今回は、藤田順治先生の「ヤングの干渉実験」装置を紹介します。「ひみつ基地でシングルフォトンの実験」「光子の干渉」の記事で紹介した干渉実験は、この装置をつかって行われています。
マグネットシートとカミソリ、そしてピアノ線を使って、ヤングの実験用の複スリットを作るという発想にびっくり。今まで自作するのに苦労していた複スリットが、思いの外簡単に作れます。
以前は、スライドグラスにニカワを入れた墨を塗って、カミソリで削って窓を二つ開けるという作業で自作するのが普通でした。これは技術と年期がいります。ぼくなんかがやると、複スリットを作ったつもりが、カミソリを2回引いた跡が1本になってしまって、単スリットになってしまうという恥ずかしい結果に。
理科教材の複スリットだとあまり性能がよくないので、精密な実験をしようとすると自作せざるを得ないのですが・・・ぼくのように根気のない人は、他の人の自作したのを分けてもらうしか方法がありませんでした。
ぼくは、単純な実験の大好きな飯田さんにさえ、「ひろじはおれが簡単だと思って開発した実験すら難しいといってやらない」と呆れられます。いやあ、ぼくは、全国の「実験装置作るのめんどくさいなあ先生たち」の気持ち、わりとわかりますよ・・・
でも、藤田先生のこれなら、ぼくにもできそう!
超カンタンでしかも超高性能!
ぜひ、このサイトでも紹介したいと思い、藤田先生に打診したところ、快諾していただきました。
ご本人の了承を得て、脅威の超カンタン&高性能のヤングの干渉実験を紹介します。藤田先生ご自身による詳細な解説文も、最後にそのまま転載しますね。お急ぎの人はそちらを先にご覧ください。
実物を顕微鏡で撮影した写真があります。
見事にシャープな複スリット。真ん中の黒い棒の影がピアノ線で幅0.2mm、光の筋は、ピアノ線とカミソリの刃の隙間で作った複スリットです。最初の図と見比べてみて下さい。図で赤く描かれたピアノ線と、青く描かれたカミソリの刃の間に、0.1mmほどの隙間ができています。
実物の写真がこちら。
カミソリの刃は縦に半分にして、さらに横に半分に切ったもの。金切りハサミで切ります。ペキンと折ることもできますが、すこし歪んでしまうので、金切りハサミを使っているそうです。それでも歪みが出ると、金床の上でハンマーで叩いて平面になるようにします。
名刺大より一回り大きいマグネットシート(藤田先生が愛用されているのは、よく広告のために郵便受けに放り込まれている水道関連会社のマグネットシート<略称「冷マ」。冷蔵庫用マグネットシート。最近、話題になっているらしい?>」です。広告になってしまうので、実物写真は割愛します)に、図のような短冊の切り込みを入れます。
マグネットシートの裏面(磁気面)にカミソリ刃を4分の1に切ったものの刃を短冊の両サイドから近づけ、厚さ0.4mmの金属ゲージなどをはさんで、刃と刃の間を0.4mmにします。カミソリ刃は磁力で固定されるので、作業がカンタン。
さらにその窓の中央に0.2mm径のピアノ線を刃に並行に貼りつけます。こちらも磁力で固定できます。
こうすると、計算上は0.1mmのスリットが(中央部の)間隔0.3mmで並ぶ複スリットになります。
カミソリの刃もピアノ線もマグネットシートに貼り付くので、作業はカンタン。調整が終わったら、固定をさらにしっかりさせるため、セロテープや接着剤で、カミソリ刃とピアノ線をマグネットシートに接着します。
う〜ん、カンタン。
ヤングの実験は有名な実験ですが、念のため、配置図をしめしておきます。(この図も藤田先生の作であります)
レーザー光が使える環境にある人は、光源はレーザー光を使うのが楽ですね。複スリットの前に単スリットを置かなくて済みますから。
光源はもちろん、緑色レーザーでなく、赤色レーザーでもかまいません。赤色を使った場合は、干渉縞の感覚が広くなります。
こちらが、実際の実験結果。
スリットの間隔を干渉条件と干渉縞の間隔から逆算できて、0.28mmだったと。ほぼ0.3mmで、最初の設計通り。まさにドンピシャ!
すごい!
この精密さ!
どこまで測定できるか調べたところ・・・
なんと、55次まで! すごすぎる! 超高性能!
なお、光源としてレーザーの代わりにLEDを使うこともできますが、この場合は通常のヤングの実験と同様に、光源と複スリットの間に、単スリットが必要です。藤田先生が行われた実験では、光源←約7cm→単スリット←約8cm→複スリットという配置です。
単スリットは、複スリットと同様な作り方ですが、ピアノ線は使わず、両サイドからカミソリの刃を近づけることで作れます。スリットの間隔は磁石式なのでいろいろ変えられますが、0.3mm程度でよいとのことです。
この単スリットは、光源がレーザーでない場合には、光の干渉性を生むために必須のアイテムです。お忘れなく。
なぜかというと、LED光源や豆電球のフィラメントなど、光源が大きいと、その各場所からさまざまな振動の光が放射されます。これらの光は同期していないので、理想的な点光源から放射される位相の一致した光にしなければいけません。いったん単スリットを通すと、それが点光源の役割をするので、理想的な光が得られるわけです。
レーザーの場合は、点光源ではありませんが、そもそもその放射の仕組みが、光の位相をそろえてから放射するので、点光源の光と同様に、干渉性が保たれているんですね。
授業ではレーザーを使った方がカンタンに実験してみせられますが、レーザーを扱うときはやはり慎重になります。気をつけてお使い下さい。
*** *** ***
超簡単ダブルスリットの製作 2017.9.7/藤田順治(*1)
1.動機:築40年以上の老朽化マンションに住んでいると、水道工事の宣伝文が印刷されたマグネティックシートがしばしばポストに投げ込まれる。そのままゴミ箱へ直行させるのは勿体無いので、なんとか利用法はないものかと考えたところ、磁性体を任意の場所に設置させることができる特徴を活かし、極細のピアノ線と安全剃刀の刃を用いたダブルスリットの製作に利用できることがわかった。
2.ダブルスリットの製作
1) マグネットシートの中央に、カッターを用いて 4 mm x 10 mm(好みの大きさで結構) の短冊形切り抜きを作る。
2) 安全カミソリの刃を4分の1に切ったもの2枚をマグネットシートに貼り付け、刃を左右から内側に向けて注意深くずらせ、Thickness gaugeなどを用い、0.4 mm の幅を残して平行に取り付け、テープや瞬間接着剤などで固定する。
3) その中央長辺方向に、0.2 mm のピアノ線をカミソリの刃とのギャップが等しくなるように張り、テープまたは瞬間接着剤などで固定する。直線性を保つことが重要!
4) 逆のプロセスとして、先にピアノ線を張り、後からカミソリの刃を貼り付ける方が上手くいくこともある。
◉注意事項:ピアノ線は、なまくらニッパーでは切れない。
上等なニッパーで切断するとき、短く切ったピアノ線が矢のように飛んでいくので、行方不明にならないよう、マグネットシートや磁石、セロテープなどを活用すると良い。
◉4-スリット、8-スリットの製作も可能。同じピアノ線や直径のわかった針金をスペーサーとしてスリット幅を決め、芯線の本数を増やす。明るさは倍増する。
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(*1)ぼくが最初にこの実験装置を見たのは、2016年12月3日の物理サークルでの藤田先生の発表でした。この日付(2017.9.7)は、藤田先生からぼくあてに、今回の説明記事を送っていただいた日付です。
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