9 隠者 THE HERMIT AMEDEO AVOGADRO
9番目のハーミットつまり隠者は、イタリアのアメディオ・アヴォガドロ。隠者は「道を示すもの」という意味なので、化学の基礎、つまり、分子による化学現象の理解にもっとも貢献したアヴォガドロがふさわしいと考えました。日本語表記するときには、アヴォガドロでなくアボガドロとなることが多いので、以下の文章ではアボガドロとしておきます。
【タロット解説】
大アルカナの#9は隠者(The Hermit)。
といっても、世捨て人や引退した老人というわけではありません。「hermit」は英語の古語で、宗教的な理由により隠遁生活を送る者をさす言葉です。
これは日本語の「隠者」と英語の「hermit」とで語彙の対応ができていないために感じる違和感でしょうか。
「ハーミット」はむしろ、中国の「仙人」に近い存在だと考えた方がしっくりきます。「賢者(wise person)」と訳すべきかもしれません。
どの版のタロットカードにも、杖を持ち、ランプをかざす法衣(ローブ)をまとった老人が描かれています。クラシック版では学者風ですが、1JJ版では明らかに修道僧の姿をしています。ウェイト版はフードを頭からかぶり、どのような人なのかわからないようになっています。
先に紹介した木星王の「タロット入門」では、隠者を錬金術師とみなしていますが、錬金術者を示すカードは他に「魔術師」があります。錬金術師とするならば、魔術師とは異なる側面をあらわしているはずでしょう。
ここから先はぼくの独断ですが、タロットには女帝と女教皇、皇帝と法王のように、似ているけれど異なる役割の双子カードがあります。隠者と魔術師も同様な双子カードだと考えれば、隠者を錬金術師と見なしてもよいかもしれません。
「賢者の石」(本来は黄金を合成する石のこと)を求めて、錬金術師たちは実験を繰り返しました。
宗教的な文献や古代の書物にそのヒントを探ったのでしょう。
広く材料を仕入れて実験を繰り返す実証的な錬金術師に対し、文献派の錬金術師は隠遁者のイメージがあります。
暗闇の中でランプをかざす姿は、隠された秘術を探る様にも見えます。
修道僧のように描かれたものは、キリスト教の迫害を避けるためのカモフラージュではないでしょうか。
どの版のカードにも、ランプと杖は共通のアイテムになっています。
ランプは当時の最高科学技術、すなわち錬金術の成果であり、杖は知恵の象徴です。やはり、隠者のカードは、道を明るく照らし、進むべき方向を示すものと考えるのがよいようです。錬金術師との関連で意味を付け足すなら、当時はそれは「賢者の石」すなわち、無尽蔵の黄金への道を示すものだったのでしょう。
隠者の持つ杖には、枝葉がついている図案が多く、これは小アルカナのロッド(棒)のカードと同じ図案になっています。ロッドは賢者の杖、すなわち知恵を表しています。つまり、小アルカナのロッドも、隠者の杖も、どちらも錬金術師の知恵を象徴するアイテムなんですね。
なお、ぼくたちが遊びに使っているトランプのクラブマークは、葉っぱを図案化したものですが、これはそもそも、タロットの小アルカナの「棒(ロッド)」から転じたものです。もとは棒だった図案が、棒に生えている葉っぱの図案に変更された(デザインとしては俊逸な変更だったと思います)のですね。
ついでにトリビア。小アルカナの四つのシンボル、コイン、聖杯、剣(ソード)、ロッドは、トランプに移行したとき、それぞれ、ダイヤ、ハート、スペード、クラブに切り替わっています。見比べると、図案の基本的な部分がよく似ているのがわかりますね。
【正位置】道標
他に、思慮分別、よいアドバイス、秘められた知恵、真理の探究など。
【逆位置】無分別
他に、愚かな知恵、軽率、アドバイスをきかない、無学など。
【化学者あれこれ】
【アボガドロとは】
◇アボガドロはイタリアの物理化学者で、有名なアボガドロの法則を発見して分子仮説を唱え、今日の化学反応論の基礎を築きました。彼が現れなかったら化学の研究はずいぶん遅れていたでしょう。当時の化学界では彼の研究は重要だと考えられず、せっかくの正しい道標も半世紀の間放っておかれたそうです。
【アボガドロのエピソード】
◆イタリアのトリノに生まれる。大学では法学を修め,弁護士となる。しかし、1800年ころから数学・物理に興味を覚える。(世界の科学者100人)
◆すべての気体は同温、同圧、同体積のもとで同数の分子を含んでいるというアヴォガドロの仮説を適用すれば、原子量や化合物の概念についても、多くのことを説明することができた。ただ残念なことに、この仮説は半世紀もの間、ほとんど無視されたままであり、そのため、化学者たちはその間、無用の混乱に陥っていた。(アシモフ・科学と発見の年表)
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