ソウルメイト・ドラゴン③ 運命は「もし・・・」を超えた積み重ね
ソウルメイト・ドラゴン④未来は過去を手放した「今」から開かれる
ソウルメイト・ドラゴン⑥ 一見ネガティブな出来事にでさえ、最善の未来がある
ソウルメイト・ドラゴン⑧ この結婚生活は、仮面夫婦でセックスレス
ソウルメイト・ドラゴン⑨ あきらめが明らかに改まった時、光が見える
ソウルメイト・ドラゴン⑪ 神様が用意した束の間のドルチェヴィータ
ソウルメイト・ドラゴン⑬ 幸せは与えられるものではなく、自らが作り出すもの
ソウルメイト・ドラゴン⑯ 人は誰かにコントロールされるのを、本能的に嫌う
ソウルメイト・ドラゴン⑱ 私がここにいる意味は、きっときっとある
ソウルメイト・ドラゴン⑳ 愛されていることに、自信がありますか?
その頃 大阪城の慶喜は、どうにか自分が新政府の中に入り込めるよう根回しをしていた。
江戸では西郷が浪士達を集め、テロを起こした。
罪のない人達を巻き込み、強盗や殺人、暴行などの無差別テロだった。
さらに勢いに乗った彼らは、私のいる江戸城二の丸を含め、江戸城にも火をつけた。
江戸の人々は震えあがり、いつ自分のところに災難が降り注ぐかわからない恐怖に襲われた。
「西郷、どうしたと言うのだ・・・・・・」
怒りと困惑で身震いした私が思わず口にした言葉を聞いたものは、そっと顔を伏せた。
薩摩出身の私が彼らを非難することは、自分を非難することだからだ。
西郷の意図するところがわからない。
今や薩摩は「薩摩御用盗」と呼ばれ、江戸の薩摩藩邸が彼らのアジトになっていた。
罪もない江戸の人々を、非道な目にあわせることをどうして彼がするのか、わからない。
気持ちを落ち着かせるため、お茶を手にした。
熱い茶碗を手で包んだ時だった。
忠実な犬のような目をした西郷の顔が浮かんだ。
それは昔の西郷だった。
その時、胸に小石がぶつかったようにハッ、とした。
もしや西郷は、亡き義父上の遺志を貫こうとしているのではないか・・・
義父の島津斉彬は幕府を開き、新しい日本になることを強く望んでいた。
そのため私を家定様に嫁がせ慶喜を将軍にし、日本を開こうとしていた。
が、それは徳川がまだ力を持っていたからだ。
今の慶喜の存在自体が、新政府にとって邪魔だった。
新しい日本を開く妨げになっている。
慶喜から権力を奪い、発言力をなくすことで、西郷は旧幕府に口出しさせない新しい日本を作ろうとしているのではないか?
そして彼は徳川を排除することで義父の遺志を継ぐことになる、と思い、テロを起こしているのではないか?
西郷は自分が悪役となることで、わざと慶喜や旧幕府軍を挑発しているのではないか?
そう考えるとすべてのピースがパズルのように次々はまる。
手から茶碗が滑り落ちる。
濃い緑の茶が、畳の目に染み入り広がった。
私は大きく首を振り、心の中で叫んだ。
だめだ、だめだ、西郷!
そんなやり方で勝利を勝ち取っても、お義父上は喜ばない!
