さりと12のひみつ第1話「レッドムーンのひみつ」の裏話 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 『さりと12のひみつ』第1話「レッドムーンのひみつ」、日本評論社のウェブサイトでご覧になっていただけたでしょうか。

 

 まだの方は、こちらのバナーをクリックしていただくと、ご覧になることができます。

 

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 科学だいすき少女の小学3年生さりが、ミオくんや科探隊のメンバーと、物理現象の謎にいどむマンガです。

 

 第1話は、『マンガで実験』『マンガで冒険』とのつながりを考え、科探隊のメンバー全員が登場しますが、第2話以降では、さりとミオくんが中心になり、科探隊のメンバーは交替でカメオ出演することになります。

 

 なお、さりのキャラクターデザインは、ぼくのむすめが作ってくれました。テーマも娘と話した話がもとになっています。こちらのサイトで最初に書いた「レッドムーンのひみつ」の記事は、こんなふうにしてできました。そのときは、まさかこの話をマンガ化して、ウェブ連載をすることになるとは思ってもみませんでしたが・・・

 

 小学生向けということもあり、マンガ『さりと12のひみつ』の中での解説は最小限にしてあります。小学生向けにもっと、説明を減らす描き方もあるのですが、きちんとした考え方を紹介することがぼくのマンガの特徴かなと考え、少し高度な話もおりこんでいます。

 

 小3のむすめに読んでもらって、作品の確認をしていますので、小3以上なら読めると思います。フリガナも『マンガで冒険』と同様、小3以上で習う漢字にルビをふっています。

 

 ウェブ連載中の『さりと12のひみつ』や、出版された『いきいき物理マンガで実験』『いきいき物理マンガで冒険』の各話は、ほとんどが、このブログサイト「ミオくんと科探隊」でさまざまなかたちで書いた記事をもとにしています。

 

 でも、どの記事がどの話と関連しているのかわかりづらいので、これらの話に関して、マンガで説明しきれなかったところを補う記事を書くことにしました。記事の最後には、「ミオくんと科探隊」の関連する記事へのリンクをまとめておきます。

 

 マンガはお子様にも読んでいただけるように書いていますが、こちらの記事は大人の方向けです。お子様にさらなる質問を受けられたとき、これらの記事を参考にして、「本当はこうなんだぞ」と、お父さんお母さんがお子様にお話しできるきっかけになればと思っています。

 

 問題の背景は深いものが多いので、記事の内容は専門的になり、場合によっては数式を用いることもあります。難しいと感じられた場合は、数式は読みとばしていただいても、話の流れはわかりますので、ご容赦ください。

 

***   ***   ***

 

 さて、前置きが長くなりましたが、『さりと12のひみつ』第1話「レッドムーンのひみつ」のお話です。

 

 レッドムーンは基本的に、夕日と同じ仕組みで起きている現象です。

 

 光の散乱で青い光が抜け、赤い光を中心とした光が残り、夕日が赤くなることについては、以前の『空の青、海の青』前後編で、詳細な解説をしています。今回の「レッドムーンのひみつ」は、それを月の問題として、描き直したものです。

 

 レッドムーンのしくみをかんたんにいえば、マンガに書いたとおり、空気中のチリで、地平近くの月からやってくる光が大気中長い距離を進むうちに散乱で青い光が抜け、残りの赤っぽくなった光が目に届くため、月が赤く見えるのです。

 

 散乱は青や紫の光などの波長の短い光のほうが起こりやすいので、まず青い光が散乱されます。(紫も当然散乱されますが、そもそも自然光の中に含まれている紫の光の量は青に比べて少ないので、青の方が影響力がつよくなります。厳密に言えば、人間が紫に感じる色の波長範囲が少ないわけですが)

 

 散乱されたことで青い光が抜けていきますので、地平線近くの太陽からの光が夕方や朝方に目に届くころには、太陽からの光は赤っぽくなります。

 

 

 この散乱現象は、排気ガスや、中国からの黄砂など、空気中のチリやエアロゾルが多いときに特にはっきり見られます。

 

 だから、月が赤く見えるときは、空気が汚れているときでもあります。夕焼けが朝焼けより赤いのも、空気中の汚れの差ですね。

 

