■表記

紀 … 軻遇突智神・火産霊神(ホムスビノカミ)
記 … 火之夜藝速男神(ヒノヤギハヤオノカミ)・火之迦具土・焼速男命など。
他に火魂日命などという


■概要
イザナギ神とイザナミ神との間に生れた神。
◎火の神であったため、イザナミ神は女陰を焼かれて死んでしまいます。イザナギ神は怒り、十拳剣(とつかのつるぎ)「天之尾羽張(あめのおはばり)」で三段(五段とも)に斬り殺してしまいます。流れた血から、そして死体から多くの神々が生まれました。

◎「火」というものに対して古代人は、現在よりもはるかに畏敬と畏怖を感じていたはずです。「火」がもたらす恩恵は限りなく、対して「火」がもたらす禍害ははかり知れず。それが紀記の記述の残忍さになっているのでしょうか。

◎古代の火のおこし方は、「火鑚り(ひきり)」=「台木(火鑚り臼)に木の棒(火鑚り杵)をあてて激しくもみ合わせ火をおこすこと」(大辞林引用)。これはまさしく性行為そのもの。つまりイザナギ神とイザナミ神の行為でおこした火がカグツチ神であるとも考えられます。その火が甚大な被害を及ぼしたので、慌てて鎮火した(切り殺した)とも考えられます。
そしてカグツチ神の信仰の対象は、火山の神として、刀や農具の鍛治の神として、焼き畑農業の神として、防火の神としてもと次々と広がっていったようです。

◎全国の秋葉神社、愛宕神社、野々宮神社で数多く祀られる神。秋葉原の地名由来もこの神から。江戸の町の防火の神だったようです。

◎また「カグ」は「銅」の古語とも言われ、付近から銅鐸が出土することも多いようです。
本居宣長は「古事記伝」には、「迦具」は「赫(火が輝くこと)」、「ツ」は助詞「の」、「チ」は尊称(霊)、つまり火がチラチラと輝く霊であるとしています。
他にも式内社調査報告では鞴(ふいご)の神としています。


■系譜
イザナギ神とイザナミ神により生れた最後の御子神。すぐに斬り殺されているのでカグツチ神には後裔はいません(厳密には)。以下紀より。
【三段斬りにより生成した神】
雷神、大山祇神、高龗神
(別書)天八十河(あまのやそかわ)の500個の磐石を血が染めて神が生成
磐裂神、根裂神、磐筒男神、磐筒女神
【五段斬りにより生成した神】
大山祇神、中山祇神、麓山祇、正勝山祇、シギ山祇神(「シギ」は「今」の下に「酉」右に「隹」)
【十拳剣から生成した神】
・剣についた血が湯津石村を走って生まれた神
石拆神、根拆神、石筒之男神
・刀の前に著した血が湯津石村を走って生れた神
甕速日神、樋速日神、武御雷之男神
・刀の柄に溜まった血が指の間から漏れて生まれた神
闇淤加美神、闇御津波神


■祀られる神社(主な神社のみ抽出)

[伊勢国安濃郡] 比佐豆知神社
[伊賀国] 赤岩尾神社
[伊賀国] 阿波神社(記事未作成)
[近江国伊香郡] 意太神社
[摂津国島下郡] 佐和良義神社
[摂津国] 陶器神社(記事未作成)
[和泉国] 火走神社
[紀伊国名草郡] 宇賀部神社
[紀伊国名草郡] 靜火神社
[紀伊国名草郡] 靜火社跡地
[紀伊国名草郡] 逆松社

[紀伊国牟婁郡] 産田神社

*主な関連する社、関連する史跡
[尾張国] 日割御子神社(熱田神宮境内摂社)
[紀伊国名草郡] ☆鳴神貝塚


*主な配祀、相殿など

[遠江国] 敬満神社
[伊勢国鈴鹿郡] 椿大神社

[伊勢国多気郡] 魚見神社(松阪市魚見町)
[伊賀国] 須智荒木神社

[伊賀国] 穴石神社
[伊賀国] 神戸神社

[伊賀国] 比々岐神社

[伊賀国] 比自岐神社

[伊賀国] 大村神社
[伊賀国] 鹿高神社

[伊賀国] 植木神社

[大和国宇陀郡] 惣社水分神社
[紀伊国伊都郡] 丹生都比賣神社
[紀伊国那賀郡] 荒田神社

[紀伊国牟婁郡] 花窟神社(墓所説有り)

[紀伊国牟婁郡] 熊野本宮大社 大斎原(下四社第九殿)
[出雲国] 斐伊神社


*主な境内摂末社
[伊賀国] 府中神社(波多岐神社境内社)
[大和国添上郡] 愛宕神社(春日大社 末社)

[紀伊国名草郡] 竈山神社

[紀伊国名草郡] 香都知神社(鳴神社境内社)
[紀伊国牟婁郡] (熊野速玉大社境内社)