すぐに机に向かい、大奥を引退した幾島に手紙を書いた。
彼女に体調を尋ね、もしよければ再度江戸城に来てもらえぬか、と伝えた。
西郷のまちがった行いを止めなければならない、と思っていた矢先、旧幕府軍の堪忍袋の緒が切れ、彼らは薩摩藩邸を襲った。
それは、まさに西郷の狙い通りだった。
彼は旧幕府軍が新政府に戦いを挑んだ、という既成事実を作った。
これをきっかけに翌年1868年一月、鳥羽伏見で旧幕府軍と新政府軍の戦になった。
この時、新政府軍は燦然と輝く「錦の御旗」を掲げていた。
その旗は天皇からのお墨付きをもらった聖戦という証拠だった。
つまり新政府が天皇からの命を受けた官軍であり、旧幕府は天皇に歯向かう逆賊という位置関係になってしまった。
すべて彼らの思うつぼだ。
旧幕府軍を率いていた慶喜は
「たとえ城が燃え尽きたとしても、最後まで戦おう! 」
と皆に言い、兵士達の士気を上げた。
ところがその夜、彼は思いもよらない行動を起こした。
彼はわずかな側近を連れ、軍艦、開陽丸に乗り大阪城を逃げ出し、江戸に帰ってきたのだ
これには私も静寛院宮様も、唖然とした。
残された兵達は、逆賊の汚名をかぶったまま戦いで死んだ。
慶喜がやったことは、私達を江戸城に残していったのと同じだった。
あきれてものが言えなかった。
静寛院宮様とよくよく話し合った。
「ねぇ、どう思われます?
あの慶喜、一人だけおめおめと逃げだし、私達に仲立ちさせ天皇に赦しを乞う、ってすごい根性だと思いませんか?」
「ええ。ですが、慶喜も天皇には嫌われたくないのでしょう。
それに今、徳川を存続させるのは、あの慶喜をうまく使うしかありませんね。」
「そうそう、そこですのよ。
徳川宗家の存続を願うなら、慶喜の意のままに動くのではなく、私達が彼を意のままに動かせばいいのです」
私達の意見はまとまった。
女の結束力は強いのだ。
案の定、慶喜は静寛院宮様に泣きついた。
「私は天皇に歯向かう気など、さらさらございません! とお伝えください」
彼のふてぶてしい態度に静寛院宮様は嫌悪感を持ち、しばらく会おうとしなかった。
だが、これは私達の作戦だった。
すぐに彼の意をくみ取り朝廷に申し出たら、私達が慶喜になめられる。
これまでさんざん私達女を馬鹿にして、見下してきた彼をちょっと懲らしめた。
だから私が彼と静寛院宮様を仲立ちした、という形をあえて取ったのだ。
その方が、ありがたみが増す、ということだ。
これくらいはしてもいいだろう。
ずうずうしい慶喜は天皇に謝罪だけでなく、直に面談することなど条件もつけてきたけど、これは敢えてスルーしてやった。
そして静寛院宮様を通じ使者を立て、天皇に謝罪を申し入れた。
私は亡き義父に言いたかった。
「お義父上、あなた様が見込んだ男はこのような器でした。
やはり、私の夫、家定様が決めたことは正しかったのです」
今さらながら、家定様の思いと人としての器の大きさに改めて感じいった。
自分が信じた人を信じていてよかった。
信じることは、愛につながる。
私は庭に出て、夜空を見上げた。
暗い夜空にたくさんの星々が瞬いていた。
「家定様、あなたは正しかった。
あなたは人を見る目をお持ちでした」
夜空に向かい、しみじみ遠い空の向こうにいる家定様に語りかけた。
星達はただ輝きながら、静かに私の声に耳を傾けた。
家定様の姿形はもうこの世にはない。
だが家定様は私のそばにずっとおられる。
見えない家定様がそっと私の肩を抱き寄せたように、肩のあたりがほんのり温かかった。
「徳川宗家、何としてでも残しますよ。
次の世代へのバトンを渡しますからね。
見ていて下さいね」
改めて誓った。
慶喜の件はこれで収まったかのように見えた。
しかし、西郷の考え方はちがった。
彼は何としても徳川の息の根を止めたい、と願っていた。
西郷はもう一度徳川がよみがえった時、慶喜が逆襲することを心から怖れていたのだ。
怖れは先に持ったものを追い詰める。
だが彼のそこまでの強い思いをこの時の私達には、まるでわかっていなかった。
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あなたは自分を信じていますか?
誰かを信じることは、自分を信じる事です。
そこには愛があります。
信じていられるのは、愛があるからです。
あなたに愛、ありますか?
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