0(無番) 愚者 THE FOOL RICHARD PHILLIPS FEYNMAN
正真正銘、大アルカナ最後の1枚。「愚者(the fool)」は、タイトル通りの「馬鹿」の意味ではなく、サーカスのピエロのような「トリックスター」を意味するカード。常識や慣習を無視して自由に振る舞い、物事の本質を別の角度から垣間見させる存在。おそらく、タロット占いを生業とする人々自身を象徴するカードなのでしょう。
となれば、物理学会の異端児にして、もっとも物理学者的な発想をするファインマンこそ、このカードに相応しいでしょう。粒子が過去から未来へ向かう時間線を、反粒子が未来から過去へ向かう時間線と考えて計算をする「ファインマン・ダイアグラム」のような発想は、ファインマンでなければ不可能だったでしょう。ファインマンはこの「ファインマン・ダイアグラム」を用いた経路積分によって、量子の無限大問題を解決し、同様な業績を上げた朝永振一郎先生らとともに、ノーベル賞を受賞しています。
量子(この言葉は初期の量子力学で使われ、今はただ単に素粒子という言葉を使いますが)の波動関数の計算では、ファインマンは実際に実現した経路ではなく、ありとあらゆる経路をすべて計算することで、実現する経路を示すという離れ業も行っています。
逸話もありすぎるほどありすぎる人。『ファインマン物理学』をまとめたレイトンの息子が書いたファインマンの自伝的エッセイ集「ご冗談でしょ、ファインマンさん」シリーズで、その多岐にわたる逸話が紹介されているので、エピソード・コーナーはそこからほんの少しだけ紹介するのにとどめておきます。(誤解している人も多いのですが、これらのシリーズはあくまでもレイトンの息子がファインマンから聞いた話をもとにしてまとめたエッセイ集であり、ファインマンの自伝ではありません)
ファインマンが日本にやってきたときには、研究室を訪れたファインマンが研究テーマをひとしきり聞いた後、足下をすくうような衝撃的な疑問を提示し、研究者たちは「ファインマン爆撃」と呼んで恐れたという逸話も残っています。
【タロット解説】
◆大アルカナには一つだけ番号のついていないカードがあります。
「愚者(FOOL)」です。
中世の道化師の格好をした者が棒の先に荷物袋をぶら下げ、旅に出る様子を描いたカードがそれです。
不思議なことに、このカードだけは版による図案の差異が極端に少ないんですね。
・・・ということは、変更しようのない完成された図案、もしくは、変更が許されない特別なカード、ということになります。
版によっては番号「0」を割り当てているものもあるが、やはり無番号が相応しいのではないでしょうか。
このカードはタロットカードであって、タロットの世界に属さない、矛盾をはらんだモンスターカードなのです。
神話でいう「トリックスター」に当たる存在でしょう。
カードの図案を見ると、封建制度でがっちり階級が固められた中世世界にあって、何ものにも束縛を受けず放浪する人間の姿が描かれています。つまり本来は「自由」を象徴するカードなのでしょうね。
これは中世世界でタロット占いを行っていたのがロマ族、いわゆる「ジプシー」であったことに由来するのかもしれません。「愚者」のカードは、すなわちジプシー自身を示す例外カード、ではないでしょうか。
現代の古典、ウェイト版を作成したアーサー・エドワード・ウェイトは、「さらに精神を昂揚させるために、新しい経験を求めて旅立つ姿」と解釈しています。(前掲書「タロット入門」による)
もうおわかりの方もおられるでしょうが、この「愚者」のカードこそ、トランプの「ジョーカー」の起源です。
【正位置】放浪
他に、愚かしさ、考えのなさ、無収入、きまぐれ、無目的。
【逆位置】正気にかえる
他に、ためらい、誤りに気がつく、目的のある行動、旅の中止。
【科学者あれこれ】
【ファインマンとは】
◇アメリカの物理学者ファインマンは、量子電磁力学の無限大解消の理論で、繰り込み理論の朝永らとともにノーベル賞を受賞しました。原爆製造のマンハッタン計画にも参加しています。(ファインマンの自伝的エッセイ集が日本の教科書に採用されそうになったとき、その過去が原因で掲載が流れたことがあります。非常に残念な話ですが)
悪戯好きで常識にとらわれない生き方を描いた自伝的エッセイはベストセラーになりました。スペースシャトルの事故原因も究明しています。(この逸話は「困ります、ファインマンさん」に詳しく書かれています)
その自由奔放な性格は数々の逸話を残しています。物理学のみならず、他分野にも容赦ない口撃を加えています。
科学界のトリックスター的存在でした。
【ファインマンのエピソード】
◆11才か12才ころ自分の「実験室」を作った。そこには、電気コンロ、蓄電池、ランプスペースがあった。ランプスペースとは電球のソケットを木の台につけたもので、電球の直列や並列の実験ができた。盗難よけのベルを作って、部屋のドアにつけた。親が部屋に入ってきた時に見事にベルがなって、大喜びをした。自動車用のスパークプラグで火花を出し紙に穴をあけて遊んでいた時、火が大きくなってぼうぼう燃えたあわててくずかごに捨てたら新聞紙に火がつき、大きな火に、雑誌でふたをしたら何とか消えたが、母に知れると煙がすごく、母にばれそうだったので、くずかごをペンチではさんで外へ出した。そうしたら、外は風が強く再びぼうぼうと燃え出した。あわててまた部屋へ入れ雑誌でまたふたをして消した。そして何気ない顔をして外出した。(ご冗談でしょう、ファインマンさん)
◆ファインマンの大学時代、小便は重力によって体から自然に出ていくのか否かで友達と議論をした。ファインマンはそうでないことを実証するために逆立ちをして小便ができるところを見せた。(ご冗談でしょう、ファインマンさん)
◆11,2歳のころ、近所の子どもを集めてよく化学マジックショーをやった。そのフィナーレは両手にベンジンをつけて燃やすという筋書きだった。「火事だ!」といってかけまわるというと、いつも子どもたちは総立ちになって部屋から飛出した。(ご冗談でしょう、ファインマンさん)
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