科学者タロット解題〜16塔 寺田寅彦 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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16 塔 THE TOWER 寺田 寅彦

 

 16番目のカードは大事故・大事変を示唆する「塔」のカード。「天災は忘れた頃にやってくる」という有名な言葉の主といわれる物理学者にして文筆家、寺田寅彦がぴったりでしょう。寺田寅彦自身もまた、物理の研究で大事故級の災厄(後述)に見舞われています。物理学者となる前から夏目漱石の弟子という特殊な存在。夏目漱石との付き合いは、高校生の時代から。

 

【タロット解説】

 

◆大アルカナの#16は「塔(THE TOWER)」。端的に「塔」となっていますが、実質は「塔の崩壊」。旧約聖書のバベルの塔の古事を描いたものだと解釈されていますが、真偽のほどはわかりません。

 暗雲立ちこめる空の下、塔が雷に打たれて崩壊し、塔の窓から火の手が上がり、塔から墜落する人間が描かれている、というのが図案の基本形です。

 

 雷に打たれる者はヨーロッパでは悪を為したものというのが、欧州の言い伝え。バンパイア(吸血鬼)が雷を恐れるのも、そういった欧州の民間伝承の一つです。(もっとも、吸血鬼映画ではあまりそういうシーンを見なくなりましたが)

 

 したがって、塔から墜落する人は何らかの悪行の報いで落雷を受けたものと解釈できます。

 

 旧約聖書のバベルの塔は(ユダヤ・キリスト教的には)不敬にも、人力で神に近づこうとした者たちが罰を受けるという説話です。このとき、一つだった言葉がいくつにも別れ、人びとの意思疎通の手段が奪われたという話になっています。

 

 バベルの塔といえば、ブリューゲルの絵が有名です。タロットの図案と決定的に異なるのは、その建築規模でしょう。タロットの図案は常識内の高さですが、バベルの塔は天に近づく高さを保障するために、その土台部分がひどく太くなっています。ブリューゲルの絵は建築の基本をおさえているわけです。

 

 このカードはバベルの塔との関連づけで無理矢理キリスト教的な解釈をしていますが、うまくいっているとは思えません。むしろ、民間伝承の「雷は悪を討つ」というイメージをそのまま表した図案といえます。バベルの塔という無理のある解釈は、後の世になって生まれたものではないでしょうか。

 

 どの版のカードを見ても、落ちる(墜ちる?)人間はたいてい男女が一組になっていますが、それにまつわる話はないようです。

 

 なお、この塔や死神のカードは、逆位置でもあまり良い意味には解釈しません。

 

【正位置】災厄

 他に、大事故、破壊、失敗。

【逆位置】小さくてすむ災厄

 他に、小事故、不可能な転職・退職、詐欺に遭う。

 

【科学者あれこれ】

 

【寺田寅彦とは】

◇物理学者寺田寅彦は、試料とX線の相対位置(角度)を自由に変えられる画期的なX線回折実験を開発しましたが、世界的にはブラッグ父子に先を越され、ノーベル賞を逃しています。当時、欧州の情報は船便によって何ヶ月も遅れて日本に届けられていたので、欧州の研究と日本の研究では、最初から半年分の差がありました。

 そのため、世界初の実験を開発したと思っていた寺田寅彦は、欧州から送られてきた冊子にブラッグの実験論文が載っているのを見て、愕然としました。結局、寺田の論文はネイチャーに載りましたが、このとき寺田自身が「つまらぬ研究」と但し書きを入れています。すでにブラッグが行った実験と酷似した内容だったからです。

 寺田寅彦はこのとき、欧州と同じテーマを研究していては同じ事の繰り返しだと考え、欧州の研究者が行わない独自のテーマ研究をすべきだと、方針転換しました。それは寺田門下の中谷宇吉郎にも受け継がれ、有名な雪の研究となっています。

 

 寺田の興味は多岐にわたり、地震・気象から金平糖にまでわたる広範囲の研究を行っています。「天災は忘れた頃にやってくる」は彼の言葉とされていますが、文献には残されていません。しかし、この伝説は、寺田がそれまで誰もやらなかった地震・気象の研究の糸口を切り開いた歴史を象徴するものとして語り継がれています。

 晩年は、寺田は自分に物理学の業績がないことを気に病んでいたそうです。文筆家として成功していることもことあるごとに揶揄されていました。研究者が文豪のまねごとをしているから、東大の物理学はだめだと。

 

 寺田寅彦が高校生のとき、夏目漱石が英語教師として赴任してきています。おそらくこのときの経験が漱石の『ぼっちゃん』となったのでしょう。寺田は高校時代に漱石に俳句を学んでいますから、漱石の弟子としては一番弟子という立場でしょう。寺田と漱石は東大で再び邂逅しますが、寺田は東大の物理学教室、漱石は英語の講師で、漱石の俳句門下に寺田が顔を出すようになり再びつながります。漱石は寺田を厚遇したため、弟子たちの間でもいろいろあったようですが、漱石にとって寺田寅彦は友人にも等しい弟子だったのでしょう。

 

 ちょっとだけおまけを書くと、漱石が赴任した東大の英語講師の前任者は小泉八雲、つまりラフカディオ・ハーン。ハーンは東大の学生から圧倒的な支持を受けていたので、ハーンを追いだす形でその席についた漱石に対して、学生たちは激烈な拒否反応を起こし、漱石を排してハーンを復職させるための学生運動を起こしています。漱石にしてみればとんだとばっちりですが、そもそも漱石の英語力は、イギリス留学時代に自信喪失する程度であり、ハーンとは比べるべくもないわけで、学生にしてみれば当然の行動でしょうね。(これ以上、語るのはやめておきます。ぼくはブンガクに詳しいわけじゃありませんので)

 

「好きなもの、いちご、コーヒー、花、美人、懐手して宇宙見物」

 

 寺田寅彦の詠んだこの一句こそ、寺田の人となりを象徴しているのかなあ・・・好きですね、この句。

 

【寺田寅彦のエピソード】

 

◆寺田は、熊本の高等学校(現在の熊本大学)に入学し夏目漱石と会う。教室だけではなく漱石の家に出入りしていた。東京帝国大学へ入学後も漱石の家に出入りしていた。漱石の「三四郎」に出てくる野々宮宗八、「我輩は猫である」の寒月理学士は寺田がモデル。

 研究者としては、地球物理学者で、大地震のような確率統計的な現象の実用的な予知は不可のであると考え、むしろ災害を少なくするような防災対策に力を注ぐべきであるとした。それが「天災は忘れたころにやってくる」という言葉となった。文筆活動としては多くの随筆を書き、科学随筆の分野を確立した。(世界の科学者100人・竹内均)

 

 

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