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「夕食のお手伝いはあります?」
「ああ、初日だからね。私たち夫婦で大丈夫だよ」
「じゃあドリンクだけ作らせてくださいね」
「ああ、好きに使っておくれ」
「ありがとうございます」
源さん夫婦が用意をする傍ら、スポーツドリンクの粉を溶かして
2リットルのペットボトルに入れ、それを大きな冷蔵庫に詰めていく。
最初の2本は冷凍庫に。
持って来た合宿で使うものを整理しているとあっという間にすぎる時間。
『そろそろ掃除も終わる頃だな』
辛うじて冷えたかなというくらいのペットボトルを2本抱えて道場へと向かう。
道場に入って一礼をする。
この道場の厳かな雰囲気が昔から好き。
「掃除も終わったな。今から下のグラウンドで走りこみだ!」
土方さんの声が道場に響き、部員たちの静かな溜め息が聞こえるよう。
ぞろぞろと移動しようとする部員たちに声をかける。
「はい、皆ー。外出る前にコップ1杯ドリンク飲んで行ってねー。今は熱中症も怖いからねー」
コップにドリンクを注いでいけば、雪村さんが部員一人ひとりに渡してくれる。
そんな作業をしていれば掛けられた声。
視線を上げればそこにはうんざりとした表情の沖田くんがいた。
「千亜さ~ん、めんどくさい。あの鬼教師どうにかして」
「ほらほら、幹部でしょ。主将でしょ。頑張って」
沖田くんの嘆きにカラカラと笑いながら応える。
目を細めながらドリンクを飲み終わった沖田君が何か言おうとした時、
聞きなれた声が割り込んできた。
「総司、早く行かねぇとまたどやされるぞ」
「…はーい。ありがとね、千亜さん」
「どういたしまして」
受け取ったコップを使用済みのケースに入れて、新しいコップにドリンクを注ぐ。
「はい、さ…原田先生も」
「お、ありがとな。お前も飲んでおけよ。室内だって熱中症は油断ならねぇんだしな」
「ありがと。あとでいただくね。あ、雪村さんありがと。ここはやっておくからグラウンド向かって」
「ありがとうございます!じゃあいってきます」
「いってらっしゃい」
私たち二人にぺこりと頭を下げた雪村さんはパタパタと道場から出て行く。
「俺も行くわ」と左之が私の頭に大きな手をポンと乗せる。
交わった視線は優しくて、互いに笑みを零した。
その大きな背中を見送っていると窓を閉める音が耳に届く。
「土方センセー、窓くらい閉めますよー」
「高い場所は届かねぇだろうが」
「そう、ですね」
低い場所の窓を閉めてから、全部の窓を閉め終えたかの確認をした土方さんに
ドリンクを差し出した。
「はい、土方先生」
窓を閉めたからか、道場内に声が篭る。
「ああ、ありがとな。…何で先生ってついてんだよ」
ドリンクを受け取った土方さんは少し不服そうに私を軽く睨んだ。
「…だって合宿、ですよ?」
「俺が良いっつったら良いんだよ」
「…わかりました」
平然と言いのけた台詞に何だかこっちがこっぱずかしくなる。
「何か調子狂うな」なんて思いながら土方さんがドリンクを咽を鳴らしながら飲む姿を眺めていた。
「お前は飲んだのか?」
「いえ、まだ…」
「一緒に飲んでおけ。合宿で倒れたことあっただろ」
呼び水のようにその言葉で当時の記憶が甦る。
そしてそんな小さな出来事を憶えている土方さんに驚きを隠せなかった。
「…そんなこと憶えてるんです?言われるまで忘れてましたよ」
「部屋に運んだの俺だしな」
ふっと口元を緩めた表情に、小さく胸がトクンとなった気がした。
それをごまかすようにドリンクをコップにいれ、ゴクゴクと飲み干した。
ドリンクの冷たさが少し気持ちを落ち着かせた。
「あの時はありがとうございました」
私がそう言えば、土方さんは小さく笑う。
「何を今更。…さてと、ごちそうさん」
コップを受け取りながら、私は声をかけた。
「土方さん」
「何だ?」
「初日から部員いじめちゃダメですよ?」
「善処してやるよ」
ニヤリと笑う土方さんを眉を下げて見送る。
そう、まだまだ合宿は始まったばかりだ。