「お前が男だったら、よかったのに・・・」
兄と喧嘩をし彼を泣かせた後、肩を落とした父がため息とつぶやいた。
生まれてからずっと耳にタコができるほど聞き続けたその言葉を聞くたび
「ほんと、そう!!」
と、私も強く拳を握りうなずいた。
がその後、いいかげんにしろ!と父の怒声が響き、一目散に逃げるのだ常だった。
私が生まれたのは、天保六年。
徳川様の治める時代だが、異国の船がやってきて大騒ぎになった。
島原で大規模な百姓一揆が起こるなど、これまでなかったことが起こり始めた。
まるで長い開いた眠っていた龍が目覚めたようだ。
身をよじるような新しい時代の波を肌で感じ、私はワクワクした。
その流れに乗るように三人の兄達は、学問や剣術を学び、来るべき新時代に向け意欲的だった。
兄の友人達も、みなピチピチ飛び跳ねるような若さと元気で、この国の未来を真剣に論じていた。
子供の頃は一緒に駆け回って遊んだ仲間だったのに、今は目に見えない境界線を張られ輪に入れない。
ふてくされた私は、女に生まれてつまら~ん!と足をバタバタさせ、体中で不満を訴えるが、見向きもされない。
それよりも姫様は、と強く手をひかれ、針の稽古をさせられる。
「於一(おいち)様、お手が止まっておりまする!」
乳母にパチン!と手を叩かれた。
「痛ったぁ~!」
そのはずみで針がチクリと人差し指を刺した。
ぽつん、と刺しただけなのに、指の腹から赤い血が流れ出したから、思わず口に含む。
「また、そのような行儀の悪いことを!!」
眉を大きくへの字に上げた乳母が、口をゆがめた。
「大っ嫌い!お裁縫なんて!
私もお兄様達のように学問や剣術を学びたい!
どうして、女はお裁縫や行儀作法ばかりやらされるの?
こんなのつまんない。
楽しくもなんともない!」
縫いかけていた浴衣を放り投げ、叫んだ。
乳母は大きくため息をついた。
「於一様は、女です。
女はどこかの殿方様のところに、嫁がなければなりませね。
今泉家は分家ではございますが、薩摩藩主島津家のご一門。
その長女である於一様は、それなりの格式ある家に嫁がれます。
その時に裁縫ができていなければ、この今泉の家が恥をかきまする」
ふん、と思い切り頭を右にまわした。
「裁縫で家が恥をかくくらいなら、そんな家に輿入れなどしたくないわっ!
もういいっ!!」
乳母を無視し、立ちあがって部屋から駆け出した。
「於一様~~~!」
私の名を呼ぶ悲痛な乳母の声は、私に心にこれっぽっちの罪悪感も落とさない。
長い廊下を走りながら、天に問うた。
どうして女というだけで、生き方を決められてしまうの?
そうして女というだけで、夢をあきらめ、嫁に行かねばならないの?
廊下から庭に飛び降り、門を駆け抜け、外に出る。
走りすぎて息が切れた。
足を止め
「あ~、むしゃくしゃする!」
理不尽な思いを口にし、足元の石ころを右足で蹴とばした。
石ころは五メートルほど先まで飛んで行った。
私より石ころの方がよほど自由だ、と羨ましく思い、息を整えゆっくり歩き始めた。
目の前には、手を広げたような青い海が広がっている。
その向こうには、ほっこりそびえる桜島がある。
私も兄上達と同じように、瞳を輝かせ未来の可能性を夢見たいのだ。
嫁に行って家に閉じ込められるより、もっと何か大きなことをしたいのだ。
大きなこととは、具体的に今は何かわからないが!
