(苦節ン年・・・)
89式小銃の「官品負い紐(こちら)」や「官品3点スリング(こちら)」のレプリカをさんざん製作してきたワシですが・・・
当然のことながらワシは“その筋”の人間ではないため、素材探しと吟味には相当に苦労に苦労を重ねたものです。
あるパーツはどうにか希少な官同品を見つけ、またあるパーツはどうにか海外の類似希少品を探し出して輸入、それでも見当たらないものは特注でしのいできたものの、どうしても市販品で妥協せざるを得ない部分もありました。
それが、フック金具。
(89負い紐の官品フック金具)
※9mm機関拳銃の官品負い紐のフック金具は、実は民生品だった。
(でもまず見かけない)
そして自在スライドやコキ金具はプレス+レーザー抜きで作ってもらいましたが、フック金具はそういうわけにはいきません。
なぜなら、フック金具は鋳造だからです。
※自在スライドも実物は鋳造だが、うちのレプリカはキャロット製を参考にプレス加工でしのいだ。
(うちの89レプ)
※市販のフック金具には鋳造でない製品もある。
(これは鉄の棒を曲げて、あとはプレスした鉄板を組み合わせている)
鋳造は型が要り、その型だけでもヘタすると100万円くらいかかることもあります。
しかもフック金具は可動部があるため、一点ものでは済まず、この官品フックでは本体+可動部+可動基部ピン、そしてバネが組み合わさっているので、とても個人が特注できるレベルでは済みません。
さらに製造にあたっては、ある程度の数(ロット)が必要。
ある程度って、10個や20個じゃないんですよ?
100個や1000個なんですよ?
さすがに個人の趣味でしかないレプリカ製作に、そこまで手間と資金をかけるわけにはいきません(といいつつナイロンや金具の特注では数十万かかりましたが←あほ)。
・・・というわけで、3点スリングレプの初期版は大きめ既製品、2次ロット版は小さめな既製品にして、ただしどちらも特注メッキでそれっぽく再現したわけです。
しかしそれぞれには当然ながら難点もあります。
初期ロット版(↑画像左)はちょっと大きく被筒に干渉し(アルミ製なので強度を持たせるため太くせざるを得ない)、二次ロット版(↑画像右)は亜鉛ダイカスト製で小さいもののあまり似てない+可動部が弱い(鉄板のため)のです。
とはいえ他に代替品のない唯一のレプリカなので、それなりにご好評いただけるようになっていきます。
それでも、作ってる本人としては「フック金具がなあ…」と、ヒマさえあればネットでフック金具を探す日々が続きました。
そんな中(昨年末)、官品3点スリングレプが好評のうちに材料が概ね尽きかけて、製作終了が見えてきます(3年半かかってどうにか元は取れた。でも他のレプリカがマイナスなので相変わらず苦しい)。
で、もしまた作るなら黒だけじゃなくタン色のも作りたいな~…などと漠然と思っていた頃、いつもお世話になっている方との雑談の中で話がフック金具に及びました。
それがなぜか「うちの取引先の工場で作れるかもヨ」となり、え?まじすか?いやでもさすがにそれは……いやハイやります!(←あほ)ということに。
というわけで、とうとう越えられない…いや素人が越えてはならない壁を越え、ついに官品フック金具レプリカの特注に踏み切ったのでした。
※豆知識。
89の官品フックは、同じように見えて実はいくつかバリエーションがあります(ただしワシの勝手な見立てなので本当はバリエーションなんてないのかもしれません)
わかりやすい違いはフックの"首″で、初期型は↓画像の左(赤矢印)のようにゴツいですが、中期型は少し首がくびれています。
また型から出した後の切削加工のためか、角がスパっと切り立っています(まあ単に↑の右側が切削しすぎただけかもしれませんが)
そして後期(現行?)は、もっと首がくびれた代わりに角がまろやかになり、表面処理が普通のメッキっぽいものからパーカーライジングっぽいものになっています。
初期の「負い紐」は初期~中期型フック、3点の「負い紐改」は中期~後期型フックが使われていることになります。多分。
(↑ホ〇ワさん、こんな感じで合ってます?もし間違ってたら教えてください!)
というわけで完成したのがコレです!
