
高橋に対してそんな気がねぇとは言わせねぇ。
見てたらわかるんだよ。SAからお前の態度が変わったのも。
1人胸の内で呟いた。
昔よく見た原田と高橋の姿が今の二人に重なる。
そんな二人の姿を見たくて高橋を連れて来たわけじゃない。
胸の内で舌打ちすれば、高橋と視線が絡んだ。
お前は今、何を思ってるんだ?
「土方さん、もう終わるよな」
「ああ。お前ら、水分補給しっかりしとけよ。その後宿舎に戻るように」
原田の言葉に応え、部員に伝えれば、高橋は雪村と共に部員達に次々と手早くドリンクを渡していく。
部員たちも生き返ったというように笑みを零している。
「あ、皆。私が洗っていいなら服とか脱衣所のカゴに置いておいてね。明日からの胴衣も洗うから」
高橋の申し出に「おお~!」という部員たちからの感嘆。
コップを返しながらお礼を伝えていく部員もいる。
いきなりの申し出に俺は小さく溜め息を吐いた。
部員達が引き上げていく中、高橋がドリンクを持って俺に駆け寄ってくる。
「はい、土方さん」
「ああ、ありがとな」
こいつの笑顔を見れば、さっきまで胸の内にあったどろりとした思いはいとも簡単に流れていく。
「高橋…、洗濯はそれぞれにやらせればいいんだぞ?それが合宿の目的でもある。何自分の仕事増やしてんだよ」
「だって、そのために私を呼んだんじゃないんです?」
俺が一瞬言葉に詰まっていると、高橋は言葉を続けた。
「夏休みが終わったら秋季大会だし、この合宿はハードだし。皆を少しでも休めてあげたいじゃないですか」
少し振り返りながら眩しそうに部員たちの後姿を見守る瞳。
マネージャーをしていた頃も皆のためにと頑張っていた高橋の姿が重なる。
昔からこうと思えば頑固な奴だったな。
俺は自然と口元に笑みを浮かべた。
「無理して倒れるなよ」
「はい、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
無意識で、すっと持ち上げた右手。
頬に触れようとする気持ちを抑え、頭にぽんと置く。
傾いた日差しが高橋の笑みをオレンジ色に染めた。