自衛隊装備で重要な、88式鉄帽(レプについてはこちらで紹介してます)。
今はいろんなところからレプリカが出ていて入手に困ることはなくなったのですが(筆者注:そうは言っても「いい形してる鉄帽レプリカ」は限られます)、意外にないのが官品形状のあごひも。
(こんなやつ)
(2014総火演にて。色落ちしていい感じ!)
88式鉄帽が登場して以降、2型に移行してもなお今だにギリギリ第一線で使用されている、昔ながらの2点式の顎紐です。
(88鉄帽2型の4点式顎紐は別の機会に)
ちなみに昨年の20式小銃のお披露目の際、20式を構えた隊員さんのテッパチの顎紐はコイツでした(笑)
(2015年のわし)
このPX品は、両側の金具は官品同様なものの、あご紐部分が細く(16mm)かつ厚く(2mmくらい)、しっくりこない上にすぐ緩むというイマイチなものでした。
(ベージュのがPX品、濃い緑が官品。PX品は厚みがあるのに幅が細く、かつヘロヘロ)
そのうえPX品もそのうち売られなくなり、たまにオクなどで出ると高値になってしまうレアアイテムと化してしまいました。
そんな中、ちょっと以前に登場し、一時期はすっかりメジャーになっていたM.D.Nコーポレーションのレプリカ「SDF-88」。
あいにく某エ〇グ〇や、某シェ〇〇〇にコピーされまくって現在ではもう販売をやめてしまっていますが、そのSDF-88に一時期官品風な顎紐がついたことがありました。
が、ここは逆に企業さんの悲しいところで、あんまり官品に似せると問題になるため、わざと官品とは違う形状に仕立てたそうでした。
回転金具を敢えて穴を細長いものにしたり、あとはコキ金具は米軍仕様?のものを使ったり。
そういう地味な苦労があるのですね・・・
PX品はもうなかなか入手できないし入手してもなんか違う、MDNのもやっぱりちょっと違う…、かといって安いワンタッチ顎紐とか(↓)
メーカー不明の3点顎紐でお茶を濁すのもイヤ(わがまま)。
2型顎紐が登場するまでの装備を再現するなら、やっぱりあの金具とあの紐でなきゃ気が済まん・・・!!!!!
・・・そう思ってはや数年。
その間に、私はそれまでより知恵と経験、そして人脈を増やしていました(代わりに資金は減ってる)。
これは、個人で官品レプを作るしかない!(←普通はそんなこと思わない)
顎紐に関しては、幸い88式鉄帽の仕様書にサイズから素材まで詳しく載っています。
じゃあその通りに作ればいけるんじゃね?
まあ理屈はそうですが、そう簡単にはいかないから誰も製品化していないのです。
・・・というわけで、またもイバラの道を進むことになったのでした。
【難関1・あごの紐】
実はミシンを買った当初、あごの紐だけを自作したことはありました。
その当時は「自衛隊の紐といえばビニロンでしょ」としか思っておらず、20mm幅のビニロンテープで自作していい気になっていたのですが、それでも官品と比べると全然違う。
(↑わしが過去に見様見真似で作ったやつ)
それも当然で、そもそも官品の顎紐は18mm幅なのです(空挺用は20mm)
普通に市販されているテープでは20mmの下は15mmとかで、18mmなどという半端なテープはありません(一部あるけど)。
そして自分としてはショックだったのですが、実物のあご紐の素材はポリエステルなのでした。
これだけで難易度爆上がり。
なぜなら、一般的に市販されているテープで、ポリエステルは商品の選択肢が非常に少ないから。
なので仕方なく、風合いの似ているアクリルでいろんな種類を試してみたのですが、どうにも厚みがありすぎたり、逆に薄いとヘロヘロになりすぎたり。
おまけに幅はどれも20mmで、やっぱりアクリル代用はダメ!
仕方ない、これは特注するか・・・ということで、業者さんを探し回り、当たりまくることに。
テープの特注なら以前に黒3点スリングのレプの時に依頼した業者さんがあることはあるのですが、そこは事業形態の変更で小口の個人の特注はしてくれなさそうだしあんまり細かい要望が伝わらないし「またぁ?」という顔をされるのも癪だったので、新たにイチから探し回りました。
そしてようやく個人の小口でも引き受けてくださる業者さんにたどり着き、特注。
しかしテープの特注というのは、言わば「賭け」。
なぜなら、一度進みだしたらもう引き返せず、場合によっては代金がかかるのに出来上がったのは大量のゴミ、ということにもなりかねないのです。
だって最低ロットの単位がキロメートルですぜ?
