いずれ、発表できると思いますが、この夏はちょっとばかり集中的に作業していることがあります。モノスゴク楽しいんですが、反面、モノスゴクきついところもあります。当然か。
このサイトに記事を書くと、気分転換になるので、この夏は軽く書く記事がどっと増えるかもしれません。といっても、ブログ的な記事はほとんどありませんが・・・
さて、今日はこの話題。以前作成したオリジナルの科学者タロットの裏話を。(すみません、夏休みが近いので、恒例の夏休み実験シリーズも書く予定ですが、今日は違います)
科学者タロットーーなんでこんなものを作ったのかと、よく聞かれるのですが、そもそものきっかけはスギさんとのこんな会話。
「最近さ、生徒がびっくりするくらい科学者のエピソードを知らないんだよ」
「そうそう、エジソンがタマゴを抱いて孵そうとしたとか、全然知らないね。ぼくたちが子供の頃はそういう話、どこかで聞いていた。常識だったのに」
「昔は小学何年生とかの学習誌じゃなくても、漫画雑誌のちょっとしたコーナーにそんな話が載ってたよな」
「今は漫画すら読まない。アニメとかゲームとか」
「科学者のエピソードって、子供向けのものは美化されてたり、誇張されていたりで、そのまま信じちゃうのもどうかと思うけど、そういうのをまったく知らないというのも、寂しいなあ」
「じゃ、子供の好きなカードゲームで、科学者のエピソードを学べるようにするというのは?」
「いいね、それ。専用のカードゲームをデザインするのは大変だから、とりあえず、トランプにしようか」
「で、トランプにオマケをつけて、簡単なジャンケンカードゲームができるようにするか」
「しかし、そうすると、13枚×4種+ジョーカー2枚で、54枚いるなあ」
「とりあえず、科学者の候補を選んで、エピソードを集めてみよっか」
おおいに乗り気になって、取りかかってみたものの・・・
いくつかの難点が・・・
1)54種類も作るのが大変。(といいつつ、かなりの数の科学者の似顔絵を描きましたが、途中で力尽きました)
2)全部印刷すると、印刷費だけでかなりになる。自前で作るのは、金額的に大変。(これがもっとも大問題)
3)カードにイラストを配置すると、科学者エピソードを書くスペースが少なくて、あまりエピソードらしいエピソードが入らない。エジソン=1%の才能と99%の努力、発明王、お金にならない発明は意味がないといった・・・くらいの説明では、エピソード紹介の目的が果たせない。といって、裏面に書くと、トランプにならないし。
・・・などなどの理由で、暗礁に乗り上げました。
でも、窮すれば通ず。窮鼠猫を噛む・・・あ、これは違うか。
ふと、大学時代、同じ理学部の友人が手製のタロットカードを作って持っていたのを思い出しました。
ぼくはまんがを描くのが好きだったのですが、彼はイラストが好き。趣味が似ていることもあって、よくそんな話をしました。
ぼくが描いたマンガを「絵の構成力が抜群だから、まんがなんか描かずに、イラスト描けよ」そういわれて、ぼくも「そんなにイラスト上手いんなら、美術部に入ればいいじゃん」とけしかけたり・・・これ、美大生じゃなく、理学部生の会話ですかね。彼と物理のハナシしたこと、一度もなかったな・・・
彼のイラストは、深井國と米倉斉加年(まさかね)を足して2で割ったような絵柄。独特だったな。でも、どうしてタロット?
