『さりと12のひみつ』第6話「ブラックホールのひみつ」の裏話 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 8月5日よりweb日本評論で公開されています。『さりと12のひみつ』第6話「ブラックホールのひみつ」、もう読んでいただけたでしょうか。

 

 今回はわりとホットな話題を取り上げました。

 

 2019年4月10日午後10時すぎ(日本時間です)に、東京、ワシントン、ブリュッセルなど6カ所でブラックホールの撮影が成功し、ウェブで紹介されました。ネット世界の動きについていけてないぼくは、翌日の新聞朝刊で知りましたが(笑)・・・

 

 この報道を受けて、ブラックホールをテーマにした話を『さりと12のひみつ』で扱おうと思ったのですが、新聞やウェブの情報だけではブラックホール撮影の裏側がわからないと考え、日経サイエンスで記事が出るのを待ちました。

 

 それまでの間は、少し古い本になりますが、本格的な入門書『ブラックホール 一般相対論と星の終末』佐藤文隆/R・ルフィーニ著(自然選書・中央公論社)を再読したり、こちらは最新の本ですが、図書館で借りた『ブラックホールを見つけた男』アーサー・I・ミラー著坂本芳久訳(草思社)を読んだりしていました。

 

 後者の本は、ブラックホールを最初に理論的に予言したスブラマニアン・チャンドラセカールにまつわるドキュメンタリー。1931年、19歳のとき、チャンドラは天体物理学会誌に白色矮星の上限質量の論文を発表。くだいていうと、質量が大きな白色矮星は不安定で、重力によりどこまでも潰れて点になってしまう、という内容の論文です。イギリスのケンブリッジ大学に留学する船旅の途中で思いついたという話です。

 

 ところが、イギリスでは天体物理学会の王、アーサー・エディントンからチャンドラ論文は否定されました。このとき、どういうわけかエディントンのチャンドラへの態度が非常に感情的で、チャンドラはひどく傷つき、自信を喪失したといいます。この本は、そのへんの経緯がかなり詳しく書かれていますので、興味のある方はぜひお読み下さい。

 

 エディントンは皆既日食の観測隊を組織し、アインシュタインの一般相対性理論を実証した人として有名です。そのエピソードは、別記事「運と不運とアインシュタイン」をご覧ください。

 

 1932年には、チャンドラの論文とはまったく独立に、ソ連のレフ・ランダウが物理学誌にやはり白色矮星の上限質量の論文を発表します。ランダウは天文物理誌は読んでいなかったので、チャンドラの論文のことはまったく知らなかったようです。

 

 チャンドラセカール、エディントン、ランダウと、この本には物理をやっている人なら、だれでも知っている名前がどんどん登場してきて、わくわくします。やはりブラックホールという話題が現代物理学の要の現象だからでしょうか。

 

 ブラックホールの研究が新しい段階に入るのは、1963年のこと。

 

 なんと、あのイタズラ大好き物理学者、ファインマンが登場します。

 

 1963年のある日、カルフォルニア工科大学で超巨大星の研究をしていたウィリアム・ファウラーが、キャンパスでリチャード・ファインマンとばったり出会った時の話です。

 

 ファインマンはいきなり「きみとフレッドがやってる超巨大天体は安定しないよね。一般相対論のせいで安定しないはずだから」(『ブラックホールを見つけた男』より引用)と話しかけたというのです。これ、もう、そのままブラックホールの重力崩壊の理論ですよ。さすが、ファインマンさん。

 

 ファウラーたちは超巨大星を研究するとき、古いニュートンの重力理論を使っていたので、ファインマンの指摘にびっくりして、一般相対論を用いて計算し直したところ、ファインマンのいうとおり、星が崩壊してしまうことがわかったんだとか。

 

 ちなみに、フレッドというのは、フレッド・ホイルのことです。SF小説が好きな人なら、SF作家としてのフレッド・ホイルの方をご存じでしょうね。専門の科学者でSF小説も書く、という人はわりといます。

 

 ちょっと、脇道にそれてしまいましたが・・・

 

 ブラックホールの撮影成功の特集記事は、6月発行の7月号でじっくり読むことができました。

 

 撮影方法は新聞を読んだとき「あれか」と思った方法そのものでした。

 

 電波望遠鏡で星を観測するとき、遠く離れた複数の電波望遠鏡で同じ天体を観測し、そのデーターを合成することで、それらの電波望遠鏡を包み込むような巨大な仮想の電波望遠鏡と同じ解像度の撮影画像が得られる、という技術です。これは、電波望遠鏡が作られた当時から使われていた技術だと思います。(ぼくも学生の頃、電波望遠鏡を使っている専門家から、この話を直接聞いたことがあります)

 

 その写真は著作権がありますから、勝手にここに載せませんが、その写真を「見て描いた絵」ならいいでしょうね。こちらです。

 

 

 写真と比べると「手描きの絵の限界だな」と思ってしまうのですが、なんと日本評論の編集の方からは「本物の写真を加工したものかどうかわからないので」確認のメールがきました。安心して下さい。お絵かきソフトの機能をいろいろ使って、まったくのゼロから描いたイラストです。フォトショップなどでもとの写真画像を取り込んで加工するのがお好きな方もいるんでしょうが、それもまた著作権にかかわるのではないでしょうか。ぼくはそういうのは好きでないので、いつもゼロから描いています。