なので事前の打ち合わせで入念に確認できることを確認しつつ、業者さんにそれだけの技術力があるかどうか見極めなければなりません。
今回は仕様書に細かく原糸の太さや織の数などが載っており、それを伝えただけですでに
「いけますよ、でも織るのは〇〇織機でなく××織機になってしまいますが大丈夫でしょうか?」
などともはや訳の分からない専門的な話にもなり、ここなら間違いなかろうと・・・。
しかしナイロンやアクリルならテープを作った後で染色ができるのですが、ポリエステル(ビニロンも)は原糸の状態で先に染色しないとダメなのが難点で、そのためホントは海自用のグレー版も作ってみようかと思ったのを断念しました。
おまけに最低ロットもものすごく、自宅がさらに狭くなりました・・・。
で、これをこうしてヌイヌイし、両端にボール先止めでカシめて出来上がり。
(下がうちのレプ)
薄いのにヘロヘロでなく、かといってゴワゴワでなくしなやかな、そんな官品らしい顎紐になりました。
色味は官品の新品より若干明るくなってしまいましたが、官品もちょっと使うとこんな色になるので、ヨシとしましょう(そのまま使い続けるとベージュ色になる)。
ちなみにボール先止めは、紐の短いほうは18mm用で、長いほうは23mm用を使っています。
紐が18mm幅なのに先止めが23mmなのは、抜け止めですね。
(上がうちのレプ)
※簡単に書いてますけど、ふつうはボール先止めなんて小売りしてないんですよ。大量にまとめて仕入れてるんです。
地味なところでは縫い糸で、どうしても官品と同じ色のものが見当たらず、仕方なく妥協しています。
【難関2・金具付きの紐】
さらなる難関はこちらです。
鉄帽の両側からぶらさがる2本の紐。
右側は平べったい調整金具、左側は回転金具がついています。
右側の金具に顎紐をつけて長さを調節しておき、着脱の際には左側の回転金具側の紐をつけ外しをします。
*ナイロン
ナイロンは案外簡単でした。
同じサイズ・織り目の市販品を、官品同色で染色加工してもらうだけなので…(ついでにオリジナル・バンジースリングのナイロンもまとめて染色してもらいました)
とはいえある程度のロットがないと高くつくのですが・・・
*ハトメ「カシメリング」
ハトメなんてどこにでもあるっしょ…と思いきや。
まあ丹念に探していけばいずれ見つかるのでしょうけど、全く官品の仕様と同一のものは見つけられず、結果的にPX品と同じもので妥協しました。
ハトメのサイズは、直径だけでなく高さも関係していて、しかも種類によっては希望のメッキのものがなかったりと、思わぬところで苦戦しています。
そしてさらに地味に苦労したのが、穴あけ。
ナイロンはしなやかなので、パンチマシンで開けようとすると生地が伸びてしまい、うまく穴を開けることができないのです。
またポンチを叩くにしても、どうも切れ味がイマイチで失敗ばかりしていました。
そんな中、とあるメーカーさんの最強な穴あけをGETして使ったところ、軽い力で穴がスパスパ開く!
たかだか穴あけに数千円投資してしまいましたが、これ以外にない使いやすさでした。
かしめるためのハンドプレスは前から持ってるので、ハトメに合う駒を買い足しただけ。
*平べったい金具「あご紐用尾錠」
当初、「こんなの既製品であるっしょ」とタカをくくっていましたが、ありません!ない!
なので、業者さんに特注することに。
ただ、官品のこの金具は、かなりキチキチに小さく作られています。
この金具の寸法決めにはかなり悩みました。
なぜならもともとは、市販の20mm幅でもっと厚いアクリルテープを使う予定だったのです(まさかポリエステルテープまで特注するとは思ってなかった)
また、中には官品の顎紐をなくしたり汚したりしてPX品などの顎紐を使う隊員さんもいるはずで、PX品や社外品の紐は20mmのものが多く、また厚みも官品より厚い紐もあり、そんな官品以外の紐でも使える金具にすべきではないか…。
というわけで、とりあえずは敢えて官品とはちょっとサイズを変え、ほんの少し大きめにしたのでした。
材質は一般的なステンレスに。
まあそれっぽくなりました・・・
しかし自分としては、この後にポリエステルテープの特注に成功したとあっては、官品とサイズが違うというのは気になります。
おまけに実物は鉄でもなくステンレスでもなく、真鍮。
なので改めて官品サイズで、材質も真鍮・メッキも官品仕様で特注をすることに…(←あほ))
そして、ドーン。
一番右が官品。
真ん中と左は作り直したレプ。
官品は使用によるエッジ部の摩耗がありますが、それでなければ形状・色味(メッキ)も全く同じになりました。
二つ置いておくと、ワシでさえ「あれ?どっち?」となってしまうシロモノ。
ただ、数があんまりないので、とりあえず最初にリリースするロットはリアル版、その後は先に作ったちょっと大きい版にすることに。
なお、↓PX品にはこんな金具のもあります。
*回転金具「バックル」
官品顎紐の最大の難関はおそらくコレでしょう。
しかし仕様も公表されてますし、なにより前述の平べったい金具が作れるところならコイツも作れるはず。
というわけで、これはもう仕様の通りで!
