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読んだ本についての感想文と日々の雑感

ぼくはこの船から降りることができなかった。だから、楽になるために残された道は、人生から降りることだった。一段、また一段、と。夢でできた階段。一歩進むごとに、それらの夢に、さよならを言ったのさ。
友よ、ぼくは気違いじゃない。救いを求めて楽になる方法をみつけようとしているかぎり、人間は気違いにはなれない。どん底からはい上がろうとする人間は、飢えた動物のように狡猾だ。狂気の入り込む余地など、ありはしない。そこにあるのは、神より与えられた素晴らしい知恵。幾何学的な完璧さだ。夢に蝕まれて、ぼくの魂はボロボロになりそうだった。夢に向かって歩めばよさそうなものを。ぼくにはそれができなかった。
アレッサンドロ バリッコ「海の上のピアニスト」

フィッツジェラルドは見事な才能を持つ作家だったが、器用な作家ではなかった。そして失意のうちに酒に溺れるようになった。しかし、作家フィッツジェラルドの素晴らしい点は、現実の人生にどれだけ過酷に打ちのめされても、文章に対する信頼感を失わなかったことにある。彼は最後の最後まで、自分は書くことによって救済されるはずだと固く信じていた。(中略)フィッツジェラルドは死の間際まで、しがみつくように小説を書き続けていた。「この小説が完成すれば……」と自分に言い聞かせていた、「すべては回復される」。
村上春樹「スコット・フィッツジェラルド——ジャズ・エイジの旗手」

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