ソウルメイト・ドラゴン③ 運命は「もし・・・」を超えた積み重ね
ソウルメイト・ドラゴン④未来は過去を手放した「今」から開かれる
ソウルメイト・ドラゴン⑥ 一見ネガティブな出来事にでさえ、最善の未来がある
ソウルメイト・ドラゴン⑧ この結婚生活は、仮面夫婦でセックスレス
ソウルメイト・ドラゴン⑨ あきらめが明らかに改まった時、光が見える
ソウルメイト・ドラゴン⑪ 神様が用意した束の間のドルチェヴィータ
ソウルメイト・ドラゴン⑬ 幸せは与えられるものではなく、自らが作り出すもの
ソウルメイト・ドラゴン⑯ 人は誰かにコントロールされるのを、本能的に嫌う
遠くから見ると、実に私達はよく似ていた。
和宮様は、御所風のやり方を大奥で通せるように私をコントロールしようとし、私はこれまでの大奥でのしきたりややり方を通せるよう和宮をコントロールしようとしていた。
似たもの同士だった。
お互いが鏡の役目をしていた。
当然、当時はそんな事に気づかない。
何年も後になって
「あの時は私達、火花バチバチですごかったわよね~!」
と笑い合ったが、そんな余裕なんてなかったのだ。当時は。
どちらも自分がマウントを取りたかった。
私は和宮様のことを当時こう呼んだ。
「山より高い、和宮様のプライド」
それに対して、彼女は
「誇りをたたく、薩摩の姑」
よさげすむ。
今となれば笑い話でしかないが、この時の私達の対立はかなり深刻だった。
大奥を巻き込み、枯れた野原につけた火のごとくどんどん燃え上がり広がった。
燃え盛る火を消し止めたのは、幾島だった。
ある時、届いた和宮様から私宛の贈り物。
「天璋院へ」と呼び捨てで書かれた宛名を見た侍女たちが騒ぎ立てた。
「お義母様である天璋院様を呼び捨てにするなど、なんということでしょう!」
怒りでブルブルと震える姿を見て、幾島がため息をついて言った。
「一般的な嫁姑の関係からすると、失礼なことです。
ですが和宮様にしたら、それが違和感なく当たり前のことかと存じます。
大変失礼なことを申し上げますが、位で言いますと皇族である和宮様の方が上なのです。
ですから和宮様は意地悪や邪なお気持ちで、このようなことをしたのではありません。
和宮様の中で、これは当然のことなのでございます」
幾島の答えが、私の目と心を見開かせた。
目についていた無数のうろこがごっそり剥がれた。
「なるほど・・・
誰もが自分の考えややり方は正しい、と思っている。
私もそうであった。
つまり、自分の常識は人の非常識、ということだな」
その通り!と言わんばかりに、滝山は膝を打った。
「さすが、天璋院様!
まさにその通りでございます。
ましてや和宮様はこれまで皇宮でお住まいになられ、世間一般の暮らしとはかけ離れた生活をしておられたのです。
そこでのしきたりややり方が、和宮様の常識でございます。
長く慣れしんだそれらは徳川に嫁いだとは言え、すぐに変わるものではないでしょう。
甘いかもしれませんが、もう少し長い目で見て差し上げたらいかがでしょうか?」
「そうだなぁ」
幾島の言葉は和宮様にとげとげしい気持ちを持っていた私の心を、平らかに包んだ。
彼女も嫌々ながら、龍の背に乗ってここに運ばれてきた。
幼い頃から「この人」と決められた愛するフィアンセとのご縁を断ち切られ、死にたいほどの思いだったに違いない。
それでも生きながらえ、徳川に嫁いでくれた。
私のように、誰も愛する人がいなかった身の上とはちがう。
この日から改めて和宮様を、これまでとちがう眼差しでみるよう努力した。
そんな中、少しずつ和宮様と家茂様は愛を育んでいった。
私はそれが、何よりうれしかった。
二人が並んで言葉を交わす姿は、一対のひな人形のようだった。
少女のように恥ずかしそうに頬を赤くし、家茂様と話しをする和宮様。
そんな和宮様をあたたかく愛を込め、見守る家茂様。
この光景は、どこかで見たことがある、と思った時だった。
甘い香りに彩られた懐かしい思いが、突然胸に流れ込んだ。
思い出した。
それは私を見つめていた家定様と同じまなざしだった。
大奥を敵にし一橋慶喜様を跡継ぎにするため嫁いだ私を知りながら、すべて受け入れ、大切な秘密を話してくれた家定様。
大きな大きな愛だった。
「御台」
家定様の声が聞こえた。
「御台、何をしょうもないことで意地を張っている?
大切なのはそこではないだろう?
この国の平和ぞ。未来ぞ。
そのために、私もそなたも龍に運ばれてきたのだろう?」
ハッ、と夢から醒めたように背筋が伸びた。
これまで、大切なことを忘れていた。
目先の些細なことしか見ず、どこを見ていたのか、と自分を叱咤した。
ようやく気づいた。
私のお役目と、和宮様のお役目は同じだ。
どちらもやり方は違えど、この国のより良き未来のためだ。
それなのに小我に気を取られ、大我を見過ごしていた。
大切なのは、私のプライドやしきたり、やりかたなどではない。
もっと大きな大我。
この国の未来だ。
それを思い出し胸は震え、涙が込み上げた。
「お義母様、いかがされましたか?」
家茂様が、不安そうなお顔で私を見ていた。
そばにいる和宮様も、私の様子に驚き言葉を失っている。
「いえ、お二人の仲が良いのを見て、うれしいのです。
私と家定様のバトンをあなた達が受け取ってくれて、心から感謝しています。
お二人の婚姻はいろんな思惑によって成されたものですが、その先にはこの国の未来があります。
お二人が、この国の平和な未来の礎になると思うと胸がいっぱいになりました。
和宮様、本当にありがとうございます」
和宮様に頭を下げた。
これまで対立していた姑の私が頭を下げたことに、驚いた和宮様だったがおずおずと頭を下げた。
この日を境に私達は、少しずつ心を通わせていった。
それからしばらくし、幾島が宿下がりを申し出た。
幾島は病にかかっていた。
私は幾島の申し出を承諾し、幾島は徳川を去って行った。
去っていく幾島の背中を見ながら、一つの時代が終わるのを感じた。
何もかも変わっていく。
移り変わる。
小我を手放した時、大我はその姿を現す。
成すべきことが見えてくる。
幾島の退出は二百五十年以上続いたこの国の歴史が、新しいページを繰って大きく変わるプロローグだった。
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あなたは、小我に囚われていませんか?
あなたが本当に成すべきこと
そして心からの望みや願いは何でしょう?
あなたの目指す大我は何でしょう?
今の目先の小我を手放した時、あなたの大我が見えてきます。
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