先進科学塾@名大2019.8.3「熱みえる化みえないか?」報告 その3 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

 

 イラストはマクスウェル。このブログサイトでも何度も登場したマクスウェルさんです。

 

 山本久守さんの先進科学塾講座「熱みえる化みえないか?」は、内容がもりだくさんで、とても全部は追い切れませんが、せっかくなので、なるべくフォローしておこうと思っています。

 

 科学史に強い久守さん、ランフォード伯(ベンジャミン・トンプソン)による「熱素説の否定」、ジュールによるランフォード伯の理論の実験的検証、ワットによる蒸気機関の応用、カルノーによる熱機関理論、クラウジウス、マクスウェルによる熱力学の法則化・・・と、実験を織り交ぜながら、熱弁が続きます。

 

 

 これは写真を見ただけではわかりにくいのですが、摩擦熱で水を沸騰させようという実験装置。ランフォード伯の「熱素説の否定」につながった実験をそのままやってみようという実験です。

 

 ランフォード伯は、大砲の砲身をドリルで製作する過程で、作業員たちが砲身に水をぶっかけているのを見て、摩擦により熱が発生するということに気がつきました。

 

 今では当たり前のように見える「気づき」ですが、当時の常識では、熱の正体は熱素と呼ばれるなぞの粒子で、熱いものほどその内部に熱素が含まれる、という「熱素説」が有力でした。

 

 ランフォード伯は、こする仕事が熱になるのではないかと考え、「熱素」という特別な粒子がなくても熱と温度の現象は説明できるとしたのです。

 

 それを実験的に証明したのが、ジュール。力学的エネルギーや電気エネルギーと、熱エネルギーが互いに変換しあえる同等のものであることを、精密な実験により証明したのです。

 

 別の記事で触れたことがありますが、ジュールはシロウト学者です。醸造会社の跡取り息子で、科学に興味を持ち、実験をしてはその結果を学会に発表するというくり返し。といっても、ちゃんとした研究者ではないので、学会の発表時間もほんのちょっと。

 

 さらに実用的な蒸気機関の改良をしたのがワット。久守さんの話には出てきませんでしたが、ワット以前の蒸気機関は、爆発事故で人が死んだりと、たいへんな状況でした。そこに登場したのが、安全な蒸気機関を発明したジェームズ・ワットです。

 

 

 ワットの蒸気機関よりずいぶんの年月をさかのぼると、ヘロンのタービンがあります。熱エネルギーを力学エネルギーに変える、もっとも古い熱機関ですね。

 

 こちらは、久守さんの作ってきた装置が見つからないということで、きゅうきょ、飯田さんの用意してきた装置が使われました。

 

 

 拡大写真を見ればわかりますが、釘などで穴を開けた缶に、シール式のアルミシートをガイドとして、空気の逃げ道を作るように少しだけ形作りをして、貼りつけます。

 

 これにより、吹き出る蒸気が缶を一方向に回す原動力になります。

 

 ちなみに、久守さんの用意したヘロン・タービンは、このガイドがなかったため、効率よく回りませんでした。飯田さんの用意したヘロン・タービンは勢いよく回りましたから、久守さんの装置が見あたらなくて、結果オーライというか、けがの功名ですね。

 

 このへんの、失敗してもなんとかなってしまうところが、余人にはまねできないところです。

 

 すばらしい。ぼくには逆立ちしてもまねできません。

 

 

 カルノーが有名な「カルノーサイクル」で切り開いた熱機関研究は、さらにマクスウェルやボルツマンなどに引き継がれていきます。

 

 久守さんが熱機関の例として見せたのが、スターリングエンジン。温度差だけで空気が膨張/収縮をくり返し、仕事をする熱機関です。

 

 これはさすがに自作できませんが、似た装置なら、自分で作ることができます。

 

 下の写真がそちら。

 

 

 炎で熱せられる試験管の中を、ガラス球(ざっくりいえば、ビー玉ですが、市販されている普通のビー玉は径が大きく、普通の試験管には入りません)が動くことで、試験管が熱機関と同様に動き続けます。

 

 これは、ぼくたちのオリジナル実験ではなく、物理教育の国際交流のさい、中国だったか韓国だったかの先生から教えていただいたものです。(ぼくは、その会には出ていないので、伝聞の話で申し訳ありません)

 

 参加者のみなさんがつくった実験装置がちゃんと動くように、スタッフは冷や汗ものでお手伝い。

 

 固形燃料は液体燃料より火力が弱く、なかなかうまく動きません。

 

 そこで、固形燃料を2つ使ったり、試験管を支える軸のセッティングをいろいろ変えたりして、いろいろやっているうちに、うまく動くようになる班が増えてきました。

 