 

 ところで、ブラックホールを『さり』で扱うぞと、FBでつぶやいたら、「あの写真画像で赤い色がついているのは、画像を作った人の趣味なので、そのことも書いて下さい」とのコメントを知人からもらいました。

 

 そういえば、そうですね。発表された写真のインパクトが強いので、写真のまま、ブラックホールの周辺が赤く光っているんだと、勘違いされた方も多いんじゃないでしょうか。

 

 もちろん、色はともかく、ブラックホールのまわりが光って見えるのは一般相対性理論の結果なので、眼にもその光が見えるはずですが、ウェブや新聞に掲載された写真は、あくまでも電波望遠鏡でとらえた画像。

 

 人間の眼には見えない波長の光、つまり電波の映像です。当然、色はついていません。

 

 画像を作った人は、ブラックホールの強い重力で赤方偏移を起こしている光のイメージを伝えるために、わざと赤みのある光で彩色したのだと思われます。

 

 赤方偏移を起こした光が本当に赤く見えるか、については、少し詳しい検討が必要ですが、今回はテーマから外れるので、やめておきます。また、べつの機会に。

 

 最初のイラストの中央に描いたブラックホールの絵は、日経サイエンスの記事によりました。映画「インターステラ—」で使用された画像が紹介されていて、理論的にかなり近いものと説明されていました。

 

 真ん中の土星の輪みたいなのは、ブラックホールが他の星(たいていは連星の相手星)から取り込んだプラズマ状の物質で、降着円盤と呼ばれます。ブラックホールを縁取りするような光は光子球と呼ばれ、強い重力のため、人工衛星のようにブラックホールのまわりを周回する光ですが、そこから軌道を外れて漏れ出てくる光が、ブラックホールを縁取る光になるということ。

 

 今回のマンガから、その部分をちょっとだけ取り出すと、こんな感じですね。

 

 

 喋っているのはアインシュタインさん。チャンドラセカールにしようかとも考えましたが、やはり一般相対性理論のアインシュタインの方がふさわしいだろうなと。

 

 

 こちらは、ブラックホールの一般向け解説書によく書かれている内容です。強い重力で物体が引き裂かれ、コナゴナになってしまう、という話。このイラストでは、連星の相手星がこの効果で引き裂かれてヒモみたいになっている図を書きましたが、こういう典型的な場所がすでに発見されているそうです。『ブラックホールを見つけた男』によれば、乙女座にある銀河RXJ1242-11でこの現象が起きているとのこと。

 

 

 こちらはその解説です。わりときちんと描いておきました。

 

 ちなみに、ブラックホールに近づくと時間がゆっくり進むようになり、最後には止まってしまう、との話題も、一般相対性理論の結果です。

 

 ブラックホールをテーマにマンガを描くと決めたとき、まっさきに娘(今は小4です)にブラックホールについて知っていることを聞いてみました。

 

 「ちかづくと、ばらばらになっちゃう」こちらは、娘の好きなYouTubeのどこかの動画で得た知識のようです。

 

 「時間が止まる」こちらは、豆柴のCMで見たと。そういえば、ぼくもこのCM、見たことがあります。

 

 今回のマンガはブラックホールでの時間の進みをテーマの中心において物語構成をしましたので、ぜひご覧ください。

 

 なお、一般相対性理論による時間のずれというのは、決して理論上のことだけではなく、じつはもう実用化されています。

 

 一般相対性理論を使って実用化されているあるものとは・・・

 

 何か、ご存じですか?

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 GPSを使ったナビです。

 

 GPSは複数の人工衛星が送ってくれている、人工衛星に搭載した精密な時計の時刻情報を地上で受け止め、その時刻×光速で複数の人工衛星までの距離を計算し、それらの距離から地球上のどこに自分がいるかを割り出しています。

 

 でも、人工衛星の時計は、地球の重力による一般相対性理論の効果で、地上の時計より少し早く進んでいます。さらに、人工衛星は高速で飛んでいますので、特殊相対性理論の効果で、地上の時計より少しおくれています。この2つの効果をそれぞれ計算し、地上で受け取る時刻の補正をしないと、ナビで自分の正しい位置を割り出せません。現在のナビは非常に精度が高くなっていますが、それは、この2つの相対性理論による時間の補正をGPS装置が行っているからなんですね。

 

 さいごに、もう一つ裏話を・・・

 

 

 

 こちらのロケット(?)は普通のロケットではなく、ワープ航法のような現在の科学技術を超えた機能により、光でも何百年とかかる距離をあっという間に飛んでいますから、ロケットと地上の間で、すでにとんでもなく時間のずれが起きています。

 

 でも、ミオくんは時計の力で時空間を自由に行き来できるので、そのへんのずれは最終的に解消してくれる・・・という便利な設定です。こちらの設定についても、今回のマンガでこそっと触れておきました。ロケットのことはあまりに本題から外れる設定なので、さすがに書いてありませんが・・・

 

 では、ぜひ、ご覧ください。こちらのリンク先でどうぞ。

 

 

 ウェブ連載の姉妹編マンガであるぼくの本『いきいき物理マンガで冒険』『いきいき物理マンガで実験』も、まだという方はぜひ、ご覧ください。後のリンクから、アマゾンの書籍コーナーに行けるようにしてありますので、ご利用下されば幸いです。

 

 

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