ずいぶん評判がいいことだし、ホントかなぁと思いながらちょっぴり期待して観に行った。
が、とんでもなくつまらなかったので、さっそく得意の悪口を。
制作費にたっぷり金を注ぎ込んでるみたいで映像は圧巻だし、音響も迫力があって素晴らしい。
なのだけれど、中身はただのファミリー・ストーリー。
この映画で描かれる範囲は、父親の強力(強引)な後押しにより兄弟グループJackson5が誕生する少し前から、Michael Jacksonが父親との確執を経て決別し、一人立ちするまで。
したがって、Michaelと父親との関係性がテーマになる。
したがって、Michaelと父親との関係性がテーマになる。
それはいいのだけれど、あまりに平板な家族像。
家父長制そのままに家族に強権を振るい続け、ついに大スターとなって兄弟グループとしての活動ではなく自身のソロ活動を展開しようとするMichaelに対し、家族を大切にしろとグループでの活動を強要する父親。一方でただただ子供たちを庇い守ろうとする母親。
こりゃあ、日本で昭和の頃にテレビで量産された安直なホームドラマの構図と同じだなぁ。
制作陣にとっては、ふんだんに金をかけてるし題材がMichaelだし何がなんでも大ヒットさせなくてはいけないということだろうが、そうなると誰でも分かるストーリー、つまりこんなに薄っぺらで類型的な内容になるということか。
ターゲットと見なした観客に合わせた、よく考えられた作品だと思う。
共感とカタルシス。
自分勝手な父親を頻繁に登場させ、観客をイライラさせる。今喋った台詞は1時間前に喋った台詞と同じなのでは?
こうなると、観客はどこかで大爆発、つまりカタルシスを得られる場面が来るはずと期待してストーリー展開に興味を持ち続ける。さらにテーマが家族間のことなので、自分に引きつけた共感を持ちやすい。
最近の映画ファンは、ここまで用意しないと最後まで映画を見続けることが出来ないと思われてるんだろうか?
文芸作ではなくあくまで娯楽作ということは承知しているが、人物像があまりに簡略化されており膨らみがない。
経済的に貧しい子だくさんの一家が貧困から抜け出すためには、子供たちの音楽的成功に賭けるしかなかった。そのため父親は息子たちをスパルタ方式で鍛え上げ、Jackson5として一定の成功を収めた。
しかし、兄弟の中からMichael一人が突出した存在になるにつれて、自分のコントロール下から離れてゆく。
映画では父親がMichaelの自立を阻む存在、(観客に分かりやすいように)徹底的に悪役として描かれているが、彼は富貴だけを得ようとしたのか。
映画の後半、さらに金を得ることだけを目的に大イベントを企画・実施する姿がわざとのように描かれる。さらなる富貴を得たいという気持ちはもちろんあったのだろうけれど、それと同時に彼にとってはあくまで家族一丸となって成功し、そして成功し続けることが本心から望んだことだったように思う。
父親の得意満面の笑顔と、Michaelが家族から離れてゆく時の哀しみ。
万人向けの映画なので、父親の内面のことなどもちろん描く必要はない。兄弟たちがどう感じどう考えていたのかの描写も一切ない。
観客に対する敬意もなければ登場人物に対する敬意もないと言えば言い過ぎか。
将来的にMichaelが大成功する下地は確かに父親が作った。しかし、Michaelにとってはあまりにも父親の精神的圧力が強く、健全な人格形成が出来なかったように思う。
Michaelは本質的に心根が優しい人だったのだと思う。動物を愛し、幼い子供たちや病気の子供たちを愛し。それがファンから親しみを持たれる彼の一面でもあった。
しかしそれは対等な人間関係ではなかった。
青年期に一人の人間として他者との対等な交流を持つ経験が出来なかった(またはとても少なかった)ように思う。大スターとなりながらどこか孤独の影がつきまとうのはそのせいか。
単純に娯楽映画として観れば、随所に出て来るライブシーンやミュージック・ビデオ制作の再現シーンなどよく出来ている。かつてファンの度肝を抜いたダンスやステップ、ムーンウォークのカッコ良さなど見どころもたっぷりある。 主役(Michaelの甥)も頑張っているし。
Michael Jacksonが亡くなってもう17年。彼のことをよく知らない音楽ファンも増えて来ただろうし、あらためてその存在を広く知らしめることが出来れば、この映画を制作した意義はあったと思う。実際に大ヒットしたわけだし。
それにしてもと思う。
あの偉大なMichael Jacksonも安易に商品として利用されるようになってしまった。
そして彼のファン、および音楽ファンもまた安易に娯楽として彼を消費するようになってしまった。
そこにミュージシャンに対する敬意はあるんだろうか?
大人気・大ヒットを背景にしてアメリカ音楽専門チャンネルMTVに、黒人ミュージシャンとして初めてオンエアされて旧弊に風穴を開け、後進の黒人ミュージシャンたちに大きく道を拓いたMichael。
ソウルやR&Bの粘っこい歌唱から距離を置くことで、ジャンルの垣根を無くした ″キング・オブ・ポップ“ Michael。
白斑症に悩まされ白塗りをしたことで、白人になろうとしていると非難されたMichael。
彼の闘いはレジェンドと気安く呼ばれたり、安易に消費されるような小さなものではない。