 一番、役にたったのは、写真にあるように、試験管とそれを支える軸(磁石付きのホルダー)

の位置関係でしょうか。

 

 試験管をつり下げるのではなく、試験管がそこに乗っているようにセッティングすると、試験管が動きやすくなりました。

 

 こちらは、もっと単純ですが、コーヒーメーカーのサイホンと似た原理の装置。

 

 

 手で持つと、中の液体が沸騰し、下の球を高い気圧で上の球に押し上げます。広義の熱機関とみなすこともできます。

 

 ところで、今回の講義内容からちょっと脱線します。

 

 カルノーサイクルは、熱力学の基礎的理論として有名ですが、そもそもカルノーの考え方は根本的に間違っているところがあります。

 

 今回はテーマとは離れますからカンタンにとどめておきますが、カルノーの間違いとは、高熱源から低熱源への熱の移動を、リンゴの落下のように考えていたことです。

 

 滝で水が落下するときに水車を回すように、熱が落下することで、仕事ができると考えたんですね。実際、水の落下では、水の位置エネルギーの減少分が水車の運動エネルギーになるので、力学エネルギー保存則に抵触しません。でも、カルノーの考えた「熱の落下が仕事を生む」という発想だと、落下の前後で熱の量は変わらないので、無から有が生じることになり、矛盾を生じます。

 

 脱線が過ぎるようですので、この辺にしておきます。

 

 さて、こちらは・・・

 

 

 いよいよ、熱力学第二法則。

 

 つまり、エントロピー増大法則であります。

 

 日本を訪れたアインシュタインがおもちゃ「水飲み鳥(商品名は平和鳥)」を見て、しくみを見抜けなかったという「伝説」が残っています。

 

 この装置、エネルギー保存則には矛盾しませんが、エントロピー増大法則には矛盾するのではないか・・・

 

 ぼくたちノラネコ(Stray Cats)は、海外の物理教育関係者と交流があるのですが、あるとき、飯田さんがドイツの人から「あなたは水飲み鳥は日本独自のものだというけど、じつはドイツにも古くからこのおもちゃがあるんだ」と指摘されたという話をしていました。

 

 それで、ぼくもちょっと気になって調べてみたんですが(例によってウソペディアはまったく役にたちませんでした)・・・どうも、昭和27年前後に水飲み鳥の実物が売られるようになったようです。それを昭和45年に「平和鳥」という名称で商標登録した人がいて、その人が水飲み鳥の発明者として知られるようになったようです。

 

 日本で売られるようになるより6年ほど前に、アメリカの熱力学研究者が、コップのへりに留まる形の「水飲み鳥」のおもちゃを開発したのが始まりだ・・・というのが、どうやらもっとも確からしい「噂話」ということになります。

 

 エントロピーという概念についても説明がありましたが・・・

 

 参加された方々は、首をひねっていました。

 

 初めて聞いて、かんたんに理解できる概念ではないですね。

 

 よろしければ、ボクの本『いきいき物理漫画で冒険』の「でたらめの国」をご覧ください。

 

 なお、その原型になっているマンガは、このブログサイトに載っていますので、とりあえずはこちらを見ていただければと思います。

 

 関連記事にその記事「でたらめの国のミオくん」のリンク先を貼っておきました。「解説編」がちょっと難しかったので、『いきいき物理マンガで冒険』に収録してあるマンガは、これをもう少しわかりやすく再構成してあります。

 

 

 こちらはオマケ的に紹介された、ペットボトル入りの松ぼっくり。どうやって中に入れたのか、という出題があり・・・

 

 さまざまな答があったあと、種明かし。

 

 

 

 水に浸けます・・・

 

 しばらく待つと・・・松茸のかさが開いて、スリムになります。

 

 ペットボトルの口に入る大きさの松ぼっくりをボトルの中に入れます。

 

 でも、この大きさの松ぼっくりだと、ペットボトルの口を通りませんでした(笑)・・・

 

 

 

 こちらは、写真ではちょっとわかりにくいですが、黒い紙で作った山形から突き出た針金の軸に、折り紙のプロペラが乗せてあります。

 

 電灯の光を当てると、黒い紙があたたまって空気の対流が生じ、それで折り紙プロペラが回るというもの。これも一種の熱機関といえるでしょう。

 

 これだけだとどう作るのかわかりにくいと思いますので、また別の記事で紹介したいと思います。

 

 

 こちらは熱機関ではありませんが、圧縮された空気を利用した空気エンジン。『いきいき物理わくわく実験』に載っている飯田さん作の装置です。

 

 8月末には、次の先進科学塾が予定されています。申し込みは、先進科学塾@名大のホームページからどうぞ。

 

 

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