ちなみに官品は半ツヤ塗装ですが、官品との差異をつけるためにうちではツヤ消し塗装にしてもらいました。
また、PX品はただナイロンテープを通しただけですが、官品はこのように、
(官品)
冬期などに金具が皮膚に当たってひっつくのを防ぐため?にナイロンが複雑に折り込まれています。
ナイロンが柔らかく、ミシンで縫う際にナイロンが逃げようとするので歪みやすく、縫うのがちょっと大変。
PX品はここまでの工夫はされてませんしそのほうが縫製しないで済むので楽ですが、せっかくなら官品同一にしてあげませんと・・・・
*バックルを引っ張るヒモ「丸ひも」
これまた地味すぎるアイテムですが、これがないと顎紐を緩める際にちょっと苦労します。
もっとも現場ではこんな紐なんてとうに千切れてなくなっているケースが多く、なのでヒモなんてどうでもいいっしょ…と思っていたのですが、テキトーな紐(レーヨンやアクリル)を買って切って結んでみてもなんか違う!
それに官品は、こんな紐さえちゃんと仕様が決まっているのです。
それならその仕様通りに作ってみよう…と綿の紐を探したのですが、これがまた意外になかなかない!
どれもぶっとかったり逆に細すぎたり、ワックスコーティングされてたりラメラメだったり!
いるかぁそんなん!
(左が試しにつけてみた紐。右は官品。ぜんぜん違う)
さらにせっかくちょうどいい綿ヒモを見つけても、先端ビニールコートをしてくれる業者さんはどこも自社の紐しか加工してくれず、そして得てしてそんな業者さんの売ってる綿ヒモにはワシの求めるものがなく・・・。
先端ビニールコートなんてやめてほつれるままにしてしまおうか…と諦めかけたのですが、とある方に仲介していただき、素材そのものとしては官品そのものの綿コードを購入&そのお店を通じてビニールコートをしてくれる業者さんに巡り合い、こうなったのでした。
色は違いますが、むしろこれくらいは官品との差異を出しておかないといけないでしょうし、質感も合格!
*丸ナット「止めネジ」
本当はもうこれ以上こだわらなくてもよかったのですが、毒を食らわばナントヤラという故事に倣い、やってしまいました。
官品の88式鉄帽(初期型)は、ネジを受ける内装部分がAナットになっていますが、顎紐部分は丸い円筒形のナットです。
どうせなら…ということで、コイツのレプリカを作ってみました。
もちろん官品との差異をつけるため、フチの厚みを0.15mm厚くし、全長も0.15mm長くしました。
ただ・・・
官品のネジはM4サイズなのですが、もしかすると古い88鉄帽のM4ネジって、古い規格のM4なのか・・・?
官品ネジにはこのレプナットは合わないのかもしれません。
(このナットは顎紐に2か所、うなじ当てに3か所使用されています)
*他の金具類
88式鉄帽のネジは、今は絶滅しかかっているマイナス。
突き詰めればこのネジも特注できなくもないのですが、ネジだけ特注しても帽体との色味が異なってしまうし、レプ鉄帽も製品によって帽体の厚みも異なることから特注はやめました。
なのでふつうのプラスネジをまとめ買い。
ちなみに仕様によると顎紐用のネジの長さは17mm(場所によってネジの長さが異なります。なぜかというと、長すぎて飛び出してるネジがあると衝撃が加わった際に頭部を傷つけてしまうから)。
しかし市販の規格は16mmか18mmなので、18mmにしてみました。
目立たない黒っぽいメッキのものにしています。
で、それに官品サイズに近い丸ワッシャとバネワッシャを組みあわせ・・・
(官品同寸がないので、近いサイズを探すのに苦労しました)
ネジをはめ、平ワッシャとスプリングワッシャをはさみ、
そこで紐のハトメ穴を通して止めネジで締めます。
で、官品では最後にEリングで留めるそうですが・・・ウチのレプだとはまりません(;・∀・)
まあ実際にも飛ばして失くす人も多いそうで、トルク管理をしっかりしていればEリングはなくてもいいみたいです。
で、顎紐をただネジ留めするだけより、ワッシャ類を挟んで止めネジを止めるほうが、
紐が回転するので装着に無理が生じないのです。
・・・というわけで、構想から実現まで数年かかりましたが、とうとう完成しました。
非常に細かい部品たちの集合体がこちら!
どうっすか?
すごくないっすか?
これなら自衛隊マニアはもちろん、現職さんにも「ほう」と言われること間違いなし。
とはいえ、大量の段ボールがまた増えてしまい、ヨメへの借金もまた増えていくのでした・・・
【装備自作量産記事】
※思えばレプ作りすぎでは・・・?