2 女教皇 THE HIGH PRIESTESS
ROSALIND ELSIE FRANKLIN
【タロット解説】
タロットの№2は女教皇(The High Priestess)。どこまで信じていいのかわかりませんが、伝説に登場する女教皇をカードにしたものともいわれます。
ドイツ人の女性がローマで神学を学び、苦労の甲斐あって女教皇となったが、妊娠してしまい、分娩とともに昇天したという伝説です。
そもそもこの時代に女性がそういう地位に立てるとも思えません。本当に実在したかどうかははなはだ疑わしいですね。
ベールをした女性として描かれることも多く、エジプト文化の流入で、女神イシスと同一視され、カードによっては「ベールをしたイシス」という名称になっているものすらあります。
また№2として、ローマ神話の女神ジュノーを描いたカードもあります。当時の異文化融和の進み具合が読み取れますね。
エジプトのイシス信仰は3000年以上続き、エジプトからヨーロッパへと広まって、キリスト教のマリア像に強い影響を与えたといわれています。
椅子に品よく腰掛け、手に書物を持っている女性というのが、このカードに共通するイメージ。
ウェイト版では手の書物は「TORA」(モーゼの律書)と明示されています。
べつの版では書物に陰陽巴のマークが描かれていて、ベールをかぶった女性がスフィンクスの上に腰掛けています。こちらは帽子の飾りが三日月で、ウェイト版の女性の足下にやはり三日月があるのと合致します。
つまり、どちらも月の女神を象徴しているのですが、イシスには本来月の女神としての象徴はありません。
他の女神のイメージが付け加えられたのかもしれませんし、イシス神がどこかの月の女神のイメージを吸収してヨーロッパに伝わったのかもしれません。
当時、エジプトからやってきたイシス神は広く信仰されたため、他地域の神を伝来の途中でどんどん吸収し、ほとんどすべての女神の属性を身につけたといわれています。その中に月の女神があっても不思議はないでしょうね。
占いでのシンボライズされた意味は、次の通りです。
【正位置】知性。
他に、学問、教養、深い考え、芸術、分析力、記憶力、静けさなど、知的な生活を示す。(ウェイト版にはロマンチックな思いという意味も添えられている)
【逆位置】浅はかさ。
他に、晩婚、俗っぽい考えや生活、勉学を好まない、あばずれ。など。
意味の取りやすいカードですが、占いでは、これでもかといわんばかりに、派生意味が添えられています。他のカードでもそうですが、これらを全部丸暗記するより、基本の「知性」「無知性」をもとにして、あとは自分で連想する方が良いでしょう。
【科学者あれこれ】
【ロザリンド・フランクリンとは】
DNAの二重らせん構造はワトソンとクリックによる発見とされ、ノーベル賞もこの二人が受賞しています。
が、科学の世界もまた、人間の世界であり、歴史の表舞台に出ないところで、さまざまなドラマがあります。
イギリスのロザリンド・フランクリンはX線写真に優れた物理学者で、実際にDNAのX線写真撮影を行い、その影がX字型をしている(二重らせんを横から見るとこう見えます)のを確認した最初の人です。
ワトソンはロザリンド・フランクリンがDNAのX線写真撮影に成功したという話を聞き、フランクリンに内緒でその写真フィルムを盗み見し、二重らせん構造のヒントを得ました(というより、ほとんどその写真を見ることにより事実を知ったという方がいいでしょう)。
ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を学会で発表した場にはフランクリンもいて、それとは知らないフランクリンは二人の成功に拍手をしたと伝えられています。
事の経緯は周囲に知られるようになりましたが、ワトソンとクリックがノーベル賞を受賞した時には、フランクリンは37才で病死していたためノーベルの対象にならなかったそうです。
死後はワトソンの心ない中傷記事で、「ダークレディ」だとして名誉を傷つけられました。その後、フランクリンの人柄をよく知る人たちにより、ワトソンの記事が悪意ある中傷だとして、名誉回復が行われました。
ロザリンド・フランクリンは、本当は知性に満ちた優しい女性だったといいます。
この話は、生物が専門の人にはわりと知られた話だそうですが、物理が専門の人にはあまり知られていません。
【女性科学者の業績の復権】
タロットカードの大アルカナは22枚で、できるかぎりよく知られた科学者をいれようという方針で、科学者を選んでいます。が、そうすると、マリー・キュリー以外は男性ばかりになってしまいました。
そこで、女性科学者をもう一人入れようということになり、象徴的な人としてロザリンド・フランクリンを選びました。
よく、理系の研究には男性のほうが向いていると、まことしやかに囁かれますが、実際には個の能力が問題であり、性差は関係ありません。
科学の世界は、もともと、ある社会的な制約の上で成り立ってきた世界です。
ガリレオの時代には、科学の研究はパトロン抜きには考えられませんでした。
裕福な貴族に取り入って、お金を出してもらい、研究を続けるのです。(大学からもわずかながらの報酬が出ますが、その額の大小でも嫉妬からくる複雑な人間関係が生まれました)
ガリレオやケプラーもまた、有力なパトロンの間を転転としながら、研究を続け、本を出版しています。
19世紀まで、科学の研究で生活することはできませんでしたから、科学の研究には、もともと裕福な家庭環境があるか、特別なパトロンがついているかしなければなりませんでした。
マイケル・ファラデーは、家が貧しいので小学校しかでていなくて、最初は本屋さんの丁稚奉公をしていましたが、たぐいまれな研究熱心さと幸運が重なり、デイビーの助手として研究生活に入ることができました。これは、当時の科学界では、異例中の異例です。
裕福な家庭環境にある場合も、将来一家を継ぐ男子と、他家に嫁ぐ女子では、教育環境も異なります。
以前、別立ての記事(*1)にしましたが、太陽のスペクトル分析から、太陽の主成分が水素であることを発見したセシリア・ペインは、女性であったために、他の男性科学者からいわれのない差別を受け、その偉大な業績も奪われてしまいました。詳細はそちらの記事に書いたので、ここでは繰り返しません。
また、原子核分裂を発見したオーストリアの物理学者リーゼ・マイトナーは、同僚の化学者オットー・ハーンにその業績を奪われ、当然受けるべきノーベル賞を受賞していません。これは性差別というより、オットー・ハーンの人間性によるものです。
オットー・ハーンは自分の実験結果がさっぱりわからず、マイトナーに手紙で助けを乞い、マイトナーと甥のフリッシュがそれをウランの核分裂により生じた放射性のバリウムのせいだと見抜いて教えてやったのです。が、その手紙を受け取ったハーンは、核分裂発見の論文にマイトナーの名を入れずに発表し、しかも、その後も、マイトナーなど聞いたこともないといった態度を取り続けました。
他人の研究を奪い、当然入れるべき名を論文から削ったということでは、ワトソンとハーンはよく似ていますね。
マイトナーはアインシュタインが「私たちのキュリー夫人」と呼んだ女性科学者です。
歴史に埋もれた女性科学者の復権は、今はさまざまな形で掘り起こされつつあります。
科学者ではありませんが、運動エネルギーの数式の論争に終止符を打ったフランスの女性エミリー・デュ・シャトレも、表舞台に知られるようになってきました。(*2)
マリー・キュリーの場合はそういう差別が表の話題になることがなかったのですが、その背景にはマリーが夫のピエールと共同で実験していたことがあるのではないでしょうか。
リケジョのみなさんは、いわれのない言説に惑わされることなく、信じる道を突き進んで下さいね。
(*1)太陽の水素
(*2)エネルギーとロマンス
どちらも、以下のリンクでご覧いただけます。
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