先進科学塾@名大「遊びで探る重心の世界」2017.10.22 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 先進科学塾@名大の10月の講座「遊びで探る重心の世界」(講師:山本久守先生、10月22日)のお手伝いに行ってきました。(10月21日も開催)

 台風が近づく中での開催だったため、少し早めに切り上げるスケジュールでしたが、参加者の熱気で非常に楽しい一日となりました。ぼくはいろいろあって、少し遅れて駆けつけました。会場がいつもと違っていたので、しばし名大の構内を彷徨いましたが、無事到着。

 

 

 山本流ベルトバランス、略称ベルバラ。ボールペンの取っ手にベルトをはさみ、指に乗せると、写真のようにバランスを取ることができます。特別な装置を作らなくてもオッケー。これはだれでもできます。

 

 全体の重心が支点(人差し指のところ)の真下にくると安定するので、少しくらい揺らしても大丈夫。

 

 

 こちらは、いきなり出題。ビールの空き瓶を斜めに置いて「さあ、こんなふうに斜めに立てて安定させることができるでしょうか。手もとにあるものを使って、やってみてください。できるかな〜?」・・・参加者、どよめき・・・

 

 想像もつかないと、みんなが大騒ぎしているとき、山本さんは「あ、そうそう」といいながら、雑巾を各テーブルに配り始めます(笑)・・・みんな、一斉に机の上に置いてあった水の入ったペットボトルに手を伸ばす(笑)

 

 スタッフ一同「雑巾、最初からテーブルに置いておけば・・・」といいつつ、山本無双に大喜び。

 

 答は・・・

 

 ・・・もうおわかりでしょうが・・・

 

 

 

 これですね。

 

 空き缶に適量の水を入れ、重心がテーブルとの接触面の真上に入るようにすると安定します。

 

 それを製品化したものがこちら。

 

 

 ぼくも持っていますが、海外でよく使われているパーティーグッズのワイン立て。やはり、全体の重心が、斜めの木の板の接触面の真上にあるようにすると、安定します。

 

 といっても、重心が上にある場合は、復元力による安定はありません。重心が接触面の外にでると、ひっくり返ってしまいます。

 

 最初のベルバラのように、重心が支点の下にぶら下がっているケースだと、揺らした場合に働く力は復元力というタイプの力になり、もとの位置に戻す力として働きます。そのため、安定度が高いのです。

 

 重心が支点より上にある場合は、支点が静止している限り、静的な場合は安定するものの、揺れに対する安定は望めません。その場合は、逆に小刻みに支点を動かす動的な安定が必要になります(後述)。

 

 さて、いきなり力学パズル。

 

山本「みなさんのお手元に、水を4分の1ほど入れた500mlのペットボトルがあり、その口にヒモが結びつけてあります。マッチ棒くらいの長さの木の棒(割り箸を切ったもの)を3つ使って、テーブルの端から糸と木の棒でペットボトルをうまく吊して、安定させることができますか?」

 

 でんじろうさんがマッチ棒3本でやった力学パズルだそうです。

 

 昨日(21日)は、参加者の中で、木の棒2本で成功した人がいたそうです。

 

 それを聞いて、色めきだったのが、今日参加したサポーターの人たち(ぼくを含めて)。

 

 んじゃ、2本でやってやろうじゃん、と、参加者そっちのけで挑戦。(先進科学塾では、毎回こういう光景が見られます)

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・まず、正解は・・・

 

 ・・・

 

 しばらくやっていると、参加者がちらほらと成功し始めます・・・

 

 それが、こちら・・・

 

 

 3本の木の棒で、ペットボトルの重心が、支点の真下に来るように工夫したもの。わりと安定しています。

 

 サポーターのスギさんは、一番下の横棒をなくして、2本で成功していました。(写真はなし)斜めの棒を、糸に直接ひっかける形。原理は同じです。

 

 ぼくは、また違うやりかたで2本で成功。

 

 

 おわかりでしょうか。

 

 やはり、結果的に重心が支点の真下に来ていますが、支点が一点ではありません。

 

 糸に絡めた2本の棒がクランクのように机をはさむタイプ。力学的にはより複雑ですが、棒2本でペットボトルを支えられます。

 

 次は、動くオモチャ。

 

 

 

 2足歩行の歩くオモチャです。

 

 最初の写真は、昔ぼくがコンビニで買ったもの。

 

 このタイプの歩くオモチャの歴史は長いのですが、人気がないのか、オモチャ屋さんでは販売されていません。ぼくが子供の頃には縁日で売られていましたし、コンビニのオモチャは、ガンダムグッズとして特別に売られていたものです。

