『さりと12のひみつ』第2話「鏡の国のひみつ」の話の続きです。
前回同様、本編のマンガをご覧になってからお読みください。
上の一コマは鏡の国を案内されるさりちゃん。2人いますが、片方は鏡の国のさりちゃんです。
マンガの5pめの一コマです。
この5pまでは、鏡の国で物の立体構造が裏返しになることを説明しています。端的に言うなら、右手が左手に、右ねじが左ねじに、という変換です。数学的には面対称の変換になります。
でも、物理学で鏡世界を見るときには、物理法則がどう写るかの方が重要です。
電磁気の法則は電流が磁場から受ける力はフレミングの左手の法則になるとか、電流の周りにできる磁場は右ねじの法則になるとかといったぐあいに、右、左で表される立体的な位置関係がからむものばかり。
そこで、前回の「質問」に行き当たります。
右ねじの法則が鏡の国では左ねじの法則になるなら、物理法則が変わっていることになり、鏡に写したとき、物理法則は保存されていないのではないか。
でも、おちついて電磁気現象を調べてみると、磁力線がくせものであることがわかります。
磁力線はもちろん目には見えませんから、小さな磁針で調べるしかありません。磁針のN極が示す方に磁力線が向いていると考えます。
しかし、鏡の国で、磁石のNSがこちらの世界の磁石のNSと同じかどうかという保証はありません。物理学ではそういう基本的なことから疑ってかからないと、厳密に理論を打ち立てることができません。
磁石の原子レベルの内部構造を鏡に写してもよいのですが、よりカンタンには磁石と同等の働きをするもの、つまり電磁石を用いるとよいのです。電磁石なら、電流の向きによってNSがわかります。
では、没になったコンテ7pをご覧ください。
2コマ目で衝撃的なシーンを描きましたが、じっさいにこういう実験をすることはできません。鏡の国で磁石のNSがじつは逆転していることを印象強く示すために挿入したコマです。
3コマめと4コマめ、5コマめが、物理学的な立場。
3コマめは磁石と電磁石の対比を描いてあります。右ねじの回る向きに電流が流れるとき、電磁石(コイル)の作る磁力線は右ねじの進む向き(図では上向き)になり、電磁石のN極も右ねじの進む向き(図の上側)になります。
4コマめ。この電磁石を鏡に写すと・・・
電磁石のコイルの巻き方が逆巻きになります(右ねじが左ねじになるように)から、電流の流れる向きに右ねじを回すと、右ねじの進む向きは下向きになります。したがって、電磁石のN極は図の下側になるのですね。
電磁石と磁石は基本的に同じ物ですから、磁石もまた鏡に写すとNSが逆転するはずです。
すると、6pにあったフレミングの法則の実験を鏡に写した図に間違いがあったことになります。
正しい図は5コマめ。磁石のNSが逆になっていますから、磁力線の向きももとの世界とは逆向きです。この図にもとの世界と同じフレミングの左手の法則(右手の法則ではありません!)を当てはめてみると、ちゃんと電流の受ける向きが説明できていることがわかります。
したがって、鏡の国の電磁気の法則は、もともとの世界とまったく同じルールになっているのです。
書き直した6P、7Pでは、フレミングの法則が使えないので、東西南北をどう物理的に決めるかという題材に変えました。こちらは、小学生でも無理なく読める題材です。電磁石はどうしても必要なので使いましたが、電磁石そのものは小学生理科でも習いますので、オッケーがでました。
東西南北をあつかったおかげで、地球規模の話も扱えましたので、結果的におもしろくなったと思います。ただ、東西南北の例で物理現象を代表させるのは少々説得力に欠けますが・・・今まで書いてきたような事情の末の工夫ですので、ご容赦ください。
じつは、鏡の国の物理学の話は、磁石を使わないで考えたほうが、もっとすっきりします。
このようにすると、前の記事に書いた「じつは右手でも左手でもたいした問題ではない」ということの意味がわかるのですが・・・
それは、また次回にしたいと思います。
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