私はお金を稼ぐ才能も意欲も乏しい人間なのですが、経済というものには興味があります。
お金は毎日使うものなのに、実は自分はその仕組みをよく知らない。
誰かが儲かれば誰かが損するのだから、世界中のお金の量は変わらないはずなのに、なぜ世界のお金の量は増え続けるのか?
お金はどこから生まれてくるのか?
国の借金は削減すべきだという人もいれば、いくら借りても大丈夫だという人もいる。人間が作っているシステムなのに、人間自身もその機能を理解仕切れないのはなぜなのか?
この本で著者はアメリカを中心として、その他6つの経済大国であるイギリス、中国、フランス、ドイツ、インド、それに日本も加え、その経済について分析しています。
(たぶん)ユニークなのは、「負債」に焦点を当てて分析していることです。
負債は要するに借金ということ。
ニュースで一番話題になるのは国の借金である国債かなと思います。毎日のように「赤字国債」と言う言葉を聞きます。
民間だと、せいぜいある会社が経営破綻したときに「負債〇〇億円」などといいますが、民間の借金についてのニュースは多くはありません。
しかし著者は、民間含めた社会全体の負債に注意を払うべきだといいます。
著者の主張は大まかには
・債務は経済成長に不可欠で、債務は本質的に増加し続ける。
・財政に対してあまりに債務が増えると、深刻な危機を招く。
・政府債務ばかり注目されるが、重要なのは民間債務である。そこに注意を払っていれば、日本のバブル崩壊もリーマンショックも予見できたはず。
・増えすぎた債務を削減するには経済成長では無理で、債務救済(借金棒引き)等の対策が必要。
といったものです。
こう書いてもあまり面白くないので、具体的に興味深かった点について少し書いてみます。
1 国の借金が増えた分、家計の利益が増える
ニュースでは、日本の借金が増え続けていることが毎日のように言われます。
なんだかそれは私たちの貧しさの象徴に感じます。
国民の収入が伸びないから、税収が不足する。
一方で、医療費等の社会保障関係費や防衛費は増大し続ける。
足りない分を赤字国債でまかない、国の借金が増える。
そのためさらに円安となり、外国への支払額も増える・・・。
イメージとして、国も国民も貧しくなっていっているように感じます
しかしデータの上では、本書で検討されている国々は、国の借金が増えた分、鏡のようにきっちりと、家計を含めた民間部門の利益が増えていることが示されます
意外でした。金融危機やコロナ禍では国民全体が危機に陥ったと感じますが、それを救済するため莫大な政府支出がなされた結果、民間の貯蓄は(家計も含め)大幅に増えているのです。
確かに、お金はどこかに消えることはないのだから、政府が借金したお金はすぐに支出され、結局はまた民間へ流れます。したがってその分民間の利益が増える。
考えれば当たり前のことなのですが、なんだか実感が伴わない。
その大きな理由のひとつとして、お金は最終的に主に株式と不動産に流れ込んで価値を押し上げますが、庶民は株式も不動産も大して持っていないことがあるようです。
したがって必然的に、格差も拡大し続けると指摘されています。
2 借金は増え続ける仕組みにあり、それにより経済も拡大するが、増えすぎれば深刻な問題を引き起こす
歴史上、社会全体の借金は増え続けており、それが経済を拡大させてきたことは歴史的な事実。
しかし、あまりに借金が増えると、反対に経済の伸びが鈍化したり、経済的な危機を起こしたりする。
原著の副題は「THE PARADOX OF DEBT」(負債のパラドクス)なので、本書の主要な論点はまさにここです。
ここで不名誉な証拠として挙げられているのは日本です。
政府・民間合わせた日本の総債務はこの本で分析されている7か国中、対GDP比でぶっちぎりの1位です(400%近い)。
これほど債務が増えたにもかかわらず経済は長い間成長しなかったことについて、
「日本の債務の増加は、もはや資産価値増大を保証してはいない。これは少なくとも過去100年間にわたりGDP成長を促してきた負債の経済学の枠組みが大きく崩れつつあることを意味するだろう」
と指摘されています(8章 借金漬けの経済に「出口」はあるか)。
借金の額自体が増えても経済の規模自体が大きくなっていれば問題ありません。でも、日本を含めた世界の借金は対GDP比としても増え続けています。つまり、レバレッジを広げ続けているということです。
いつまでもそれを続けることは、素人感覚でいっても無理というものです。
3 解決法 債務救済(借金帳消し)と永久通過
最後の9章では、増え続ける債務による破綻を避けるためのシステムについて筆者が簡潔に提案しています。
いくつかあるものの、メインは債務救済(借金帳消し)と「永久通過」。
いずれも大胆で議論を呼ぶものだと思います。
債務救済は、要するに借金帳消し。
知らなかったのですが、借金の帳消しは、古代エジプトやバビロニアの時代から広く行われていたとのこと。
古代イスラエルでは50年ごと、7回目の安息年の翌年に実行されていたそうです(9章「借金帳消し」)。
そういえば中学校で、日本にも「徳政令」というのを習ったような・・・。
こう書くと過激ですが、実際に社会で問題となる借金の多くは住宅ローン、(アメリカでは)医療ローンと学生ローン等なので、それらについて、帳消しというより一部を免除したり、将来の柔軟な返済方法を認めることが提案されています。
実はこれらは今でも「債務整理」「民事再生」「破産」として日本でも行われているところなのですが、これをより柔軟に使いやすくすればよいということだと思います。
永久通過というのは、いわば「利子もつかずお金も返さなくていい国債(のようなもの)」を政府が発行し、それを中央銀行が買い、通貨のように使うというものです。
???と思うのですが、最初から返さなくていい前提なのだから、借金ではないので経済を圧迫しない、ということのようです。
国債と違い、国は利払いも償還義務もないので、財政を圧迫しない。
でも素人からすると、これはまさに「財政ファイナンス」ではないか?とも思います。
財政ファイナンスは、中央銀行が、発行した貨幣で直接政府の債務を引き受ける(国債を買う)ことですが、根拠づけのない貨幣の量だけが増えることでインフレを引き起こす危険があると言われています。
著者もこの点、「永久通過の問題は、政府債務とは異なり、発行しすぎると現実のインフレを引き起こすことだ。したがって、政府や国家は、その使用に置いて規律を遵守する必要がある」といいます。
でも日本でいえば、少し前まで実際に日銀が無制限に国債を買っており、同じような状況だったわけですが、その時に規律なんてあっただろうか?
政府がそんなもの守れただろうか?
そう思うと、かなり疑問があります。
最後に少し話はそれますが、この本は翻訳がかなりひどい。
特に指示語や語順がいい加減なので、何を言っているのかよくわからない箇所がたくさんあります。
ごく最近の出版なのに、AIチェックくらいできなかったのかと思います。
出版社には考えてほしい。