装備自作その3・陸上自衛隊89式小銃官品3点スリングレプリカ(中篇) | ちょんまげインプの部屋

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これであなたも立派な変態。
今後ともどうぞよろしくっす。

(以前、ちょんまげのついたインプレッサに乗っていたのでこんなタイトルです)

 

(前編からの続き)

 

旧来の負い紐もそうでしたが、陸自のスリングは部品探しが何よりも重要。

逆に言うと、部品さえ手に入ればどうにでもなります。

まあ、その部品が手に入らないので、似た部品で代用するか、あるいは特注で再現するか、どちらにしてもどこまで似せるか妥協するか、が製作者のウデの見せ所になるのですが…。

この「黒い官品3点スリング」も、相当に手こずりました(--;


 


 

まず肝心なスリング部ですが、材質はナイロン。

ナイロンならポピュラーな素材だから入手も簡単ね~♪・・・と思っていたら㌧でもない!

実物に似た織り目・厚みとなると、ぜんぜん存在しないのです。

そもそも市販のナイロン素材は、せいぜい「色」「幅」「厚み」でしか選べず、そうなると織り目や風合いがまったく違うものになってしまいます。

織り目で選ぶと厚みが薄すぎたり、ちょうどよさそうな厚みのものは幅が選べなかったり。

あるいは厚みが同じでも、風合いが全然違ったり…。

一時はナイロンでなくポリプロピレンも試してみたのですが、風合いがまるで違います。

本格的なミリタリー用のウェビングなども検討してみましたが、いくら頑丈だとかなんだとか言ってても、やはり織り目や風合いがぜんぜん違うものばかり。

途中、1.8mm厚の似たような織り目のナイロン(ミリタリー装備にもたまに使われてるもの)を探し当てたものの、スリングに使うとかなりペラペラ。

そんなわけで、ついにとあるメーカーさんに直訴して、ナイロン特注(もうね、ここまでのアホはいないと思います)。

(染色前のナイロン試作品でバックル類のチェック中)

柔らかく、でもペラペラでなく、滑らかでいて丈夫、そんな実物スリングのナイロンを再現しました。

厚みも実物と同じ2.2~2.3mmにし、織り目も同じに。

実物を普段からお触り(笑)している本職さんに触り比べてもらっても

「あれ?どっちが本物だっけ?」

と思っていただける自信作(実物の新品はウチのより柔らかいという不確実情報もあり。ただ、使い古した実物は色あせ・硬化があるので若干硬く感じます)。

せっかく大枚はたいてイチから特注するからには、徹底的にこだわりませんとね…。


 

余談ですが無駄知識。

実物のナイロンは、断面がこう、袋状になっているのです。

(「袋織り」。ちなみにバンジースリングは、この中にゴムを通して作ります)

もちろんウチのスリングも、この袋織り。

この形状のせいで、厚みの割にしなやかなスリングになっています。

1枚もので同じ厚みのナイロンだったら、ガッチガチに固くなっててスリングとしてはさぞ使いにくいことでしょう。

 

そして無駄知識その2

袋織りという特性上、左右の端の部分の厚みが若干違います。

↑画像で、上半分と下半分で向きを変えているため、端の部分の見た目の厚みが違うのが判りますでしょうか。

これにはやられまして、厚みの割り出しにはかなり手こずりました。

 

そして無駄知識その3

官品3点は黒だけかと思いきや、ごく一部でタンっぽい色のもの存在します。

海外邦人保護のための「誘導隊」の2000年代半ばの写真で、バックルや金具は同じでナイロンだけタン色のものを見ることができます。

当初は一部だけタン色のものが試作品として製造され、それ以降は黒いものだけが作られているのかもしれません。

 

地味ですが、ナイロンの端。

おそらく実物はヒートカットされているんでしょうけど、個人宅にそんな機械があるはずもなく・・・

ふつうの1枚板のナイロンなら、断面をライターで炙ればホツレ止めになるんですが、この袋織りだとちょっと難しい。

なのでワシは、切った後に熱したフライパンに断面を押し付けて溶かして処理しました。

(なのでヨメ用に新しいフライパンを買いました)

 

 

さて、このスリング最大の特徴であり、ナイロンに次ぐ難関が、伸長用のワンサムバックル。

当初、実物のバックルを真似て特注で製作しようと考えていました。

でも実は、プラスチック製品の特注はかなり困難でして・・・

プラスチックは型が必要になってしまい(金属も鋳造の場合は同様)、バックルは2つの部品が組み合わさるために精度と強度も求められます。

しかも特注すると、最少ロットが1万個とか2万個とかいう、個人ではあり得ないレベルで・・・

それでもとにかく見積もりを取ってみたのですが、WRXSTIが新車で買えるほどのお値段でした。

しかしそれだけの費用をかけたとしても、ちゃんとしたメーカー製のものとは大違いで、製品の質としてはイマイチなものになってしまうそうで、断念(いや、最初から選択肢に入れるほうがオカシイ)。

代替で、ごくふつうのサイドリリースバックルで試してみたのですが、後述の開放用バックルと間違えてしまうため却下。

次は、形のぜんぜん違う市販のセンターリリースのバックルで試作を重ねてみましたが、陸自趣味の方々は目が肥えすぎてるので絶対に通用しません。

このバックルは何とかしなければ・・・ということで狙いをつけたのは、イーグル社製のタクティカルスリングに使われている、伸長用のバックル。

(EAGLE社のタクティカルスリング)

