新しく出来たミュージック・カフェという噂を聞いて店のすぐ近くまでやって来たが、どうも様子が違う。外から眺めると今どきのスッキリしたガラス張りのオフィスビルで、1階に店があるような気配がない。
陽光がガラスに反射して中が見えない。看板らしきものもない。ホントに店があるんだろうか。



2023年12/6 開店。 
天井が高く広々とした空間にオーディオ機器が一式、なんの演出もなくシンプルにポツンと置いてある。 
かかる音楽はジャンルレス。入店した時はハイレゾ音源でSimon&Garfunkelが流れていたが、あまりに澄みきった音に驚いた。加工というか誇張が一切なく、かといって平坦なわけでもないなんとも自然な音。
 自分の好みの中低音を強調した濁り気味の音とは真逆で普段馴染みのない音だが、これは凄い音なのでは? あるいはハイレゾ音源のせいか?

複数のセレクターが日替わりでプレイリストを作成し、その順に流しているそう。リストを見せてもらうと、ハイレゾ音源だけでなくレコードもある! これはレコードを聴いてみたい!
で、リストの後ろの方にレコードでChic Coreaのカモメ(またはカツオドリ)があったが、かかるのは予定では5時間後。う~む………。
『ええ、いいですよ。先にかけましょう』


ハイレゾもレコードも質感はまったく同じ。音楽が始まる前の盤の微かなノイズがなければレコードだと気づかない。 
このアルバムを真剣に聴くのは久しぶりだったが、今まで聴いた中で最高の音。聴き慣れたアルバムでもいい店のいい音で聴くと、あらためて新鮮に感じることがたまにあるが今回もそれだった。何も考えず目を閉じて聴き入ってしまう。 
 スピーカーはSB-R1 (というものらしい)。 


床。スタッフの方に言われて気づいたが、タテ線とヨコ線がズレてるし、妙な位置に曲線が入ってる。
『この曲線はターンテーブルを模してます』
『タンテの回転に合わせてタテ・ヨコの線がピッタリ合い、そしてまたズレてゆくという意です』

店を出てからようやく気づいたが、ミュージック・カフェではなくカフェ併設のTechnicsのオーディオ・ショールームだった。 





 翌日、スタッフの方と少しお話。
① 元々の録音がいいものだけを用意している 
② ハイレゾ音源がメインで、レコードは盤質のいいものだけ 
→ これはよく分かる。音の方向性は吉祥寺 音吉MEGのスピーカーMosquito Neoに似ている。録音された音そのままの自然な再現。高解像度でも密度が濃すぎるような無理な感じはしない。
しかしその分、録音状態が悪ければ(最近のアルバムでもちょいちょいある)、録音のヒドさがストレートに音に出てしまう。 
 それはともかく、またレコードを聴かせてもらう。


録音のいいものならと思い、Steely Danの “Aja”か“Gaucho”をレコードで聴いてみたかったが、
『残念ですがありません。その代わりDonald Fagenの“The Nightfly”でどうでしょう?』 
もちろんそれで充分。当時の主流だった、音を重ね過ぎず余白があって圧迫感のないサウンドが見事に再現された。
ちょうど他のお客さんが途切れたので、図々しく両面を聴かせてもらったが、40分間集中して聴いてもなんのストレスも感じない。 

スタッフの方からオーディオ機器の簡単な説明。金額的にはこの一式で700万ぐらいなので現在のハイエンドの世界ではない。気に入ったしこれなら自分でも揃えてみようかと思ったが (← 嘘)、防音かつ反響音を防ぐオーディオ・ルームから作るとなると、一般リスナーにはとても無理か。
普段オーディオ・ショールームに行く機会はほとんどないが、こうした音に接するとコアなオーディオファンというのはたいへんな世界なんだろうなぁと他人事のように思う。 


〈蛇足〉
2021年に出て音がいいと話題になった竹内まりやのシングル“Plastic Love”。確かに音はいい。
いいのだけれど、近年の山下達郎はどうしてこんなにサウンドを分厚くするのだろう。音を詰め込みすぎて窮屈というか聴いてて息苦しく感じる。これが今の時代に即したサウンドということか。
もっともこれは単にリスナーの好き嫌いではあるのだけれど。