 ところで、ネット上には散乱現象について、間違った情報が氾濫しています。学生がよく頼りにしている某ネット辞書(ぼくはウソ○ディアと呼んでいます)にも一時期、「光の散乱はチリによるというのは間違いで、もっと小さな空気の分子によるものだ」という間違った記述がありました。「間違っている」と書かれた間違った文章です。たぶん、光の波長より小さいものにより散乱が起きるということを、文字通りに解釈した人が書いた記述でしょう。(実際には、光が波長程度のものに当たることで起きるのが散乱現象です)

 

 実際には大気中のチリでの散乱が大きいし、空気の分子の散乱も、空気分子の熱運動による密度のゆらぎによって散乱が生じていて、空気分子自体で散乱が起きているわけではありません。割と知られていないことですが、本質的なことですので、おさえておきたいですね。ぼくがこのことを知ったのは『物理学総論』のおかげです。(*1)

 

 波動理論の基本的な理解があれば、ゆらぎのない結晶構造をしている場合、光より小さな原子では散乱現象が起きないことがわかります。マンガですが、少し専門的に説明したものが当ブログの『空の青、海の青』後編にあります。マンガ&解説とも参考にしていただければ幸いです。前編とあわせてお読みください。(*2)

 

 同様に、ゆらぎがないと起きない現象が、ジュール熱。よく金属原子に電子が衝突するモデルが使われていますが、金属原子が熱運動せずに規則正しい結晶配列をしている場合は、電子波はそのまま通り抜けてしまい、ジュール熱が発生しません。やはり、金属原子の熱運動によるゆらぎが、重要なポイントになっているんですね。(ぼくの記憶では、この話を一番最初に聞いたのは岐阜物理サークルの石川さんの提言でだったと思います)

 

 また、こちらも専門的になりますが、波長の短い光ほど散乱が大きい、だから波長の短い青い光が散乱される、という高校の物理教科書に書いてある論法も、本当は間違っています。

 

 空気中の酸素や窒素の分子が散乱する光の強度は、電磁気の理論によればある振動数がピークとなります。そのピークは、可視光よりも高い振動数のところにあります。(*3)

 

 したがって、可視光の範囲では、そのグラフが振動数が増えるのに従って単調に増加することになります。その結果、青や紫の光の散乱が激しいという結果になります。

 

 だから、厳密に書くなら、「可視光については、波長の短い光ほど(つまり青い光は)散乱されやすい」とするべきでしょうね。

 

 なお、さきほど参照例にあげた「空の青、海の青」では、雲が白い理由も描きました。ミー散乱と呼ばれる散乱ですが、やはりネット上には、ややこしい計算式が書いてあるばかりで、本質が書かれていません。

 

 ミー散乱については、『ファインマン物理学2光熱波動』に、本質的な説明があります。その話については、かんたんな結果についてはマンガ「空の青、海の青」後編で、ファインマンが書いた本質的な解釈については、その解説文で書きました。

 

 皆既日食のときに見える赤い月はよく「ブラッドムーン」と呼ばれます。

 

 こちらは、基本的な原理が「レッドムーン」とは異なります。

 

 

 皆既月食のとき、地球の大気で屈折した太陽光が、真っ暗な月面をうっすらと照らすのですが、その太陽光は地球の大気中を長い距離進んできた光なので、やはり散乱で青い光が抜け、赤っぽい光になっています。その赤い光で月面が照らされるので、赤く見えるのです。

 

 したがって、皆既月食のときの月は、地平近くにあるとはかぎりません。皆既月食が見える場所により、月の高度は異なります。

 

 端的にいえば、レッドムーンは夕日の赤色と同じ、ブラッドムーンは夕日の光で照らされた雲や山の色と同じ、ということになります。

 

 どちらも、光の散乱が根本的な原因です。

 

 散乱に関するより深い話も含め、『さりと12のひみつ』第1話「レッドムーンのひみつ」に関係する「ミオくんと科探隊」の記事は、以下の関連記事のリンク先をご覧ください。

 

 

(*1)『物理学総論』堀健夫・大野陽朗共著 学術図書出版社

(*2)ミオくんとなんでも科学探究隊「空の青、海の青」後編解説を参照してください。

(*3)『ファインマン物理学』第2巻光熱波動岩波書店、『理論電磁気学』砂川重信著 紀伊國屋書店

 

 

 

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