科学者タロット解題〜18月メンデレーエフ | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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18 月 THE MOON  DMITRI IVANOVICH MENDELEEV

 

 18番目のカードは「月」で、科学者は元素周期表を作ったロシアのメンデレーエフ。メンデレーエフの登場で、元素の研究は飛躍的な進歩を遂げるのですが、それまでの標準的な化学者の常識とは相容れない発見であったため、発表当時は疑惑の目を向けられました。元素周期表の発見は、それまで個々の物質・元素について調べていた実験主体の化学の研究に、全体を統括する理論背景を予感させ、化学の理論的研究の道を開きました。古いタイプの化学者にとっては、元素の周期説は、研究の根底を揺るがす危険の兆候だったといえます。

 

【タロット解説】

 

◆大アルカナの#18「月(THE MOON)」はミステリアスなカード。顔の描かれた月(多くは三日月)に、ザリガニやオオカミが配置されています。這い上がってくるザリガニは危険の兆候を示しているのでしょうが、なぜザリガニなのか、由来は不明です。困ったときに使っている『英米故事伝説辞典』にも、魔法の百科辞典的古典であるセリグマンの『魔法』にも、やたらごった煮的なコレクションであるプランシーの『地獄の辞典』にも、正確で詳細な記事の『世界の神話』(ギリシャ・中央アジア編)にも、ザリガニcayfishの項目はありませんでした。ヨーロッパの一般的な民間伝承には該当するものがなさそうです。月・予兆・ザリガニを結びつけるものは、タロットだけ。タロット占いをするロマ(ジプシー)族内部の伝承に由来するものでしょうね。

 

 最古のタロット(パリの国立図書館に17枚、ヴェニスのコレル博物館に4枚が残されている。1392年に描かれたものだといわれる)の「月」には三日月をデバイダとコンパスで測りながらスケッチする二人の人物が描かれていて、後世見られるザリガニやオオカミはいません。

 

 この二人はフード付きのローブを頭からかぶっていて、月の研究をする学者にも見えます。もっとも、当時の占星術師は、かのケプラーの例のように、天体の運行を調べる天文学者でもありました。とても占いのカードとは思えない図柄です。

 

 余談ですが、当時は月の満ち欠けの仕組みが明らかにされていませんでした。

 

 コペルニクスが地動説を発表したのは1542年、ガリレオ・ガリレイが宗教裁判にかけられたのが1600年代の初頭です。

 

 最古のカードの三日月の欠けた部分は空っぽで、夜景が続いているのですが、当時の科学知識を考えると、画家の失敗と笑うことはできないでしょう。また、ここに描かれている三日月は月食のときの弓形であって、本来の三日月の形ではありません。(さらに余談を書くと、正しい三日月の形を描ける人は現代でも少なく、たいていは月食のときの絵を描いてしまいます。人類は何千年経っても代わり映えしないのですかね)

 

 さて、月は占星術の世界では蟹座と結びつけられているから、月のカードには蟹が描かれていても良さそうなものですが、なぜかザリガニ。(「占星術ではザリガニは蟹座の象徴だ」とタロットの日本語版解説書には書かれていますが、なぜそうなのかは、先に述べたように、まったく不明です)

 

 そもそも、ザリガニもカニの一種と思うのは日本人だけで、蟹は英語ではCRAB(蟹座を示すときはTHEをつける)、ザリガニはCRAYFISHです。

 

 蟹座の蟹はヘラクレスがヒュドラと戦ったときに踏みつぶして殺した巨大蟹で、ヘラクレスを憎む女神ヘラが天の星座に加えたとされています。

 

 1JJ版では、月の出る夜にバルコニーの娘と外の青年が恋を語らう図案ですが、バルコニーの壁面を這い上がるザリガニが描かれています。クラシック版では池の中にザリガニが描かれ、池の畔では二匹のオオカミが月に向かって吠えています。由来はともかくとして、カードの図から受ける印象は不吉で、その象徴する意味は分かりやすいといえます。

 

 危険もしくは不安の訪れを示すカードです。

 

 本来、(ヨーロッパでは)月には「狂気」という意味があります。これは、古代、月の満ち欠けが狂気の原因と考えられていたことに由来するのでしょう。

 

 カードでのザリガニの使われ方は、むしろサソリ的な色合いが強いのではないでしょうか。

 

 ジェイナ・ガライの『シンボル・イメージ小事典』によると、サソリはヨーロッパでは裏切り者の象徴であり、絞首刑執行人の徴でもあるそうです。聖書では先端に真鍮の輪を付けた革紐は「サソリの懲らしめ」と呼ばれ、これで罪人を鞭打ち、贖罪させたと伝えられています。

 

 当時流行していたエジプト趣味により、危険を象徴するサソリが、ヨーロッパでサソリによく似た形態のザリガニで代用された、ということなのかもしれません。(これはひろじの勝手な想像にすぎませんが、案外当たってるんじゃないかなあ・・・)

 

【正位置】危険の兆候

 他に、不安、迷い、欺瞞、嘘、裏切り。

【逆位置】危険を見抜く

 他に、小さくてすむ危険、小さな過失、かわいい嘘、嘘を見抜く。

 

【科学者あれこれ】

 

【メンデレーエフとは】

◇メンデレーエフはロシアの化学者。元素を原子量順に並べると元素の性質が周期的に変化するという周期律を提案し、原子周期表を作って未発見の元素の存在とその性質を予言しました。これほど重要な発見をしたにも関わらず、フッ素の分離に成功したフランスのモワッサンに1票差で敗れてノーベル化学賞を逃し、その翌年死亡しました。ノーベル賞の選考基準って、今も昔も謎が多いですねえ。

 

【メンデレーエフのエピソード】

◆元素のオクターブ仮説。

 音楽の理論が、科学とどう関係があるのかと笑われた。(原典不詳)

◆元素の周期表を発見したメンデレーエフ。熱力学、絶対零度で有名なケルビン。原子や放射能の研究でノーベル化学賞を受けたラザフォード。彼らはみな、母親の息子自慢の対象となるよう、科学の世界へと入れられた。(アシモフの雑学辞典)

◆メンデレーフはシベリア生まれ。高校を卒業するころ父が死んで、母とレニングラードへ。高等師範終了後、高校教師をしながら論文を書き、大学講師に。始めは「シベリアからきたロシア人が」と思われていたが、予言したガリウム、ゲルマニウム、アルミニウムの3つの元素が発見されてからは世界最高と認められる。穏健な科学者で、学生運動では学生の要求を文部大臣に取り次いだが、大臣に断られ、それに抗議して教授をやめた。度量衡局総裁に就任し、ロシアへのメートル法の導入に貢献した。

 63個の元素を原子量の順に並べたら原子価が周期的に増減することに着目して周期表を作る。ネオン、ヘリウムが見つかっておらず、7個周期だったために音階との対応を考えた。(世界の科学者100人・竹内均:音階説について、この本にはこれ以上のことは書かれていない)

 

※うっかり、17番目のカード「星」をぬかしてしまいました。近々、「星」の記事を書きます。できるなら、そのあとに18番「月」が来るように配置換えしたいと思っています。

※17番「星」をアップロードしましたので、18日にアップロードしたこの記事18番「月」を、記事が日付順になるように、25日になりましたら、再アップロードします。

 

 

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