「別に占い信じてるわけじゃないけどさ。なんか、神秘的でいいだろ。まあ、ちょっとした遊びさ。でも、よく当たるぜ。占ってやろうか」
「いいよ。占いとか興味ないし」
まさか、後に自分がタロット占いをする人になるとは思わなかった頃の話です。それどころか、あろうことかスプーン曲げしたり、ダウジングしたりと、超能力や降霊術まがいのことをするいかがわしい人になるとは・・・
ちょっと話が横道にそれました。軌道修正。
まあ、そんなこんなが閃きと共に、走馬燈のように脳内を巡りまして、タロットがいいんじゃないかと思ったわけです。
「タロットなら、大アルカナだけなら22枚で済むよ。それに、タロットカードって、たいてい占い方だけじゃなく、カードの意味とかを書いた説明書きがついているから、その説明書に科学者のエピソードを載せられる」
「そうか、タロットに科学者の顔を加えれば、タロット占いがどんな仕組みで当たるのかとかを、冷静に伝えることもできるなあ。それ、いいよ。でも、ぼくはタロットよく知らないから、あまり協力できないなあ」
「将来トランプやカードゲームを作る試作版だと思ってもらえばいいよ。今まで書いた科学者のイラストがそのまま使えるし、二人で集めたエピソードも使える。やってみるよ」
タロットのデザインは、完全にオリジナル。萌えキャラの絵柄でと一瞬思いましたが、一時の気の迷いと振り切り、自分の絵柄を簡略化した新しい絵柄に挑戦。まずこの絵柄でタロットカードを作り、そこに、タロットカードの意味にぴったりの科学者のイラストを配置するというやり方です。カードデザインとしては、わりと成功したと思っています。
タロットの図柄も、どうせやるなら既存のカードのマネじゃなく、本格的にやりたいなと思いました。著作権の問題もありますしね。
自分の持っている4種類くらいのタロットカードだけでなく、タロットの研究書(当然ながら、占い関係のものばかりでした。もう少し美術史的なものが欲しかったのですが・・・)を、あちこちの図書館を巡って、何冊も読みました。
占いや魔法関係の本を読み比べつつ、自分の知識のバックグラウンドにある、ギリシャ時代の哲学(自然科学、哲学、魔法が混ざったようなものですね)と比較したり、キリスト教の教義と比較したりしているうち、タロットカードの図柄に隠された、さまざまな意味が見えてきたように思えました。
たぶん、ぼくの描いたカードの図柄と解釈は、どの本にもない独自の内容になっていると思います。
まず最初にあれっと思ったのは、「運命の輪」と呼ばれるカードの図柄でした。ウェイト版と呼ばれるタロットカードの「運命の輪」にスフィンクスが乗っていたからです。
そもそもTAROTは「タロー」と発音するのが正しいとされていますが、イタリアでTAROCCO(タロッコ)とかTAROCCHI(タロッキ)とか呼ばれていたものがフランスに伝わってTAROTとなったのですから、フランス語風に「タロー」と発音して、これが正しい読み方だ、とする解説はどうなのかなあと思います。タロットカードはフランスだけでなく、いろんな国でデザインされたものがありますしね。
ぼくが一番よく使うのは、ライダー社のウェイト版です。これはアール・ヌーボー風の絵柄で、もっとも売れているカードらしいですね。
ウェイト版というのは、1886年に結成されたオカルト結社「ゴールデンドーン魔法機構」のアーサー・エドワード・ウェイトが『タロット図解』を出版し、女流画家パメラ・コールマン・スミスに新しい図案のタロットを描かせたものです。
これは豪華な作りで、小アルカナ(トランプの1~KにP(ペイジ)を加えたもの)カード56枚にも一つ一つ違う図柄が描かれています。他のタロットカードだと、絵札以外はトランプと同じような図柄ですが。
これに対し、普通に使われるタロットの古典はマルセイユ版です。
こちらは15世紀から19世紀初頭まであまり図柄が変わっていません。現在のタロットの図案の原型となっているものです。
スイスのミュラー社が英語版、フランス語版、ドイツ語版と、様々な国版を出しています。
現存する最古のタロットはパリの国立図書館にある大アルカナ17枚(全部残っていない)だそうですが、これは1392年にフランスのシャルル6世のために画家ジャックナン・グランゴナーが描いたものだといわれています。
『タロット入門』(木星王著・保育社カラーブックス:かなり昔に入手したものです。今は手に入りにくいかもしれません)に、この最古カードの「月(THE MOON)」(原図にはla luneとある)の図版が載っています。
三日月を占星術師がコンパス(デバイダ)で測量しながら、なにやら図面を引いている図であり、マルセイユ版以降に登場するザリガニや狼といったアイテムは描かれていません。カードの意味合いも「危険の兆候」といったものではなかっただろうと思われます。
タロットの図版から、中世にグノーシス派の影響があったのか(あるいは当時の流行であったともいわれますが)、エジプト神とギリシャ・ローマ神、そしてキリスト教信仰が融合した歴史が見て取れます。
例えば「女教皇(The High Priestess)」はエジプトの女神「イシス」です。中世はエジプトブームみたいなものがあったんですね。キリスト教のシンボルに異教のシンボルを重ねるのが、エキゾチックで知的な感じがしたんでしょうか。
「女帝(The Empress)」もベールを脱いだ「イシス」という位置付け。
さらに女教皇はローマ神話のジュノーでもあり、女帝はヴィーナスでもあるわけで、さまざまな文化の融合が、タロットカード上で行われています。これは当然、占いの上だけの風潮ではないでしょうね。
ウェイト版の「運命の輪(The Wheel of Fortune)」のスフィンクスはこれだったわけです。当時のさまざまな文化背景をよく研究して、新しい図柄が作られたのですね。
一説にはタロットはエジプト起源ともいわれますから、それが本当なら、中世のエジプトブームが色濃く繁栄されていても不思議じゃありません。
それにしても、大学時代、学友の手作りタロットカードを見て、世の中には変なことをするやつがいるもんだなあと思っていた本人が、同じく手作りタロットカードを作り、あろうことか印刷所で印刷してしまうことになるとは・・・
まさに「運命の輪」は巡る、ということでしょうか。
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