長野市1991年 その三 | ScrapBook

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読んだ本についての感想文と日々の雑感、時々音楽のお話を

どうにかこうにか額に汗して、朝早くから、当日届いた新しい雑誌の梱包を開き、昼頃までかけて棚に並べ終える。たくさん届いている雑誌(たとえば時刻表など)は適当な数だけ店頭に並べ、置けないものはストックにしまっておく。片付け終わると、体はヘトヘトお腹はぺこペコである。

 

けれど、レジの当番に当たっていることもあり、すぐには昼食には行けない。1階のスタッフ(当然、ほとんどの人が先輩社員である)から指示を受けて、自分の休憩時間を確認する。雑誌を片付け終わりすぐに昼食に行ける日もあれば、商品の店出しに続きレジ当番(僕はレジスターという機械を打つのがとても下手だ。2年間打ち続けたが、しまいまで指一本でキーを打っていた!)になることもある(そうなると13時過ぎまで昼食に行けない)。そもそも僕は客商売に向かない。仏頂面なのだから。

 

さて、お腹を減らした23歳の男の子が向かう店である。まず一番に思い出すのが、書店から歩いて数分の場所にある、二階建ての建物(だったような?)の二階にあるABAB(アブアブ)という名前だったと記憶する、定食屋さん? 洋食屋さん? である。

 

結構人気のあるお店だから、階段まで順番を待つ客が並んでいる日もあった。カウンター席だけ(店舗内にテーブル席があったかどうか記憶にない。それにいつもカウンター席しか座ったことがない)のシンプルなレイアウトの飲食店である。カウンターの中には、30代後半と思しき夫婦?がふたりでお店を切り盛りしている。

 

座席に腰を下ろすと「オムライス、お願いします」、か「オムライスの大盛り、お願いします」しか、僕は声を出したことがない。ABABのオムライスは、そのデカさが半端ない。いわゆる普通サイズが、岩波書店から刊行されている四六判の漱石全集九巻「心」ぐらい、大盛りが同十二巻「小品」ぐらいの大きさと厚さの物が、大きな洋食皿に乗ってやってくる。

 

分量が多いのは主役のオムライスだけではない。ポテトサラダはパフェの生クリームのごとく高々と、そしてどっしりと屹立している(レタスだか、キャベツだかも添えられていたように記憶するが、オムライスとポテトサラダに圧倒されるだろう、普通は)。ケチャップライスを覆う黄色の卵焼きの表面を眺めていると、一皿、一皿、丁寧に作られているのがわかる。そんなオムライスである。いうまでもなく、うまい!

 

さて、そのとんでもない分量のオムライスの価格がまた驚きである。たしか、600円ほどではなかったか?大盛りでも100円増し程度の価格。いったいどういう経営をしているのか?と言いたくなる。最近でこそ、「デカ盛り」というのがブームになっているが、このABABという店は、デカ盛りの走りとも言えるかも知れぬ。もっとも、店主の、お客さんに腹一杯、美味しいものを食べてもらいたいというまっすぐな思いがその分量に表れたように思える(もちろん今になってみればということだ)。

 

時にABABが客でいっぱいであったり、定休日(さすがに何曜日が定休日か忘れたが)の時に僕の足は、いむらやという、あずきバーのメーカー名を思わせる、かた焼きそばで有名な店に向かうわけだ。かた焼きそば以外にも、餃子があったようにも思うがなにぶん記憶が定かでない。

 

いわゆる、あんかけかた焼きそばなのだが、ここの焼きそばは、町中華で出される物とは一味違う。麺はやや細麺を揚げているのだが、皿の上でもうぐちゃぐちゃにからまり、激しい混線状態である。その混線状態の皿に、いささか大ぶりのキャベツやら豚肉がごろごろ入った、甘めのあんがこれでもかとかけられている。あんが皿から溢れ出てしまい、滴っているのだ。先のABAB同様、この店も普通盛りがすでに大盛りという感じである。

 

はじめて食べる人は、いきなりその混線状態の、あんがどっぷり皿に箸を突っ込んでかいつまんでは口に運ぶだろう。それはそれで美味い焼きそばなのだ。だが、いきなり箸を皿に伸ばす前にテーブルに置かれた怪しげな黄色い液体に気がつくかも知れない。自分の周りを見渡すと、ほとんどの客(この店に来る大抵の客はこのかた焼きそばを注文する)は、焼きそばに、怪しげな黄色い液体をどばどばとぶっかけていることに気づくだろう。酢に辛子を溶いた液体をかけて食すと、これが不思議と中毒的な味わいに変化する。

 

この店の焼きそばはうまいのだが、そのうまさは、いまでいうB級グルメのおいしさのことである。こんな大量の、揚げた麺とあんを食べればたいていの人の胃袋はもたれる。が、ここでしか味わえない独特の、クセになるうまさ。また食べたくなるといううまさといえばいいだろう(こんな文章を書いていたら、なんだか食べたくなってきた)。

 

このかた焼きそばも5〜600円ほどの値段ではなかったか?

 

ちなみに、このいむらやというお店は権堂という場所にもある。だが、僕は自分が勤務していた南千歳にあった書店のすぐそばにある店の味の方が好きだった。路地裏にあるという店の立地や雰囲気が好きだったのかも知れない。

 

新幹線が開通してからすっかり感じが変わってしまった長野駅であるが、かつての駅に隣接していたMIDORIの地下街にある、なんとかという団子屋さんのくるみ団子や、種々のおやきも美味しかったな〜。

 

他にも思い出に残る店はたくさんあるのだけれど、次回は、僕がもっとも気に入っていたお店のことや、当時、僕がよく耳みしていた音楽について描いてみたい。