―形状―
3点スリングに使用するため、形状は中期型を目標にしました。
実物は各部がスパッと切られたような鋭角になったりしていますが、ウチのレプリカはちょっと角がまろやかになっています。
実物と見分けやすい部分ですね。
ちなみに当初、このピンの向きを敢えて逆にしてレプリカであることをアピールしようとも考えましたが(画像は実物)、
後述の「素材の違い」で区別がつくことから官品と同じ向きにしました。
なお、業者さんとは3Dプリンタ成形のサンプルを使ってやりとりをしていたのですが、
もしこの世に3Dプリンタがなければ、この企画は日の目を見なかったかもしれません。
―材質―
実物は鉄ですが、コレはステンレス。
業者さん的には亜鉛ダイカストのほうが加工は楽のようで、何度も亜鉛ダイカストにできないかと言われたのですが、なんとなく脆そうな亜鉛ダイカストの切断面を思い出すと妥協できず鋳鉄を強く希望し、結果として先方さんの都合でステンレスとなったのでした(鉄にクロムやニッケルを配合する量によってステンレスになる)。
真贋鑑定(笑)をする際は、磁石を近づけてみましょう。
※中に組み込まれるピンとバネは鉄。なのでちょっとだけ磁石に反応する。
―表面処理―
表面処理は、残念ながら本体を製作した業者さんでは不可能で、「塗装でどーよ」とサンプルを示されましたが質感も強度もダメダメだった(負い紐環にかけた瞬間に塗膜がハゲる)ので、発注先を探すことに。
目指すは初期~中期型の、ちょっとグレー味の強いメタルな感じ。
しかしこれが意外にも難敵で、“たかだか”メッキに、なんと半年も苦労させられることになったのです。
なぜなら、例えば同じ「黒ニッケルメッキ」であっても、業者さんによって色合いや風合い、厚みが全く異なるから。
しかもリアルに見せるには単なる黒ニッケルメッキではだめで、しかしそれをうまく伝えるのがこれまた難しい。
おまけにステンレスというのが少々やっかいで、ステンレスへのメッキができない業者さんもけっこうあったりします。
なので、いくつもの業者さんに試作を依頼してはNG、また別のところに依頼してはNG…ということを繰り返す羽目になったのでした。
例えばA社さんではウルシ塗りかと思われるような漆黒ツルピカになったり、B社さんではとんでもない高額見積だったり、個人は相手にしたくないのかC社さんは途中でメールの返事もくれなくなったり…。
(ツルピカ漆黒のケース。一般的には出来のいいメッキということになるが…)
試作をするたびに試作料(1個ン千円)が飛んでいきますし、満足できない結果になるたびにやり直しや新たな業者探しとアポの繰り返しで、なにより貴重な時間がどんどん過ぎていきます。
結果として、いつもお世話になっている金具屋さんに仲介してもらい、その金具やさんの得意先のメッキ屋さんに納得いくまで試作してもらうことができ、その結果こういう仕上げで決定となったのでした。
うん、まあいいんじゃないでしょうか!
やはりこのテの特注は、人とのつながりが大事だということを思い知りました。
さすがに本物とはちょっと違う質感になったかもしれませんが、あまりそっくりにしてしまうとアレなので、リアルさはこの程度にしておくべきでしょう。
―使用感―
実際にスリングを介して89につけてみると、やはりこれだ!と、しっくりきます。
特に細身になったことで、被筒のつけ外しは格別にやりやすくなり、負い紐環に当たるカチャカチャ感(?)は完全に官品。
使ううちに擦れてくれば、それっぽい質感も出てくるでしょう。
強度は計測してないので何とも言えませんが、既製品と比べれば段違いの改善となったはず。
もちろん自分でも夏~秋のサバゲに試作品を投入して強度確認していますし、本職さんに使ってもらっても全く問題ないでしょう。
ステンレスなので、さびにくいという点ではむしろ官品より優れていると言えるかもしれません。
構想から実現まで一年。
相当に時間と費用がかかりましたが、とうとう踏み入れてはいけない領域に歩を進めてしまったような気がします。
しばらく身動きとれません。
(ちなみにたいていいつも同時並行で複数の企画を進めているため、それもあって時間がかかる)
はあ、ワシは一体どうしてしまったのだろうか・・・
↑
その1年後には鋳鉄で「より一層リアルバージョン」のフックを作ったのでした(あほ)
【レプリカ製作記事】
【装備自作量産記事】
※思えばレプ作りすぎでは・・・?
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