書簡 中島敦

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中島敦全集〈2〉 (ちくま文庫)/中島 敦

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人の手紙を読むことはどこか、人の私生活を盗み見している感じがして趣味が悪い気がするが、興味深い作家の手紙はやはり興味深いとしかいいようがない。しかし、人の私生活を覗きたいという覗き趣味的興味ではなく、ある種、肉声が聞いている感じがしていい。また作家の飾り気のない声に耳を傾ける気持ちがして、僕は作家の手紙を読むことが好きだ。

中島敦の手紙はやっと読み始めたばかり。最初の手紙は大正十五年のもの。後に妻となる女性と関係のあった男性へあてて、なにやらせっぱ詰まっている思いをぶちまけれている。が、どこまでも誠実に文字を綴っている想いがつたわってくる。思いを寄せる女性に対する気持ちも。どこか切ない気がする。

文庫版の全集にこうして書簡がついているのは、得した気分だ。帰宅するとなかなか読書をする時間の持てない自分にとって、文庫版だと通勤電車の中で読めるのでたいへん便利だ。

筑摩文庫は最近、文庫版の全集を出してくれないが、今後もこつこつと全集を文庫本化してほしいと思う。折角漱石や龍之介の全集があるのだから、作品集だけでなく、日記やメモまでとは言わないけれど、せめて書簡ぐらいは文庫にしていただきたい。

ところで、中島敦。作品もすばらしいものが多いのだが、書簡も読ませる。
彼の書簡集は、子どもに宛てたものまで残っていて、こころあたたまる。
「おどる人 が たくさん いるだろう? 何人いるか、かぞえてごらん。」
それにしてもこの全集の二巻目は「わが西遊記」といい、この書簡集と言い、読書家にはおすすめだ。

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