 ぼくが子供の頃、最初に手に入れたのは、恐竜が4足歩行をするオモチャ。重りのついた糸が首を引っぱる形になっていて、斜面を使わなくてもいいようになっていました。

 

 事前の打ち合わせ会で、このタイプのオモチャを紹介するつもりだという事を知り、手持ちのオモチャを貸し出しました。左右に揺れながら、ひょこひょこと2足歩行するのがかわいいのですが、部品が多くて、衝撃を与えるとすぐにばらばらになってしまうのが難点。

 

 このオモチャの原理を集約したのが、下の写真。

 左右に振動することで、浮いた方の脚が振り子運動をして前に進む仕組み。左右の振動周期と脚の振り子周期をうまく合わせる必要がありますが、下の写真では横棒の長さを調節して2つの周期の同期をしています。

 

 こちらの装置は、徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部総合技術センターのウェブサイトにあったものを参考にして自作したそうです。

 

 さて、ひょこひょこ歩く、別のオモチャが登場。

 

 

 こちらは左右に揺れるのではなく、前後に揺れながら、坂道を下っていきます。

 やはりウェブサイト「童夢のおもいつ記」にあったものを参考にして自作したそうです。

 

 重心つながりということで、ぼくとスギさんが科学館の「青少年のための科学の祭典」でやってきた「板のせり出しコンテスト」を、今回の参加者のみなさんにもやってもらうことになり、助っ人として、ぼくとスギさんでコンテストのMCをしました。

 

 スチロール板で作った板は、科学館の板が長さ20cmに対して、今回の先進科学塾で用意された板が22.5cm。そこで、科学館の記録を1.125倍して、記録を比べることにしました。

 

 科学館の記録が54cmなので、換算すると62cm。さて・・・どうなるでしょうか。

 

 さすがに科学塾の参加者はセンスがあり、粘り強さもあって、次々に自己記録を更新。最終的には・・・

 

 

 60.5cmを出した3班が優勝しました。科学館記録にもう一歩まで迫る好記録でした。

 

 

 こんなのとか・・・

 

 

 こんなのとか・・・

 

 ちなみに、この日の最高記録、60.5cmを打ち立てたのは2枚目の写真です。

 

 優勝者の「橋」は強度が高く、途中で強い衝撃にあっても、ほとんど型崩れしませんでした。

 

 このコンテスト、制限時間20分が30分になり、それでも終わらないので35分に・・・と、どんどん延長。参加者の「もうちょっと、もうちょっと」の声に、山本さんも笑顔で困っていました。

 

 さて、いよいよ回転・・・

 

 

 円筒形の中にゴムネジを置き、そこに重りを付けるというもの。動力が内部にあり、タイヤが回って前進するという装置。その昔、『W3(ワンダースリー)』というマンガに登場した「ビッグローリー」という乗り物と同じ仕組みです。(動力源は違いますが)

 

 重りが斜めに傾き、その重りに働く重力の支点(床との接点)周りのモーメントが、本体を回転させているというもの。

 

 もちろん、この効果も大きいのですが、実際、車のタイヤが回転して地面を蹴り、前に進む場合は、この理屈では説明できません。

 

 ミクロなレベルでタイヤと床の接触する部分が点でなく面になり、垂直抗力と摩擦力を受ける作用点がタイヤの重心より横にずれます。そこが接地点になるために、タイヤにかかる重力がタイヤを前進させる力のモーメントになります。

 

 ですから、おもりの位置のずれがタイヤを前進させる力のモーメントになるという理論は、タイヤの回転による前進について、すべての場合を説明できません。より基本的なのは、接地点のずれによる効果でしょう。

 

 このオモチャの場合は、接地点のずれによるモーメントに、重りの位置のずれによるモーメントが加わり、より効率的にタイヤを回転させていると考えるのがよいようです。

 

 

 ちょっとぼけていますが、これは本体が回転しているため。

 

 複雑な形の重心にダルマピンが刺してあり、コマになっています。絵は段ボール板に貼りつけてあるので、重心を探すのは難しくありません。糸と重りを使えば、すぐに重心の位置がわかります。(そのやり方は、あまりにも有名で、通常の授業で習う内容ですので、ここでは割愛しておきます)

 

 コマといえば、有名なオモチャは逆立ちゴマ。回すと逆立ちするします。

 

 

 こんなふうに、針金をちょっと細工して、重心がずれるようにします。

 

 で、これをコインのように指で弾いて回すと・・・

 

 

 重心が上に上っていき、一番高いところで安定します。支点が重心より下にある場合の振動や円運動では、重心は高いほど安定するんですね。

 

