11 力 STRENGTH ARCHIMEDES
「力STRENGTH」のカードには、テコの原理や浮力の原理で有名なアルキメデスを配しました。物理学の黎明期(まだ哲学の一部だった頃)に、力について本格的に考察したのがアルキメデス。「力」のカードにはこの人が相応しいんじゃないでしょうか。
【タロット解説】
◆大アルカナの#11は「力(The Strength)」。ウェイト版では#8と#11が入れ替わっていて、#11は「裁き(The Justice)」となっています。入れ替わりの理由は不明。
皇帝の政治的権力、法王の精神的優位に対し、力は物理的な支配力を表わしています。図案から派生したのでしょうが、勇気や英雄的行為を示すカードにもなっています。
「力」の図案はライオンをねじ伏せる闘士を描いているのが基本形です。
カードの解釈によって、闘士が男だったり女だったりしています。
1JJ版では男の闘士、クラシック版では女闘士です。こちらの女闘士は着飾っていて上品なのですが、両手でライオンの口を捻り開けている構図。恐るべき剛力です。
ウェイト版ではクラシック版に倣って女性を配していますが、解釈はまるで違います。獰猛なライオンを優しく撫でて従わせている構図。女性の優しさはライオンの剛に勝るということでしょうか。ウェイト版の独創的な発想が生かされた1枚ですね。
男性の場合は、一般的にはギリシャ神話のヘラクレスが描かれているのだといわれています。
となると、組み伏せているライオンは「ネメアのライオン」ということになりますね。
ヘラの策略により発狂して妻と子供を殺害したヘラクレスが、その後に行った「12の難行」の最初がネメアのライオンを退治すること。
ネメアの谷に住むライオンは、エキドナとオルトロスの子で、刃物が通らない身体。ヘラクレスはしかたなく素手でライオンを取り押さえ、首を絞めて窒息しさせます。この後、ライオンの毛皮を裂いて自分の服にしたと伝えられています。
ローマ帝国のローマ神話はギリシャ神話からの派生が多く含まれますから、ヘラクレスがカードに登場しても不思議はありません。キリスト教の方がこれらの神話より後発なのですから、いくら教会の影響力が強いといっても、土着の神話を一掃することはできなかったのでしょう。
「力」と「太陽」もまた、ある意味で双子のカードといえます。
今の言葉でいえば、「力」は「force」、「太陽」は「energy」を象徴しているのでしょうね。
【正位置】力
他に、勇気、独立、ファイト、情熱、英雄的行為、積極性。
【逆位置】無力
他に、弱さ、無気力、力の乱用、体力のなさ、自信のなさ。
【科学者あれこれ】
【アルキメデスとは】
◇古代ギリシャの数学者アルキメデスはテコの原理や浮力の原理など、力に関する基本的な法則を見つけています。足場さえあればテコで地球を動かせるとか、浴槽から裸で街に飛び出したとか、真偽はともかく、実に印象深い逸話が伝えられていますね。数学上の業績ではπの理論計算が有名です。
◇アルキメデスはさまざまな兵器を考え、それは軍隊によって実用化されたので、敵国からは鬼神の如く恐れられていたそうです。古代には、知識も恐るべき力になったのですね。いや、現代でも同じかな。ぼくは子供の頃、ギリシャが戦争で太陽光を集めて反射するパラボラ鏡で敵を攻撃する映画を見たことがあります。そのときは子供心にも「こんな空想的な兵器、古代にあるはずないよ」と思ったのですが、アルキメデスは映画に近い装置を武器として開発して、本当に使っていたんですね。びっくりです。(エピソード参照)
◇アルキメデスの浮力の原理は、押しのけた水の重さと同じ大きさの浮力を受けるというものです。文章で覚えたり式で覚えても、アルキメデスがどのように考えてこういう結論に至ったのか理解していないと、浮力の原理がわかりません。
アルキメデスはテコの原理でも有名ですが、浮力も仮想的なテコを想定して考えられたものでしょう。水の中に物体を沈めるとそこにあった水は押しのけられ、上へ持ち上げられます。上に持ち上げられた水は重さがあるので、下へ戻ろうとします。下に戻るためには、物体を上に持ち上げないといけない。アルキメデスの発想は、沈めた物体と押しのけられた物体を目に見えないシーソーの両側に乗せて、水の乗っている側のシーソーが下がれば、物体の乗っている側のシーソーが上がると考えたのでしょう。
もちろん、こういう理屈は論理性に欠けますが、感覚的には非常に納得がいきます。
浮力の本当の正体が水分子の熱運動による衝突でうける力の合力である、ということがわかるまで、二千年の長きにわたって利用されてきたのもうなづけます。
【アルキメデスのエピソード】
◆「私に、足場になる別の場所と十分長い棒をくれたら地球を動かして見せよう」といったのはアルキメデス。彼の頭のよさはローマ軍から守るために使われた。テコを利用した投石器はおよそ0.5トンの石を発射した。また、いくつかの鏡で太陽光線を集めて敵の船を焼く装置も威力を発揮した。(エピソード科学史・現代教養文庫サトクリッフ著)
◆アルキメデスがローマ軍に殺されたとき、彼は海岸の砂の上に幾何学図形を書いて研究に夢中になっていたといわれている。兵士が出頭を命じたとき、解けるまで動かないのと言い張ったので剣で斬られたとか、定理を完成するまで待ってくれといったが聞き入れられず即座に殺されたとかの説がある。(エピソード科学史・現代教養文庫サトクリッフ著)
◆シチリア島がギリシャの植民地だった頃でアレクサンドリア時代に活躍した数学者・物理学者。父は天文学者。貴族の出で、経済的に恵まれていた。ローマ軍の軍艦をレンズで焼いて攻撃した。湯船の中で「浮力の原理」によって金細工師のインチキを破る方法を思いつき、裸のままで「みつけた」と叫びながら通りを走った。(エピソード科学史・現代教養文庫サトクリッフ著)
◆ギリシャの天文学者アリスタルコスは、紀元前290年頃に、太陽は太陽系の中心であると主張した。だれも相手にしなかったし、その書物も残っていない。いまに残るアルキメデスの本の中に、珍説として紹介されているのだ。(アシモフの雑学コレクション)
◆アルキメデスは入浴中、浮力の原理を発見し、わかったの意味の「ユーリカ」の叫びとともに、裸で街を走り回った。有名な話だが、古代ギリシャでは裸で運動するのが普通で、男の裸は珍しくなかった。(アシモフの雑学コレクション)
◆古代最大の科学者、数学者のアルキメデスは、紀元前三世紀、シチリア島のシラクサに住んでいた。その幾何学、流体力学の論文は、九つが現存している。ローマ帝国の執政官マルケスは、占領時に、アルキメデスに危害を加えるなと指示していた。しかし、ばかな兵士が、砂に描いた図形を踏むなと言われ、かっとなって彼を剣で殺した。(アシモフの雑学コレクション)
関連記事
〜ミオくんと科探隊 サイトマップ〜
このサイト「ミオくんとなんでも科学探究隊」のサイトマップ一覧です。
*** お知らせ ***
日本評論社のウェブサイトで連載した『さりと12のひみつ』電子本(Kindle版)
Amazonへのリンクは下のバナーで。
『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』紙本と電子本
Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。
『いきいき物理マンガで実験〜ミオくんとなんでも科学探究隊・実験編』紙本と電子本
Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。