これは操作感はもとより、寸法も89スリングのものとほぼ同じなのです。

こりゃーいいわ~と思ったものの、ここでもすぐに障壁にぶつかってしまいました。

だって、どこにも売ってないんですもん。

イーグルのスリングを置いていて、かつ輸入モノを扱っているミリタリーショップに問い合わせても、

「取り寄せできません」

と異口同音の回答。

なので執念で探しまくって輸入してやりましたよコンチクショウ。

ちなみにこのバックルは、イーグル社製ではありません。

この手の製品に使われるバックルはITW社製のものが多いので、てっきりコイツもそうだと思っていたのですが大違いでした。

製造元にたどり着いた時は、本当に躍り上がって喜んだものです。

だって、コイツが入手できなかったらこの官品3点スリングは完成しなかったのですから・・・。

これは先に述べたように伸長用で、普段はカッチリとはまっていますが、左手の親指一本で外すことができます(ちょっと固いですが)。

このかっちり感と硬さも、官品のものとまったく同じ。

というか、この酷似さからして、どちらかがどちらかを真似たんじゃなかろうか。

※追記:その筋の方に実物と比較してもらいました。

ストッパーの形状が実物は太い1本、レプリカに使用したものは細い2本。

あとは銃身側の、スリングの通る部分の形状が違います。

でも使用感はまったく同じ!

※指を引掛ける突起は、官品のほうが僅かに薄いです。官品は、ココが割れる!割れたらもう外せん!というケースがたまにあるそうで、そのため部隊によっては「外しちゃダメ」となっているところもあるとか?


さて、開放用のファステックス(バックル)。

これは実は、実銃用の製品を使っています。

もちろん変なルートで手を回して入手したわけではなく、堂々と購入した信頼のYKK製(ただし普通のお店にはあまり置いてませんが)。

どうでもいい部品でも頑なに民生品を使わない陸自装備品としては珍しく、豊和さんも脇が甘い(笑)。

 

ちなみにこの3点スリング、複雑な取り回しをしています。

特にこの辺り。
※追記:その筋の方に実物と比較してもらいました。

この取り回しをまずアタマで理解するのに苦労しましたが、その次は縫製に苦労しました。

だって最も厚い部分は、ナイロンが4枚重なるんですもん。

職業用ミシンの限界を超えた厚みなうえに、4枚も重ねるからズレやすい。

ただしそれは実物も同じと見え、実物の縫製もけっこう雑だったりします。


 

さて、2点式の負い紐でも難関だった、「自在スライド」。

これは2点式負い紐のレプリカを作った時に特注で製造した金具を、この3点式用にちょっと多めに作っておいたのですが・・・ユルい!

2点式の負い紐の金具を3点のナイロンにつけると、スルスル動いてしまうのです。

それもそのはず。

2点式のビニロン負い紐より、黒い3点のナイロンのほうが薄いから。

じゃあどうするか・・・と悩んでいたら、「実は旧来の2点式の自在スライドと、黒い3点スリングの自在スライドは、サイズが違う」というコトを事情通から教えてもらったのでした。

そりゃあ確かにそうで、薄い紐を同じテンションで留めるためには、バックルのサイズを小さくしなければいけないわけで・・・

本職さんでもわざわざこの2つを並べて比較することはまずないでしょうから、この事実について知ることができたのは大きかったです。

というわけで、これも3点スリング用に新たに特注。

左が旧来の負い紐レプリカ用、右が3点スリングレプリカ用。

ちなみにとある方面で頂戴した実物の比較画像。


どちらも、実物(たぶん鋳造)とは違ってプレス+レーザー抜き加工ですが、サイズはどちらも実物とほぼ同じです。

その筋の方に実物とウチのレプリカを比較してもらいました。

自在スライド金具とナイロンの織り目を比べてみてください。

実物は鋳造の複雑な造りで、それを完全に再現するのは不可能なので、パッと見と機能上が同じになるようにしています。

裏側から。


さてどちらが実物でしょう。

ちなみに実物のサイズはかなり前から把握していたのですが、実物同様の厚みのナイロンを探すか薄い市販品でお茶を濁すか、というふうに使用するナイロンがなかなか決まらず、そのためにコイツの特注は一番最後になってしまいました。

※この部分の締め付け感を再現するためには、ナイロンの厚みに合わせたサイズ変更が必要のため。

 

ところで名称の「自在スライド」なのですが、イマイチどこが自在なんだか分かりません。

 

横方向にテンションがかかっている場合はズレませんが、

緩めると調整できます。

普通のコキ金具だと知らないうちにズレてくるので、まあこの方式のほうがいいのかもしれません。



そして、2点式の旧来の負い紐(バージョン2)でも使った、「日」のタイプの金具。

実銃でも、ここの金具は2点式と同じものを使っているようです。

2点式の負い紐のページでも書きましたが、この金具は実物採寸。

地味ですがここは無駄にこだわったところです。

※追記:その筋の方に実物と比較してもらいました。
さてどちらが実物でしょう。


 

フック金具は、もともと使用していたものは、外観はなかなかいい感じなのですが、実物に比べてやや大きく、径も太いので(アルミ製のため)被筒の付け外しがしづらくなること、フック自体の取り外しが若干しづらくなる(はめるのは楽)、という難点がありました。

あとは材質の違いによる装着時のカチャカチャ感(?)の実物との違いもあり、実際に本品を実銃に取りつけて訓練に使用した本職の方から改善要望を頂いていました。

もちろん実物と同じフック金具がふつうに大量に購入できるはずもなく、どうにか使用感だけでも実銃に近いフック金具を・・・と探しに探して吟味を重ね、採用したのが二次ロット版。

(新旧の比較)


奥(左)がこれまでのフック金具、手前(右)が二次ロットに使用したフック金具。

 

・・・と各部の紹介は以上。

 

では、次は取り回しのお話に続きます。

 



(後編に続く)
 

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