 箒のように重心が真ん中にない棒を手の上に立てる場合、手をこまめに動かすことで棒を安定できる(支点が常に動く動安定)のですが、その場合、重心が上にある方が、より安定します。静的な安定では、重心は低い方がいいのですが、動的な場合は逆になります。物理に詳しくない人はその辺でよく間違えます。

 

 スキーなどのスポーツでは、足下は常に動いていますので、静安定でなく動安定。したがって、重心を低くすると安定しにくくなります。うまいスキーヤーほど、身体を立てて、重心を上に持っていくのは、そのためですね。

 

 ところで、この動安定の原理を説明するのは結構難しいので、今回の先進科学塾でも説明は抜き。実際に実験してもらうことで体験するというプログラムになっています。

 

 最後が、マクスウェルのコマ。

 

 

 

 こちらが、マクスウェルが最初に作ったものの再現品だそうです。漏斗の口まわりに、重い金属線が接着されています。鉛筆の軸の先(コマの支点)は、コマの重心に一致しています。

 

 それをプリンの容器と針金、つまようじで作ったのが『いきいき物理わくわく実験3』「手をなぞるかわいいコマ」に紹介されています。こちらももちろん、山本さんの記事。このコマの軸に手の指を触れさせると、コマがじゃれつく猫のように指をなぞります。その仕組みと、支点を重心に一致させるコツについては、『いきいき物理わくわく実験3』の記事に簡単にヒントが書かれていますので、そちらをご覧ください。

 

 今回はそれをさらに簡略化して、ガチャガチャの卵容器に穴を開けて、つまようじを突き刺すだけというやり方。やはり、つまようじの先が全体の重心に一致するように調整します。

 

 

 山本さんはさらに、最近流行のハンドスピナーを改造して、マクスウェルのコマを作りました。これは回転の持続がすばらしい。本物のスピナーは高価なので、改造して目的外使用するには、100円ショップに売られている模造品の方が便利。回転性能は少し落ちますが、コマを作ったりするのには十分です。

 

 

 スピナーのつまみに相当するキャップ部分は簡単に外せます。外したところに鉛筆の金属キャップを突っ込んではみ出た部分を切り取り、反対側には外したキャップを逆向きにして接着剤で貼りつけ、竹串を突き刺して回転軸にしたとのこと。

 

 本日のメインメニューはこれで終わったのですが、最後にいろいろコマで遊ぶ時間がありました。参加者はこれを一番楽しんでいたかな。ちょっとだけ紹介しておきます。

 

 

 回り続けるコマ。コマはNSを貼り合わせた磁石でできていて、台の内部に、電磁誘導のためのコイルと、そのコイルの起電力で作動する電磁石が組み込まれています。詳しい原理は省きますが、電磁石でコマに駆動力を与え続ける仕組みになっています。

 

 

 こちらは電気力で動き続ける電導モーター。

 

 

 CD板の真ん中の穴にビー玉を接着したコマ。いろいろな絵を乗せると、目の錯覚の装置になります。今日の一番人気はこれ。その線を書いたコマを回すと、人間の目にはどう見えるか?

 

 ・・・「格子!」「灰色!」

 

 ・・・さて、どうでしょう・・・

 

 ・・・

 

 

 こちらはぼくのスマホで撮った写真です。同心円の一部が見えますね。

 

 スマホのシャッタースピードの関係で一部しか見えませんが、人間の目には、回転軸の周りを一周する同心円の模様が見えます。

 

 なぜそんなものが見えるかという理由は、山本さんが「これはぼくの考えだけど・・・」と、山本説を披露してくれました。それを聞いて、参加者もサポーターも、一同納得。(答は隠しておきます。考えてみて下さい)

 

 

 これらも目の錯覚の例。

 

 どちらも、低速回転で錯覚が見えます。

 

 上の写真は、回転させると色の輪が見えます。見えるタイミングは人それぞれ。人間の色覚細胞の反応速度の差が起こしている現象でしょう。

 

 下の写真は、一見何かよくわかりませんが、回すと一目瞭然。

 

 いくつもの楕円と点ですが、回転させると、楕円が立体的な球に見え、点がその球の中にいるように見えます。

 

 ・・・

 

 以上で報告はおしまいですが、ごく私的には、板のせり出しの話に関連して、休憩時間に藤田先生からスコットランドの「forth bridge」の話を聞いたのが、印象深いですね。その昔、日本人の建築家が設計したもので、スコットランドの紙幣の絵にもなっています。

 

※動的な安定に関する表現を一部改め、写真も追加ました。

 

 

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