十七歳という年齢は、嫁入りには遅い年だとは思う。
父上も母上も、やんちゃな私の嫁入り先を探すのに苦労している事は知っている。
だが実際、これまでもいくつか結婚の話はあったのだ。
しかし私が見向きもしなかった事プラス父上が私を離したくなかったイコールまとまらない。それだけだ。
私は手がかかる娘だと十分自覚している。
が、女にしておくにはもったいない未来の可能性をたくさん秘めているのは、父も知っていた。
だからこそ、追い出すように嫁がせるわけにはいかないのだ。
「あ~、もったいない!もったいない!」
また本音を吐いてみた。
ほんと、もったいない。
私、やる気もあるし、根性もある。
美人ではないが目鼻立ちはしっかりし、性格はサバサバし健康だ。
たぶん、スタイルも悪くはない。
何より有り余るほど身体の内側から湧き出るパワーがある。
うん、それはわかる。
が、このパワーをどう使えばいいのか、わからない。
わからないから、イライラする。
でも、このまま一生を終えるのはいやだ。
このパワーを持て余したまま、嫁に行き家に閉じ込められたくなんぞない!
そんなのおかしい!
そんなのナンセンス!!
私に何かやらせろ!
改革だ!
レボリューション!!
対岸にある目の前の桜島に向かって叫んだ。
口にしたことでハッキリわかった。
私が望むのは、退屈な毎日からのレボリューション!
朝目覚めた時に、世界がくるり!と一変しているような出来事。
私の天命は何だ?
私の運命を変える天命をつかみ、私は私の世界を変えたい。
そこで私は生き生きと自分の人生を切り開き、堂々と生きるのだ。
そんな世界に行きたい。生きたい。行く!生きてやる!
そこまで両肩に力を入れ、こぶしを握り締めたが、はた、立ち止まる。
ちょっと待った。
この薩摩で私に何ができるというのだ・・・
女がいつも這いつくばい男を立てさせるこの地で。
急に弱気が汗のように脳内から染み出る。
それでも私はあきらめたくない!
レボリューションを起こしたい!
起こすのだ!
息巻いていたら、道の向こうから乳母が走ってきた。
「於・一・さまぁ~~~!」
おいおい、また裁縫かよ?!ご勘弁を・・・・・
背中を向け逃げ出そうとした時、両脇をがしり、と家来達に挟まれた。
「な、なにごと?」
「いえ、こうしませんと、於一様は逃げだしそうな勢いでしたので・・・・・」
家来達は冷や汗をかき、ズルズルと私を父上のところに運んだ。
連れて帰られた私は父上の部屋に進むと、畳の上で父上は腕を組み目を閉じていた。
すぐそばに母上も控えていたが、なぜかその場は異様な緊張感に包まれていた。
は、は~ん、これはまた嫁入りの話がきたな。
二人の様子を見て、ピンと来た。
そして私は前のめりになり目を大きく見開き、断固拒否する姿勢を取った。
目を開いた父上は私に目をやることなくふぅ、と大きなため息をついた。
「於一、そなたに島津家本家の薩摩藩主島津斉彬様のところに養女に行ってほしい」
なんですと?!
予想外の言葉に頭が追い付かず、あの字に口が開く。
「これ、みっともない」
母上が小さく叫ぶ。
慌てて口を閉じると、障子の向こうでのどかに烏が鳴いた。
藩主の島津斉彬様は、ずいぶん年の離れた私の従兄だ。
だが我が家は島津一門の分家で、島津斉彬様の家臣だ。
その家臣の娘が藩主の養女とは、いったいどういうことか。
理解不能で、頭がくるくるしてきた。
「父上、それはどういうことでしょうか?」
また大きくため息をついた父が言った。
「斉彬様はそなたを、江戸におわせられる第十三代将軍の徳川家定様のご正室に、と望んでおられる。有り余る光栄だ。謹んで受け取るように」
一瞬頭がスパークして、火花が飛び散った。
はぁ?何をおっしゃいました?
この私が、江戸にいる将軍の妻に嫁入り?!
この薩摩から?!
私の運命を一変させた思いがけないレボリューションは、こうして幕を開いた。
天命を載せた龍が降りてきた瞬間だった。
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