6 恋人 THE LOVERS JEAN HENRI CASIMIR FABRE
【タロット解説】
大アルカナの#6は恋人(The Lover)。若者の頭上でギリシャ神話のエロス(キューピッド)が「愛の弓」を構えている図柄は共通していますが、版によって、人間たちの配置は微妙に異なります。
男女一組が描かれることもありますが、基本形は男一人に女二人。男二人に女一人のものもあります。
ですから、単純な恋愛関係を示すというよりは、三角関係を表すカードであり、そこから転じて、人生の岐路を選択するという意味ともなります。実際、若い男女三人が描かれた三角関係を表す図柄のものには、足下に二つに分かれる道が記されています。
色恋沙汰と岐路の選択は、占いのもっとも人気のある課題です。どちらかで悩んでいる人はかなりの数います。このカードに限りませんが、22枚から10枚を選んで並べる大アルカナ占いでは、「恋人」のカードが登場する確率は約5割。客はこのカードを見て「ぐっとくる」でしょうね。
当然、キリスト教の聖書には、エロスなんて登場しません。ギリシャ・ローマ神話とキリスト教が、当時の民衆の信仰で入り乱れていたことがわかります。
【正位置】二者択一
他に愛欲、セックス、情熱、快楽、一致、独占欲。
【逆位置】きまぐれ
他に行くべき道の選定失敗、別れ、結婚詐欺、浮気の露見など。
どうしてこのカードにアンリ・ファーブルを配したかというと・・・
昆虫記で有名なファーブルですが、昆虫のフェロモンを発見した人でもあります。
そんな単純な理由でありました。
【科学者あれこれ】
【ファーブルとは】
◇ファーブルはフランス・アビニョンの学校で数学と物理学を教えていました。31歳の時、医者で昆虫研究家のデフュールのタマムシフシダカバチについての論文を読み、昆虫の研究をしようと決意。その1年後にはフシダカバチに関する新しい論文を発表し、フランス学士院から実験生理学賞を受賞。しかし、いわゆるアカデミックな専門家たちからは、攻撃を受けました。ダーウィンの進化論に否定的な発言をしたのもそれに輪をかけたようです。有名な『昆虫記』はその22年後に第1巻を書き、その後全10巻を30年かけて執筆しました。
◇『昆虫記』で有名なファーブルですが、昆虫のフェロモンの存在を最初に発見したことはあまり知られていないようです。雌のヤママユ(山繭蛾)が匂いで雄を惹きつけることに気がつき、それを記録しています。なお、ファーブルは自分の研究の成果を、研究論文ではなく読み物として発表し、「昆虫の詩人」ともいわれました。晩年は極貧生活で、92歳で亡くなっています。
◇ファーブルは博物学者であり、類い希な観察家で、事実を事実のまま受け入れるという視点から、ダーウィンの偶発的な変異と自然淘汰による進化という理論を受け入れていません。が、ダーウィンとファーブルは手紙のやりとりを何度もしており、お互いに敬意を持って交流していました。
そもそもファーブルが反対したのは、ダーウィンのいう偶発的な変異であり、化石の発掘から事実として理解できる「進化」そのものは認めています。自分の論文でも、しばしば生物進化を前提とした表現をつかっています。「(エンマコガネについて)これは最後に出現した生物の仲間なのだ。・・(略)・・蛹だけにある胸部の突起は過去に存在したものの名残でないとすれば、おそらくこれからできるものの前兆だろう。・・(略)・・何世紀かたつと、これが永続的な堅い鎧になるのだろう」
ファーブルが昆虫を観察したやり方は、のちの行動学者たちの先駆。フランスではアカデミズムから外れていたため、悪意のある非難をうけましたが、イギリスでは非常に高く評価されました。
【ファーブルのエピソード】(アシモフの雑学コレクション風に書いてみました)
◆ファーブルは本国のフランスでは、日本ほど知られていない。一般のフランス人にとっては無名に近い存在。(『ファーブル伝』イヴ・ドゥランジュ著ベカエール直美訳:訳者あとがきより、内容の要約)
◆『昆虫記』を初めて訳したのは大杉栄。獄中で『昆虫記』(英訳本)を読み、魅せられた。それがきっかけで第1巻の翻訳をすることに。全10巻を翻訳する気でいたが、関東大震災の騒ぎの最中、憲兵に殺された。(『博物学の巨人アンリ・ファーブル:奥本大三郎著』より、内容の要約)
◆ダーウィンとファーブルは互いを高く評価していたが、ファーブルはダーウィンの進化論を認めなかった。「この偉大な驚嘆すべき宇宙が、単なる偶然の結果出来上がったものとは、私にはとうてい考えることはできない」と。(同上)
◆ファーブルに注目していた文部大臣デュリュイはファーブルから「何もいらない」といわれ、「出頭せねば逮捕する」と手紙を送った。びっくりしたファーブルが大臣のもとに出向くと、レジオン・ドヌール勲章と賞金が贈られた。(同上)
◆ファーブルはアカネから効率よく赤い染料を取り出す方法を研究し、生活の糧を得ようとしたが、合成染料の登場で失敗した。その後、大家の策謀で家を追いだされ、普仏戦争に負けてパリが敵に包囲されて著書の印税も入らず、困窮した。ぽんと大金を渡して救ったのが、『自由論』で有名なイギリス人ジョン・スチュアート・ミル。植物学の趣味で意気投合していた。(同上)
(*)ダーウィンとファーブルの関係について、本文に記述を追加しました。
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